第53話「白い炎」
爆発は大規模ではなかった。
倉庫の一角が焼けただけ。
死者はいない。
だが――
象徴としては十分だった。
煙がまだ上がる港の外れ。
瓦礫の中に、奇妙な紋章が残されていた。
白い円環の中に、三つの炎。
カイナが眉をひそめる。
「見覚えあるね」
カイロスの目がわずかに細くなる。
ヴェルドは静かに呟く。
「……白炎教団」
ざわめきが走る。
エリスが小声で問う。
「宗教勢力ですか?」
レオンは頷く。
「大陸西方の宗教連合」
「通貨も国家も否定する」
アレクシスが静かに言う。
「“神の秩序”のみが正しいと説く」
爆発は宣言だった。
――世界の基準を、人が決めるな。
港の外。
白い法衣の一団が姿を現す。
先頭に立つ女。
長い銀髪。
透き通る瞳。
燃えるような静けさ。
「我らは白炎教団」
声は澄んでいる。
「秩序は神のものである」
兵が構える。
だがレオンは手を上げ、制する。
「ここは会議の場です」
女は静かに答える。
「だから来た」
沈黙。
「恐怖も」
「信用も」
「流動も」
「すべて人の傲慢」
カイナが鼻で笑う。
「神様は海を渡ってくるのかい?」
女の目が揺らがない。
「信仰は境界を持たない」
ヴェルドが小さく言う。
「厄介ですね」
帝国は恐怖で支配する。
協議会は制度で守る。
外洋連盟は流れで生きる。
だが宗教は――
理屈を拒む。
「世界基準会議は中止すべきです」
女は告げる。
「基準は唯一」
「神の炎のみ」
カイロスが低く言う。
「ここは帝国圏だ」
「信仰は圏を持たぬ」
空気が張り詰める。
ガルドが剣に手をかける。
だがレオンは一歩前へ出る。
「あなた方は、何を望む」
女は即答する。
「貨幣の廃絶」
「利子の禁止」
「神官による裁定」
港がざわつく。
それは経済の否定。
ヴェルドの目が鋭くなる。
「経済秩序の破壊ですね」
女は静かに微笑む。
「救済です」
その言葉は柔らかい。
だが刃だった。
アレクシスがレオンを見る。
「どうする」
三極会議は、四極になった。
帝国。
協議会。
外洋連盟。
宗教連合。
世界は、単純ではなくなった。
レオンはゆっくりと言う。
「会議は続行します」
白炎の女の目が、わずかに揺れる。
「爆発で止まる秩序は、基準にならない」
静かな声。
だが揺らがない。
カイナが笑う。
「いいね」
ヴェルドは微笑む。
「面白い」
アレクシスは、静かに呟く。
「世界は、混沌を選んだ」
白炎の旗が、港に翻る。
神の炎。
恐怖の旗。
信用の印章。
流動の帆。
世界基準会議は、
世界秩序戦争へ変わった。
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