第54話「炎は誰のものか」
会議場の空気は重かった。
帝国の黒。
協議会の蒼。
外洋の群青。
そして白炎教団の白。
四つの旗が、同じ円卓を囲む。
白炎教団の代表――
名をセラフィナと言った。
その声は静かで、澄んでいる。
「利子は罪です」
開口一番だった。
「金が金を生む構造は、人を縛る」
ヴェルドが穏やかに返す。
「利子は時間の価値です」
「時間は神のものです」
セラフィナは即答する。
空気が張り詰める。
カイナが肩をすくめる。
「うちは利子なんて取らないよ。
その代わり信用も保証もしないけどね」
アレクシスが静かに観察する。
レオンは、セラフィナを見る。
「あなた方は、秩序を否定するのですか」
「違います」
「神の秩序を求める」
「人の秩序は傲慢です」
レオンは、ゆっくりと答える。
「傲慢かもしれません」
「ですが」
「人は、人の責任で決めなければならない」
セラフィナの瞳が揺れる。
「責任?」
「失敗も含めてです」
「神に預ければ、迷いは消える」
「だが選択も消える」
沈黙。
帝国は恐怖で安定させる。
宗教は信仰で安定させる。
どちらも「迷い」を減らす。
レオンは続ける。
「協議会は迷いを残す」
「だから重い」
「だが」
「選ばれる可能性を残す」
セラフィナが問う。
「飢えた者に、選択はあるのですか」
鋭い問い。
会議場が静まる。
レオンは正面から受ける。
「ないこともある」
「だから制度を作る」
「だが神の名で奪うことはしない」
セラフィナの声が少しだけ強くなる。
「奪うのではない」
「導くのです」
「導かれた先で、違うと気づいたら?」
「それは信仰が足りない」
その瞬間。
アレクシスが初めて口を開いた。
「恐怖も信仰も、迷いを嫌う」
全員の視線が集まる。
「だが帝国も知っている」
「迷いを抑えすぎれば、爆発する」
ヴェルドがわずかに目を細める。
セラフィナは黙る。
カイナが笑う。
「海は迷いだらけだよ」
「風も潮も気まぐれだ」
「でもだから面白い」
レオンは静かに言う。
「炎は誰のものですか」
セラフィナが答える。
「神のもの」
「では」
レオンは続ける。
「その炎で焼かれるのは、誰ですか」
沈黙が落ちる。
白炎教団は貨幣を否定する。
利子を否定する。
国家を否定する。
だがその先にあるのは――
単一の正解。
レオンは立ち上がる。
「世界基準会議は、単一を決める場ではありません」
「並べる場です」
「恐怖も」
「信用も」
「流動も」
「信仰も」
「並べる」
セラフィナの瞳が揺れる。
「神と並ぶと?」
「並びます」
静かな宣言。
「神を否定しない」
「だが人も否定しない」
会議場の空気が変わる。
帝国も。
外洋も。
宗教も。
初めて同じ高さに立つ。
セラフィナはしばらく黙り、
やがて小さく言った。
「……ならば問います」
「利子を許す世界で、救われぬ者をどうする」
レオンは即答しない。
それは重い。
だが逃げない。
「制度で救えない者を減らす」
「完全ではない」
「だが」
「選び直せる世界を残す」
炎が揺れる。
四つの思想が、ぶつかる。
砲撃はない。
だがこれは戦争だ。
世界秩序の、思想戦争。
そして今。
誰も退かない。
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