激化する戦場
遂に始まってしまった旧世界人の生存をかけた戦い。サキ(トシキ)達は負けると旧世界人全てが死ぬというプレッシャーに襲われながらも、旧世界を守るため必死に戦う。
が、遂に“世界を再生する者達”の幹部達が動き出す。
幹部達と、サキ達の最後の戦いが始まる。
旧世界 トバ火山付近
“世界を再生する者達”と旧世界の魔法使い達の戦いが遂に始まってしまった。爆発音や、金属がぶつかる音などがその場に響き、人々の雄叫びが聞こえる。
「1番隊から抜けた奴らを6番隊が止めろ!!」
と、髭を生やした将軍、ガイの声が響き、伝令が向かう。ガイの伝令通り、6番隊が1番隊のフォローに入っていった。
「7番隊にも同じ指令をだせ」
と、ガイの近くにいた兵士に言う。伝令が一礼し、7番隊の方に向かっていった。
「…ただ向かってくるだけなのか?」
と、ただ一心に自分達へ向かってくる“世界を再生する者達”を見て、ガイが不審に思う。数で圧倒しているだけで突進しかしてこないのも、戦略と言えば戦略だが、何か引っ掛かる気がする。
「何かあるやもしれんな」
と、ガイ。
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世界を再生する者達サイド
海岸に止まる方舟から、地上の戦いをマントを羽織ったマゼランが見下ろしていた。
「…何故これ程の敵がここにいる」
と、目の前に広がる予想外の光景に呟いた。マゼランは、ここを楽に支配し、余裕をもって火山を噴火させるつもりでいた。自分達への被害も最小限に抑えた計画だったのだが、この状況である。被害が最小限に抑えれたとしても、予想を遥かに超える痛手である。
「…旋風の雷か?」
と、白いローブを羽織った少女が自軍の兵達をなぎ倒していく。
「いかにヤツとて限界がある。情報が漏れたと考えるべきか。」
と、冷静に判断するマゼラン。漏れない様にしたつもりが、何処かで漏れていた。それが、ヴァニタスのせいだと知るものは、組織の内部には誰もいない。
「…」
何も言わず、指を鳴らすマゼラン。その瞬間、幹部達がマゼランの元に集う。
「ヴァニタスはどうした?」
と、ヴァニタスが足りないことに気づく。
「さぁ?知りません」
と、シュバルツ。他のメンツも知らない様な素振りを見せた。
「…まぁいい。何処かで情報が漏れていたせいで、この状況だ。」
と、舟の下に広がる光景を見せた。
シュバルツ達はその光景を見つめた。
「兵達だけを今は出しているが、おかげで犠牲が大きくなるだろう。」
と、マゼラン。
「お前達にもいずれ前線に出てもらう」
と、幹部達に声をかけた。幹部達はそれぞれ頷き、散っていった。
「舟の浮上準備だ。」
と、マゼランが号令を出した。
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サキ・サイド
サキ達はつかず離れずの距離で、自分達に向かってくる兵達を迎え撃っていた。ただ、数が多く厳しい状況だった。
「…このままじゃやられるのは時間の問題だ」
と、兵達を倒しながら周りを見回してみるサキ。
周りには、兵士達ばかりである。魔戦車の姿は見えない。
「カガリ、アイギス!時間を稼いでくれ!!」
と、2人に言ってサキが本陣近くに退がった。
「うむ。」「わかった!」
と、サキの抜けた穴に2人がフォローに入った。
カガリがチラッとサキの方を見た。
「…お願いします」
と、ガイに何かを頼んでいる様だった。
(何をする気なんじゃ?)
と、カガリ。
もう一度見てみると、サキは詠唱を始めており、足元に魔方陣が顕れていた。
「何かする気じゃ。アイギス、将軍の言うことに従った方がサキのためになるぞ」
と、アイギスに注意を呼びかけた。ガイに話してサキが詠唱をしているのなら、ガイが何か言ってくると判断した。
「うん、わかった!」
と、言って兵達を殴り倒すアイギス。
「我が主に指一本触れさせぬぞ!」
と、アイギスを見て昂ってくるカガリ。
組織の兵達をカガリの炎が飲み込んでいく。
(おぃおぃ…オレの分残しとけよ)
と、2人の勢いに嬉しいような、何か複雑な感じになり苦笑いしたサキ。
「3、4、5番隊は陣形そのままで本陣付近まで後退!0番隊は、隊長付近を固めろ!」
と、ガイ。
すぐに兵達が動き、凹の真ん中が後退をし始めた。霊紗達もサキの周辺に集まる。
「敵が後退した!追撃するぞ!!」
と、組織の兵達がドンドン真ん中に集まってきた。
「…へっ」
と、笑うサキ。
風の領域で、兵達が真ん中に密集して来ているのがわかった。
「皆下がれれぇぇ!」
と、叫ぶサキ。
味方の兵達はサキの後ろに回った。
「?」
と、兵達は訳がわからず動きが鈍る。
「吹き荒び 焼ききれ 暴風の雷閃光!!」
と、サキの編み出した雷と風の融合魔法の上級版を、兵士達に向けて放つ。
「な、何だと!?」
と、先頭にいた組織の兵が声をあげる。
直径2m程の太い雷のレーザーが無数の鎌鼬と竜巻を纏って向かってきた。
「ぐあぁぁぁあ!」「ぎゃあぁぁぁぁ!」
と、次々と組織の兵達を飲み込んでいく竜巻。
その竜巻は、方舟にまで届き、方舟の障壁にぶち当たり、ゆっくりと消えていった。
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マゼラン サイド
マゼランが、ゆっくりと消えていく竜巻を見つめていた。
「方舟にそんなもの…」
と、言葉を途中できった。
目の前に広がる光景を見て呆然とした。
「なん…だと?」
目の前には、多くの自軍兵士が倒れていた。武器を失ったものや、腕や足が変な方向に曲がっているもの、倒れているが微妙に生きているものが多数いた。
「わが軍がこんな状態だと!?」
と、奥歯を噛み締めるマゼラン。敵に釣られて真ん中に追撃した部隊はほぼ壊滅状態だった。
「残り部隊、魔戦車を進めろ!舟の浮上準備急げ!」
と、兵達に号令を出す。様子見をしている場合ではなくなった。
「お前達も行け!旋風の雷と仲間を集中的にな!!」
と、怒りを露にするマゼランが幹部達に言う。
幹部は頷き、戦場へと降りていった。
「旋風の雷ぃぃ!許さぬ!!私も出る!!浮上準備は急いで続けろ!準備できたら発信弾を放て」
と、マゼランも戦場へと降りていった。
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サキ サイド
兵達はすぐに元の陣形に戻り、押し寄せてくる兵達を迎え撃っていた。
「…幹部が動き出した。魔戦車も来るな。やば…力使いすぎた」
と、地面に膝をつくサキ。足元から闇の魔力が少し溢れ出ようとしていた。
「サキ!」
と、カガリが心配そうに近寄ってきた。
「…大丈夫」
と、ゆっくり立ち上がるサキ。
「それより幹部が来るよ。気をつけて」
と、サキ。闇の魔力は収まっていた。
「う、うむ。」
と、まだ心配そうなカガリ。
「!」
と、急に目の前に現れた男に2人は驚いた。
マントとフードを被っていて顔は見えないが、いい体型をしていて筋肉質だとマントの上から見てもわかる。その男はかなりの気迫を感じさせる。
無理もない。その男はマゼランなのである。仲間の兵を倒され頭にきているのである。
「…貴様らは、私マゼランが消す」
と、男がフードをとった。黒い短髪で、厳つい顔をしている。ガイと顔だけいい勝負である。
「な!?」
と、目の前から消えたマゼランに驚くサキとカガリ。
「うあっ!?」
と、サキが横に吹っ飛ばされた。サキのいた場所にマゼランが腕を振り抜いた状態で立っていた。
サキは、広場近くの民家に激突し、壁をぶち抜き中に倒れた。
幸い、人々は避難していたため、一般人が巻き込まれる事はなかった。が、家に穴が開いたりと、物に被害が出ている。
「サキ!!」
と、吹っ飛んだサキの方へと叫ぶカガリ。
「…障壁も張れてなかったからな。生きてたとしても、まだ起き上がれはしない。」
と、マゼラン。カガリを睨み付けている。
「…おのれぇ!」
と、足元から炎が巻き上がる。
「エルフ1人でも私に勝てぬぞ!」
と、拳を構えるマゼラン。戦闘スタイルがサキと同じで魔法剣士に近い様だ。
「いくぞ!」
と、カガリに向けて駆けるマゼラン。
「…っ!」
と、向かってくるマゼランに手を向けるカガリ。
1つ負けれぬ戦いが幕を開けた。
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神楽 サイド
「何かさっき前をすごい勢いで通った気がする」
と、神楽。
それがサキだとは知らない。
「…にしても、敵が減ったけど厄介なの来たなぁ…」
と、目の前に立ち塞がる女を見て項垂れる神楽。
「何をさっきから1人で呟いてるの?」
と、ノーマが杖を、トン、トン、とリズムよく肩に置く。
「別に、何も」
と、杖をギュッと握る神楽。
「じゃあ、準備できたみたいだしやろっか。ウチの大将、仲間倒されて頭きてるから怒られる前にあんたを倒しちゃうわ。」
と、杖を神楽に向けた。
「…」
と、ノーマの話をスルーする神楽。
「…無視?それちょっとカチンときたわ!」
と、イラつきを露にするノーマ。
それでも、神楽はノーマを無視。
「…死ねえぇぇ!」
と、大きな炎の塊をサキに向けて放つ。火の中級魔法である。
「…間に合った!ウンディーネ!!」
と、鍵を宙で回す。その瞬間、ウンディーネが神楽の前に顕れた。
そして、ウンディーネは炎の塊を太い水柱をぶつけて相殺した。
「!あんた召喚あったの忘れてたわ。」
と、頭をかくノーマ。
「アクアシュート!」
と、水の魔法を使う神楽。多数の水の球がノーマに向かう。
「よっと!」
と、土の壁を自分の前に作り出し、水の球を防ぐノーマ。壁が水球でへこんでいくのがわかる。
「…こいつ、前より強くなってる?」
と、ノーマ。前の神楽だったら、壁をへこませるどころか、傷すらつけれないだろう。
「それで終わるとでも?」
と、ウンディーネが土の壁を切り裂いた。
「うげ…!」
と、顔を引きつらせるノーマ。
「行きます!」
と、剣を振り上げるウンディーネ。
「サンダーブレード!」
と、雷の中級魔法で雷の剣を無数に降らせる魔法を使ったノーマ。
「くっ!」
と、足元にサンダーブレードの魔方陣が広がったのに気づき、急いで魔方陣から出るウンディーネ。
その後に、無数の雷の剣が魔方陣の範囲に降り注ぐ。
「アイツ、あんな魔法も使えるの!?」
と、神楽。
「あの人間詠唱が速いです。」
と、ウンディーネ。
「うん、流石は幹部ってところね。」
と、神楽。
「でも、負けない!」
と、意気込む神楽。
「アクアブラスター!」
と、水の中級魔法で太い水柱を放つ、さっきウンディーネが使った魔法を使う神楽。
「あんた水しか使えないの?」
と、バカにするような口調のノーマ。
ノーマは水柱を地面から再び壁を作り出し防ぐ。
「こっちです!」
と、ノーマの後ろに回り込んだウンディーネが斬りつける。
「うっ!」
と、背中を斜めに斬られたノーマ。斬ったといっても、あまり切れ味は良くないため、殴打に近い。
自分で作り出した壁に叩きつけられたノーマ。
「くっ!」
と、ウンディーネの方を見た。
また剣を振り上げていた。
「はっ!」
と、剣を振り下ろした。ノーマはタイミングを見計らい、剣をかわし距離をとる。剣は壁を真っ二つに切り裂いた。ウンディーネの剣は、命あるものに切れ味は悪いが、命なき物には切れ味が良い、という特殊な効果を持っている。物には抜群の威力を持っていた。
ノーマはウンディーネと神楽から離れ、2人の様子を見た。
「…大したスキルがない私には中々厳しいかも」
と、ノーマが焦る。ノーマは光と闇の系統以外の魔法は一通り使うことができる。それに加えて、詠唱が速い事と、変化の魔法が使える。変化は、外見だけを変化させるだけで、今の状態では使い物にならない。
そうなると、詠唱が速いだけの上級魔法使いと変わらなかった。
「っ!」
と、どうするか考えていたらウンディーネが攻めに来ていた。何とかウンディーネの攻撃を避け続けるノーマ。
(これじゃ詠唱できない…!)
と、焦るノーマ。
「アクアシュート!」
ノーマの頭上から無数の水球が降り注いできた。
「うっ…うざい!」
と、水球をかわすがかわしきれずにちょくちょく当たっている。
(このままじゃ、やられる…!)
と、焦るノーマ。
「わっ!」
と、頭すれすれを剣がすり抜けた。
「やってらんない!」
と、叫んで神楽たちと反対の方に走り出した。
「?」
と、神楽は詠唱をやめた。
「逃げるつもりでしょう」
と、近くに来たウンディーネ。
「組織には暇潰し程度で入っただけだし、こんなとこで捕まるつもりはないわ!!」
と、住宅街の方に走っていってしまった。
「…まぁいいや。今はまだやることがある!ウンディーネもこのままお願い!」
「わかりました!」
と、2人は頷く。
1つの戦いが終わった。
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アイギス サイド
兵隊達を倒し続けていたアイギス。まだ手枷を外してはいない。
「キリがないよ!トシキもいつのまにかいなくなってるし…」
と、アイギス。次から次に向かってくる兵士達にうんざりし始めていた。
「じゃあ、私が相手してやるよ。」
と、横から声をかけられた。
「わっ!?」
と、アイギスは後ろに跳んだ。地面に剣が刺さっている。
「ふん」
と、地面から剣を抜く、マントを羽織った女、クロエ。
「クロエ!」
と、アイギス。
2人の、というかクロエの邪魔にならない様に、組織の兵達がアイギスを素通りし始めた。
「退屈だったんだろ?私が相手してやるよ。」
と、剣を肩に担ぐクロエ。
「私はトシキの仲間だから、クロエに手加減はしないよ!」
と、手枷に手を置くアイギス。
「そうだ、そうしな。じゃなきゃ私がつまらない。」
と、笑うクロエ。
アイギスもつられて笑う。
「じゃあ、外す。」
と、手枷を外し、本来の姿になるアイギス。爪と牙が伸び、頭に角が生える。角が前よりも少し長くなった。
「前よりも強くなったみたいだね」
と、クロエ。
「そうだよ、前の私とは違うよ。」
と、アイギス。鬼族は力と角が比例して、強いと長い角になる。アイギスの角は前よりも長くなっていた。
「じゃ、始めようか。」
と、クロエが剣を構えた。
アイギスも拳を構えた。
「はっ!」「ほっ!」
2人が同時に走り出した。
先手はクロエ。剣をアイギスの頭上から振り下ろす。
が、アイギスは体を捻ってかわし、そのまま左足を軸に右足でクロエを蹴る。
クロエは剣で右足を防ぐ。
金属音をあげ、そのまま2人の動きが止まる。
「まだぁ!」
と、アイギスが右足を引き軸に、左足を腹めがけて蹴る。
「ぐっ!」
と、呻くクロエ。
そこへ、アイギスは後ろ回し蹴りを繰り出した。
「うっ!」
と、頭を蹴られ地面に倒れるクロエ。
「クロエも本気できなよ。何で手抜くの?」
と、アイギス。
ゆっくりと立ち上がり、頭を振るクロエ。
「…、あんたでも本気のアタシには敵わないよ。」
と、冷静なクロエ。
「そんなのやってみなきゃわからないよ!」
と、アイギス。
「…それもそうだな。」
と、クロエ。一呼吸おいて、剣を地面に突き刺した。
「はあぁぁぁ!」
と、気合いを入れるクロエ。
「!?」
アイギスはクロエに驚いた。
クロエの周りに魔力がオーラ状になっている。そのオーラは、ヴァニタスのものと違い、身体と同じ形をしている。
「…今から本気。私の“ブレイブ”みせてあげる。」
と、地面から剣を片手で引き抜きアイギスに向ける。
「……」
と、強い相手に嬉しい様な、ピンチで焦る様な複雑な笑みをアイギスは浮かべた。
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霊紗 サイド
霊紗も他のメンバーと同じく群がってくる兵隊達を倒していた。
「…アイツの元に行きたいのに邪魔が多すぎる」
と、倒してもドンドンくる兵隊達に苛つく霊紗。
サキが民家の方に吹っ飛んでいったのを見ていたため、サキの元に駆け寄りたかった。
「…もう!邪魔なのよ、あんた達は!!」
と、大量に光の球を出現させ、群がる兵隊達へと放つ。
兵隊達は次々と、光の球により倒れていく。だが、まだ後から来る。
「はぁ…」
と、ため息をつく霊紗。
「ため息をつける余裕があるのなら、私の相手をしてもらおうか。」
と、いつの間にかいた、本を開き眼鏡をかけなおすシュバルツ。
「…アンタの相手をしてる場合でもないんだけど」
と、霊紗。
「悪いが、そうはいかん。何処かから情報が漏れ、その尻拭いをせねばならんからな。」
と、シュバルツ。
「私を倒せば功績を得るって訳?」
と、霊紗。
「ま、そういうことだ。お前を消して、次のやつを消す。我らの障害となるものは皆消す。」
と、シュバルツ。その足元に魔方陣が顕れる。
「…やるしかないか!」
と、サキへの道を塞ぐシュバルツを睨み、霊紗も光の球を出現させる。
「死ね!アイシクルエッジ!」
と、爪のように尖った氷が数発霊紗へと向かう。
横へ走りかわす霊紗。地面に突き刺さり、地面を凍らせる。
「いけ!」
と、光の球を数発シュバルツへと放つ。
手を前に出し障壁を展開するシュバルツ。
(追尾性のある魔法は撃ち落としとくのが一番だな。)
と、思うシュバルツ。
障壁に球が次々と当たり、煙があがりだす。
「むっ…」
と、煙に気づき障壁を解く。
「もらった!!」
と、煙の中から霊紗が飛び出してきた。
見よう見まねの、トシキがよくやる手に魔力を集中させたパンチを霊紗が繰り出した。
「!」
と、煙から飛び出した霊紗に驚くシュバルツ。
あっさりと顔面を、魔力集中パンチで殴られた。
地面を擦りながら地面に倒れるシュバルツ。
「…」
霊紗が倒れたシュバルツを見る。
「あんたやっぱうっとーしいわね。」
と、後ろを振り替える霊紗。
そこには何故かシュバルツが立っている。
「気づいていたのか。」
と、少し驚くシュバルツ。砂のように風に流されていく、倒れたシュバルツ。
「デコイなんて、ほんとうっとうしいわ。」
と、霊紗。
「お前もな」
と、本を再び開くシュバルツ。
霊紗の周りに次々と球が浮かび上がってきている。
「アイシクルランサー!」
空中にず太い氷の槍が浮かぶ。
「げっ…」
それを見て焦る霊紗。
が、氷の槍は待ってくれない。風を裂き霊紗へと向かう。
「…っ!!」
走っても避けきれず、思いきり飛んで氷の槍をかわす。
足を冷たい感覚が襲う。
「…当たったら凍り漬けじゃ済まないわね」
と、霊紗。
地面に穴を開け、その周りを凍りつかせていた。
「避けたか。やるな」
と、無表情のまま言うシュバルツ。
「…そりゃどうも!」
と、立ち上がりシュバルツに向かって走り出す。
「詠唱させないつもりか。」
と、表情を変えないシュバルツ。
「焦ってる感じがしないわ…」
と、無表情のシュバルツに苦笑する霊紗。
霊紗はシュバルツに近接戦闘をし始めた。平手突きや、拳で殴ろうとするが、次々とかわしていくシュバルツ。
「はっ!」
と、霊紗がシュバルツの方へ踏み込み平手を腹へと突く。
「っつ」
と、シュバルツは呻く。さすがに避けきれず腹に直撃した。
「爆光破」
と、腹を突いていない左手で右手を支えた瞬間、爆発が起きシュバルツを飲み込む。
煙が上がり、シュバルツが見えなくなる。
模擬戦の時よりも威力はかなり上である。
霊紗が警戒して球を再び展開し始めた。
(やっぱ魔符使わなきゃ倒せないかも…)
と、しまってある魔符を指先で触る。
さっきの一撃で、致命傷を与えられた気がしない。ダメージは受けただろうが、あまり期待はしてなかった。
「ふむ、接近戦をやるのはいいと思うが、やはり我流。基礎ができてないな。」
と、煙の中からシュバルツが出てきた。
「うるさいわね。私は元から近接戦闘に向いてないのよ。」
と、霊紗。
「…我々後衛でも前衛と同じように戦えるのだよ。強くなれば前後ろそんなもの関係なくなる。」
と、シュバルツ。
「…何が言いたいの?」
と、霊紗。
「…つまり、こういうことだ!」
と、シュバルツが消える。
「速い!…けどこの程度!!」
と、後ろへと球を放つ。
シュバルツは、霊紗の読み通り後ろにおり、球を寸ででかわす。
「…」
霊紗に距離をとるシュバルツ。
まさか、反応するとは思わなかった。
「では、そろそろ終わらせてもらおうか。」
と、シュバルツ。本がシュバルツの傍で浮きだした。
「…本気ってわけね」
と、唾を飲む霊紗。
再びシュバルツが目の前から消える。
(右…!)
と、球を放つ霊紗。
シュバルツは再びかわして消える。
スピードについてはいけるが決めてのない霊紗。このままでは不利な状態だった。
「使うしかないってか、ここで使わずにいつ使うって事になるわ!」
と、霊紗が魔符を取り出そうとした。
「何をするか知らないが、終わりだ。」
と、霊紗の真後ろに現れたシュバルツ。
「あぅ!」
霊紗の背中をシュバルツが殴る。それにより、霊紗は前に吹き飛ぶ。
「っ!!」
と、後ろに大きな魔力を感じた。
「その状態ではかわせないだろう」
シュバルツは宙に数個の氷の槍を作り出した。
霊紗の額に冷や汗が流れる。
「アイスニードル」
と、シュバルツ。
氷の槍が霊紗へと向かう。
「くっ!」
と、何とか体勢を直し障壁を展開する。
氷の槍が障壁に突き刺さる。
その威力に障壁が弱まる。まだ氷の槍が飛んでくる。
「っ!」
ついに障壁が破れ、氷の槍が霊紗を襲う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
方舟の上
方舟の一番てっぺんに1人の男が座っている。そこから戦場を見下ろしていた。
「ノーマは逃走、クロエは“ブレイブ”中、…シュバルツはちょうど終わったか。おや、大将まで出てやがったか。」
と、幹部たちの状況を把握した。
「大将はエルフとか。んん?旋風の雷…いや、トシキがいないな。」
と、この戦いの肝になる者の姿が見えない。
「ん?あそこか…」
と、半壊状態の民家に魔力をかすかに感じた。
「おいおい…すでにやられてんのかよ。お前が重要なんだがな。」
と、あぐらをかいていたのをやめ、片足だけ舟から出す。
「まぁ、他のヤツがやってくれてもいいんだが、あいつじゃなきゃなぁ…」
と、自分の膝に肘をおき、手に顔を置いた。
「もうちょっと見物させてもらおうか。」
と、再び戦場を見下ろす。
方舟から魔戦車が出ようとしていた。
この話を読んで頂きありがとうございます。
私的事ですが、携帯でのアクセスが2万を越えました。これも、読んでいただいている皆様のお陰です。感謝です。
あ、で今回はバトルを多めに入れたつもりです。次も多いんですけどね(笑)
ただ、1人1話にしちゃうと話数が多くなっちゃうんで、一気に載せてみました。神楽編が短すぎましたね…。気を付けます。
長くなりましたが、人気が少しずつ出始めてきましたので、これからも皆様が読んで頂ける様努めていきますので、よろしくお願いします。