第101話「それでも人は選ぶ」
海は、静かだった。
あの嵐のような混乱が嘘のように。
風は穏やかで、波も低い。
グランデルの港は、ゆっくりと日常を取り戻していた。
「……落ち着いたな」
ガルドが腕を組む。
「ああ」
カイナが笑う。
「完全じゃないけどね」
その通りだった。
完全ではない。
航路はまだ揺れる。
情報も、完全には安定していない。
だが。
「止まってない」
エリスが言う。
港を見ながら。
船が出ていく。
戻ってくる。
迷いながら。
それでも。
動いている。
「……選んでる」
小さく呟く。
レオンが隣に立つ。
「そうだ」
短い言葉。
エリスは少しだけ笑う。
「……間違えることもあります」
「あるな」
「でも」
一拍。
「戻れる」
レオンは頷く。
「それでいい」
沈黙。
だが、それは重くない。
風が抜ける。
港の音が広がる。
その時。
遠くで声が上がる。
「航路、修正完了!」
「次便、問題なし!」
笑い声。
会話。
日常。
エリスは目を細める。
(……終わったんだ)
完全な勝利ではない。
完全な平和でもない。
だが。
「……変わった」
確かに。
何かが。
レオンが言う。
「記録院は消えていない」
エリスは頷く。
「はい」
「また来る」
「はい」
一拍。
「それでも」
エリスは言う。
「やります」
迷いはない。
もう。
逃げない。
レオンは少しだけ笑う。
「そうだな」
その時。
カイナが声を上げる。
「おーい!」
振り向く。
彼女が手を振っている。
「船、出るよ!」
エリスが目を瞬く。
「え?」
「新しい航路」
カイナが笑う。
「試すんでしょ?」
一瞬。
そして。
エリスも笑う。
「……はい」
レオンが言う。
「行くぞ」
三人が歩き出す。
港を抜けて。
船へ向かう。
その途中。
エリスがふと立ち止まる。
振り返る。
港。
人々。
動き続ける世界。
(……大丈夫)
そう思える。
完全じゃなくても。
揺れていても。
「……進んでる」
小さく呟く。
そして。
前を向く。
船に乗る。
帆が上がる。
風を受ける。
船が動く。
海へ。
新しい航路へ。
その先に何があるかは、分からない。
また迷うかもしれない。
また間違うかもしれない。
それでも。
「……選ぶ」
エリスが言う。
レオンが頷く。
カイナが笑う。
船は進む。
揺れながら。
それでも。
確かに。
進み続ける。
それが。
この世界だった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この物語は「正しさ」ではなく、「選び続けること」を描いてきました。
もし少しでも心に残るものがあれば、ブックマークや評価で応援いただけると嬉しいです。
またどこかで、この世界の続きを描けたらと思います。




