第33話「最初の離脱」
発表は、正午だった。
カルディア王都の広場。
リオネル・カルディアは、民衆の前に立っていた。
顔色は優れない。
だが、声は震えていない。
「我が国は」
ざわめきが止む。
「帝国通貨を、限定的に採用する」
広場が揺れた。
「港湾使用に関する暫定合意を締結する」
言葉が、空気を裂く。
「これは、戦争を避けるための措置である」
守るための選択。
だがそれは――協議会の亀裂だった。
同時刻。
グランデル。
エリスが、報告書を握る。
「……発表されました」
レオンは、目を閉じる。
「内容は?」
「帝国通貨の部分採用」
「港湾の共同管理」
「協議会からの離脱は?」
「明言していません」
「ですが……」
実質的な離脱。
円卓は、割れた。
ノルディクス代表からの緊急通信。
「これは致命的だ」
声が荒い。
「市場が動く」
東方自治連合からも。
「我が国にも圧力が強まる」
会議室に、重い沈黙が落ちる。
ユリウスが、低く言う。
「止められなかったか」
レオンは、正直に答える。
「止められませんでした」
ガルドが、机を叩く。
「これで連鎖だ」
その通りだった。
一国が折れれば、
他も考える。
信用は、強制できない。
夜。
カルディア港。
帝国の旗が、隣に掲げられる。
完全征服ではない。
だが象徴は強い。
リオネルは、埠頭に立っていた。
そこへ、カイロスが歩み寄る。
「賢明な判断だ」
「賢明かどうかは、歴史が決める」
リオネルは、視線を逸らさない。
「民は守られる」
「守られるが、選ばない」
その違いを、リオネルは理解していた。
だが今は。
生きる方を選んだ。
一方。
グランデル。
レオンは、高台から海を見ていた。
「……これで分かった」
エリスが、静かに問う。
「何がですか」
「信用は、理念では足りない」
一拍。
「守る力がなければ、選ばれない」
遠く、黒い旗が揺れる。
帝国は、強制していない。
選ばせている。
恐怖を前提に。
「次は?」
エリスの声。
レオンは、ゆっくりと答える。
「防衛の設計です」
これまで、彼は秩序を設計してきた。
だが今。
秩序を守る仕組みを、設計しなければならない。
協議会は、初めて血を流していないのに傷ついた。
そして帝国は、まだ何も失っていない。
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