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帝国の狙いと脳筋

キーボードの不調で中々かけませんでした。更新してますよ。

 無事に初日の野営を終えて、再び海の村エストルフォへと移動を開始する。やはり道中で魔物に襲われるが、昨日程クラスメイト達は落ち着いて見える。リィリアとメイに感謝するしかない。俺ではここまでみんなを落ち着かせるなんてことはできなかった。


「右から魔物だよ!」

「光の矢よ!」


 ナイン先生の声にルシオラがライトアローで魔猪の眉間を打ち抜き、見事一撃で倒す。それに触発されたのか、グラスもハサンさんと共に前で魔物と戦っている。


「援護はいるかー?」

「いらぬ!」


 返事と共に刺突で魔猪を倒し、血振りをしたグラスは一つ息を吐く。


「数が多い。昨日落ち着くことができなければ危なかったな」

「それは何よりだ。俺の出番ないけどね」

「それに越したことはないだろう。お前のお陰で移動が速いようでな。今日の夕方には海の村に着くようだ」


 それはとても僥倖な事だ。少なくとも村につけば両親がいる。そうなれば俺も少しは気が休まるというものだ。


「潮の匂いがしてきたな」

「わからん」

「グラスにゃまだわからんよ。故郷の懐かしい匂いってやつだ」

「その感覚なら理解するが、確かにオレにはまだわからないな」

「ガキの会話しろよ、アホ共が」


 ハサンさんはそう言うが、どことなく頬が緩んでいるのを見ると久しぶりの故郷に戻るのが嬉しいようだ。指摘すると恥ずかしがるから、指摘はしないでおくが。


「昼飯の時間だ。この先にちょっとした休憩できるスペースがある。簡単なもんだが休憩しながら飯にしようぜ」


 ハサンさんの提案で村まであと半日もないくらいの場所で昼食となった。道中生徒達は大型の馬車に揺られているが、正直乗り心地はあまりいいとは言えない。未舗装の道なんか馬車を使ったら、逆に身体のどこかに変調をきたしそうなほどだ。


「⋯⋯戻った」

「おう、タリア! どうだった?」

「大丈夫、安全」

「うし、んじゃやっぱりそこで休憩だな」


 無表情でぬぼーっとしているのは【紅玉の翼】に所属する斥候係、タリアさん。スレンダーな体型で顔は中性的。隠形が得意のようだが、万能メイドを知っているとまだちょっと粗がある。けれども、流石ゴールドランクなだけあって、実力は高い。


「⋯⋯ん? 少年、何か?」

「タリアさん、この先の休憩できる場所ってアクロの丘ですよね?」

「そう。あそこは海の村に行くときは必ず通る場所。遮るものがなくて警戒しやすい」

「んでもあそこって、結構フリーバード多いですよね?」

「アレは魔物だけど、ほぼ鳥。別に撃ち落とさなくても、気流を乱せば近寄れない」

「ああ、風魔法使えるんですね」

「ん。一応、疾駆と飛翔は使えるから問題ない。少年は?」

「使えますよ。でも、うちの師匠が魔法なしでそれやるんですよね」

「少年、それは人じゃない」

「まぁ否定はしませんよ」


 彼女との会話を聞きながらグラスはゲンナリした表情を見せるが、この野外活動が終われば彼も俺と一緒に地獄のランデブーが決定している。

 取り敢えず丘へと移動して一息入れていると、遠くの方で何かがこちらへと向かってくるのが確認できた。そしてそれは土煙をあげて猛スピードで駆けてくるサイレントホースことレンだった。


「──あ・る・じ!」

「ちょ、やめ──ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 減速なしで突っ込んでくるそれは地面から足を解放すると慣性に逆らう事なく飛びついてくるが、そんな猛スピードを相殺できるはずもなく弾丸よろしく突っ込んで来たレンと共に地面とランデブーするのだった。


「主、大変。砂まみれ」

「お前のせいだろうがボケが! 俺以外にしたら死ぬから絶対にするなよ!?」

「いやん」


 平坦な言葉で頬に手を当ててくねるレンを叱りながらも、突っ込んで来た理由を聞くと、義父からの伝言があるという事で全力で走ってきたようだ。


「ヴァイスから『帝国の冒険者が魔の森に侵入しているから、排除しろ』って」

「あー、そうか。国でもちゃんと情報としてあるのね。そうすると父さんか母さんが情報源かな」

「さあ? それより主、リィリアは?」

「お前の後ろで怒ってる」

「え゛?」


 ゆっくりとレンが後ろを向くと笑顔のリィリアが立っているが、その目は一切笑っていない。黒いオーラが立ち上るほどに彼女が怒っているのがわかる。普段あまり怒ることもないから怒らせると怖いといういい見本かもしれない。


「レン⋯⋯。ちょっとこっちへ来なさい」

「い、いや、これには深いわけが──」

「お黙りなさい」


 首根っこを掴まれて引き摺られて行くレンは涙目でこちらに手を伸ばすが、流石に擁護する事はできない。しっかり怒られてこい。


「さて、タリアさん」

「魔の森ね。あまり奥までは行けないけれど」

「エスフォルトに立ち寄ってもらえば、父さんか母さんが待ってるはずだから一緒に行動してくれるといいかも。タリアさんほどじゃないけど、警戒は俺もするからお願いしていいですかね?」

「殿下の護衛も仕事のうち。任された。でも、お腹が空いた」

「ま、その辺は飯食ってからで。しばらくのんびりしてても人類最強格がいるから大事にはならないと思うし」


 こうして正座で怒られているレンを尻目に俺達は楽しく昼食を摂ることに。あまり時間をかけても到着が遅くなるので簡易的ではあるが、それでも空腹を満たすには十分すぎるものだ。


「あー、帰りたくないなぁ」


 兄と姉がいる事実を思い出してそう呟く俺だった。


 ⭐︎


「みなさん、ようこそお越しくださいました。海の村エスフォルトへ」

「二日間大変だったでしょう。まずはゆっくりしてくださいな」


 出迎えは姉と母だった。姉は制服で、母はいつもより少しだけピシッとしている。二人と目が合うとニッコリされたが、嫌な予感しかしない。気のせいであると願うばかりだが、やはりというか想像通りというかその通りにはいかないようだ。


「ウィル、ちょっと話があるので残ってくださいね?」

「休みたいんだけど?」

「リィリア殿下も残ってくださいね」


 あ、これ断れないヤツだ。

 そう認識したのは彼女も同じで、苦笑しながら頷くだけだった。

 姉の引率で俺とリィリア以外が村の広場に向かうのを見送って、母さんが俺の前に立つ。その表情はどこか暗い。


「ウィル、まずはおかえりなさい」

「はい、ただいま帰りました」

「殿下も申し訳ございません。わざわざ残っていただいたのには理由があります」

「⋯⋯帝国、ですか?」

「ええ。話が早いようで安心しました。現在、魔の森の奥、竜峰ドラゴンテイル付近で帝国の冒険者が多数確認できています。目的は不明ではありますが、時期を考えると殿下が狙いと思って間違いないでしょう」


 ここまでは、俺達も想像している。問題は、それ以外の事だ。


「それさ、リィリアだけが狙いじゃないよね? 多分だけど、ドラゴンの討伐も目的に入ってると思うんだけど、母さんはどう思う?」

「それも目的の一つではあると思うわ。でもね、他にもっと目的があるとみてる」

「⋯⋯あー、俺か?」

「ウィルフィード?」

「そう、ね。世界最強セリア・フォーマルハウト。彼女の弟子という貴方の名前は、先日の決闘が原因で他国に知れ渡ったわ。何故かわかるかしら?」

「カーマセが国外追放になったから」

「そう。そして、殿下との婚約も漏れてる。それ自体はいいのだけれど、問題があって」


 なんとも面倒臭そうな顔をした母さんを見て察した。リィリアは第三王女。縁談の話などもあったはずだ。それを俺が決闘の報酬として陛下に伝えたが故に、リィリアは軽く見られているという事だろう。


「貴方が何を考えているか大体想像ついてるけれど、違うわ」

「へ?」

「貴方の力よ。確かに今、ドラゴン討伐も目的の一つと言ったけれど、到底敵うわけがないの。そこで被害が出る前に貴方が現れれば⋯⋯」

「ドランゴン討伐して、帝国の冒険者を助ける。結果、帝国からなんやかんやで呼び出されるわけか。拒否できるわけもなく、のこのこ出ていけば⋯⋯」

「そう。ドラゴンを討伐できるほどの腕を持つ貴方をあの手この手で囲い込むでしょう。皇女を第一婦人にと平気で差し出してくるわ」


 げんなりする話だ。そんなものに興味はない。今だってリィリアやメイで手一杯だし、シーガルとイアさんの商売もある。俺があの二人の生活にある程度責任を持たなければならない。だから帝国になんざ行く気にはならないし、行こうとも思わない。条件がなんであれそれは不要なものでしかない。


「でも、これって詰んでるよね?」

「そうね。まず間違いなくドラゴンに手を出すわ。そうなる前に止めたいのだけれど、色々と外交問題になりそうで」

「んでも、無断で魔の森に入り込んでるんでしょ?」

「あそこは一応、誰の土地でもないのよ。場所が場所だけに、王国での管理というのが暗黙の了解なのだけれどね」


 魔の森が空白地帯だという事がわかれば、手はある。あるんだが⋯⋯色々と問題が出てくる。主にできるかどうかという所で。


「じゃあ、それは各国へ王都の土地と正式に認めさせれば?」

「それこそ無理な話よ。そうなったら、管理する人間が必要だし、森の奥の魔物は強い。下手な貴族なんかじゃ秒殺よ」

「母さんか父さんが管理すれば? 海の被害はもうないわけだし」

「⋯⋯ウィル、その件だけれど、そのおかげでオルグが今度爵位が上がるのよ。うちとしてはお給金があがるのだけれど、同時に海の村エストルフォの開発命令が下るの。海の街にしなければいけないから、そんな暇はないのよ」


 空白地帯をどうやって王国のものにするか。一つはそこを管理する人間が必要。一つは各国に王都の土地だと認めさせる事。その二つをクリアすれば、案外外野は黙るかもしれないが魔の森は広い。多分、王都が二つくらい余裕で入る。


「森はドラゴンテイルに囲まれてる。それこそ、ドラゴンの尾に守られているかのように。山を越える手段は徒歩。恐らく冒険者たちもそうやって時間をかけて来たはずだ。それくらいしなければならないくらいには、天然要塞としての利用価値はある。けど、どう利用する? 資源は森の恵みくらいだ。魔物は強いし、せめてゴールドくらいにならないと無理。ゴールドでも死ぬ可能性はある。プラチナは? 行けなくはないが、森に居る魔物が厄介だな。じゃあブラックは? 行ける。まず間違いなく抜けられる。けど、ドラゴンが問題か。ドラゴンを神聖視する国がある、宗教的にはどうだ? 討伐なんて間違いなく戦争もんだ。帝国はそれすら視野にいれてるんだろうけど、その狙いに乗るのはムカつくな。ドラゴン信仰と女神信仰。喧嘩はしてないけど、相容れないわけでもない。崩すとしたら、そっからか」


 ブツブツと思考を垂れ流しにしながら、そこではたと思い出す。


「リィリア、陛下は俺の無茶をどこまで許容してくれるかな?」

「その目は嫌ですが⋯⋯。お父様もあれで冒険者ですし、国に強い人間がいるのは歓迎すると思います。その点でいえば、ウィルフィードの行動が国に対して不利益、害にならなければ許容するはずです。小言覚悟であれば」

「その小言が小言じゃないから問題なんだよ。あー、もう面倒臭い。母さんごめん、ちょっと俺今回の野外活動不参加で」

「何するのよ⋯⋯」

「ちょっとお話してくる」

「はぁ⋯⋯。貴方のそれ、オルグに似たのかしら」


 失礼な事言わないでもらいたい。


「二人に似たに決まってんでしょうが」


 ため息交じりに言ってみるが、結局俺も脳筋に違いないと思った瞬間だった。

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