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男の背中

連続更新は難しいですが、ちゃんと書いていきますよー

「なんだか魔物が多くないか?」

「ん? ああ、王都の周辺は定期的に冒険者が討伐してくれてるから比較的安全だけど、こうやって離れればそれなりに魔物も出るさ。それにしても多いとは思うが⋯⋯」


 護衛の冒険者達が周囲で魔物を討伐している姿を見てグラスが思わず溢した言葉に返答しながらも空から来た魔物を魔法で撃ち落とす。

 王都を出てから半日程経過して襲撃してきた魔物は有に三十を超えている。勿論そのどれもが危険性の低い動物型の魔物ではあるのだが、クラスの連中は既にぐったりとしている。


「日も傾きかけてるな。ナインさん、そろそろ野営の準備した方がいいかもしれないですね」

「そうだね。ちょっと予想以上に魔物が多いね。おーい、ハサン!」


 先頭で大剣を振るうガタイのいい男性に声をかけると、正面に来た魔物を袈裟斬りに斬り捨てて振り向く。


「おう! この辺りだったら前も野営したし、いいだろう! ガキ共も流石に疲れたろうしな」


 大声で笑いながら言う彼は現在ゴールドランクの冒険者であり、ナインさん率いる冒険者パーティのメンバーだ。


「あんだけ獲物振って、息切れひとつないとか、あの人体力おばけか」

「あー、ハサンは、別だよ。あれは異常なだけ」

「うるせぇよ。全部聞こえてんぜ? 久しぶりだな坊主」

「どうも。先頭でずっと歩いて貰いましたけど、やっぱり魔物多くないですか?」

「多いな。この時期は安全を見越して、冒険者連中も魔物討伐してんだけど、こりゃ今までにないくらいだ」


 帝国が動いての結果なのか、それとも先日レティアから受け取った鱗の持ち主の影響なのか。今はまだわからないが、用心に越したことはない。


「さて、ナイン先生」


 意識を切り替えるためにもナインさんを先生と呼び、確認を取る。


「今回の野外活動はAクラスだけ。他も例年通りに各クラス散ってるんですよね?」

「そうだね。Aクラスの実力だったら魔の森の浅い場所で野営しても対応できると思うよ」

「だなぁ。毎年見ちゃいるが、下手な駆け出しよか強いと思うぜ」

「そうですか。では今回同行してもらってる冒険者の皆さんは⋯⋯信用出来る方たちですか?」

「あー、坊主。テメェ何考えてやがる?」

「ウチのクラスは第三王女がいるんですよね。流石になんかあったら、ね?」


 その言葉にナインさんは頷き、ハサンさんは頭を掻いている。この反応はどっちなのか。


「ま、そうだよな。安心しろ。今回ここにいるのはゴールドランクパーティ【紅玉の翼】のメンバーだけだ。テメェがなんかしようとも他言無用を誓うぜ?」

「そうですか。じゃあ、遠慮なくしますね」


 宣言した。確かに『遠慮なく』と宣言したんだが⋯⋯。


「やり過ぎだよ。ウィル」

「がっはっはっはっは! 坊主! 手加減を覚えろ!」


 Aクラスは総勢十六名。その全員が入れる程に広い高床式の家を作り出したら怒られてしまった。


「遠慮なくって言ったじゃないか」

「それでもだ! あのな、これじゃ野営の訓練にならないんだよ。キミも冒険者やってるんだから理解してるだろう?」


 ナインさんの言うことは尤もだが、リィリアの身の安全を考えただけではない。それだったら、正直リィリアにだけ作ればいいだけの話だ。しかし、事はそう簡単にいかない。


「魔物の数が多すぎるんだよ。異常と言ってもいい。動物型の魔物だから今はなんとかなってるけど、これがゴブリンの群れだったり、集団のオークだったら正直死ぬよ? ましてや日が落ちてきたのに鳥形の魔物だ。奴らの生態系だと夕方には絶対に巣に戻るはずなんだ。魔物は全部向かう先から来てる。って事は、明日はもう少し襲撃が増えると思う。だから尚更みんなにも、紅玉のメンバーにも休養をとってもらわないと困るんですよね」

「言ってる事はわかるけど、杞憂に終わる可能性も高い」

「だったらそれでいいじゃないですか。この程度の魔法だったら俺に影響はないですし、何よりも他の生徒達が魔物の襲撃で神経張り詰めてぐったりです。このままじゃ道中持ちませんよ?」

「ナイン、坊主の言うことは確かだな。俺達は冒険者で、コイツらはまだ駆け出しにもなれない。心構えが違うのさ。その点、坊主は冒険者として活動してるし、周りを見てる。お前さんは教師だが、冒険者としての意識が強い。そこは危険だと自覚した方が今後のためだろうな」

「そう、だね。うん、わかった。この子達が冒険者として駆け出しになれないのと一緒でアタシはまだ教師になれてない。言う通りだ。ウィル、キミの提案でいこう。差し当たって、この建物の強度は?」

「ハサンさんが全力で剣を振っても傷一つつかないですよ。保証しま──」

「うぉらぁぁぁっ!」


 言葉の途中で思い切り高床式になっている支柱へと躊躇なく剣を振るうハサンさんのケツを蹴り上げる。いきなり何してくれてんだコイツ。


「いってーな。いやしかし本当に傷一つ付かねー」

「だからそう言ったでしょ」


 呆れながらも先んじてクラスメイト達を建物の中へと入れて、説明をする。いきなりこんな建物出来上がって混乱もしているだろう。


「全員いるなー?」


 ドアを開けてすぐに全員の姿を確認。改めて見ると全員顔色は良くない。疲労も色濃く見えるし、何よりも恐怖が勝っているのだろうか。身を寄せ合って、警戒を解いていない。警戒を解いているのはグラス、リィリア、メイの三名だけだった。


「ウィル、お前は少し自重するべきだと言いたいが⋯⋯」

「ええ、今回ばかりはそうも言ってられないですね」

「ゆっくり休めるとって考えるとありがたい事ね」


 そうは言っても精神的疲労が見て取れる三人も元気とは言い難い。まずは一旦休んで貰う方が良いだろう。


「みんな、取り敢えずゆっくりしてくれ。魔物はここに入れないように周囲は護衛の冒険者が警戒してくれてる。一旦気持ちを落ち着かせて、明日に備えて欲しいんだ」


 俺の言葉に少しだけ安堵の息が聞こえたが、やはり緊張は解けないのだろう。無理もないが、どうしたら良いものかと思案しているとリィリアが立ち上がった。


「皆さん、幸いな事にこの建物はウィルフィードが魔法で用意してくれたものです。冒険者の方の剣でも傷一つ付かないほどに強固なものです。今は明日に備えて少し警戒を解くべきだと考えます」

「そうね。ウィル、取り敢えず夕食の準備をお願いしたいんだけどいいかしら?」

「はいよ。グラス、疲れてる所悪いんだが手伝ってもらっていいか?」

「それくらいなら構わない」


 リィリアの言葉に賛同したメイにクラスメイトのケアを任せる事にして、グラスには夕飯の準備を手伝ってもらおうと声をかける。それに便乗して一人の女子生徒が立ち上がった。


「ウィルフィード、あたしも手伝うわ」

「ルシオラ、いいのか?」

「ええ、それくらいしかやること無さそうですもの」


 知的でクール。そういった印象のクラスメイト。ルシオラ。彼女は貴族の出ではないが、魔法の高い適性を持ち、中でも光属性に適性がある。希少な人材といった所だ。勿論俺も光属性は使える。師匠が得意じゃないので伸び悩んでいるが。


「ウィルフィード、晩御飯の材料と作る場所は?」

「ああ、適当に今から場所は作る。いっそのこと食堂でも作ってやろうか」

「またお前という奴は⋯⋯」

「いいじゃん。楽しようぜ。魔法は生活を豊かにするものが俺のモットーだからな」

「ウィルフィードはそうゆうタイプなのね」


 ルシオラの言葉を聞き返すと彼女は神妙な顔付きで言い放つ。


「誰にでも一緒なのねって」

「すまん、ちょっと分からん」

「いいの、気にしないで。それよりもさっと作っちゃいましょう。空腹は敵よ」

「おう」


 楽しそうに返事をするグラスを見ながら俺は一瞬空を見上げる。思い出すのは生前に見た空。

 今みたいに友人と一緒にキャンプをしながらご飯を作った日の事。細かくは覚えていないが、それでも懐かしさ、いや寂しさが胸を埋め尽くす。


「なんだか引っかかるんだよな」


 幼い頃に誰かに言われたような気もする言葉になんとも言えないモヤモヤを抱えたまま夕飯作りに勤しむしか無かった。


 ⭐︎


 夕飯は収納魔法に入れていた材料をこっそりと出して大盤振る舞いをした。空腹は敵という言葉は正しい。腹が満たされれば、それだけ頭は回る。血糖値が足りていなかったとも言う。


「坊主、お前は寝ないのか?」

「ハサンさん」

「酒は渡せねーが、ホットミルクくらいなら渡せるぜ?」

「ありがたく」


 湯気のたつコップを受け取って、冷ましながら口をつける。夜も夜の深夜、気になる気配で外へと出るとハサンさんが咎めるでもなく、何かするわけでもなく隣に座る。


「あちっ」

「気を付けろ。火傷すんぞ」

「もう遅いって」

「悪いな、ナインが迷惑をかける」

「なんの話?」

「本来なら教師という立場でお前ら見なきゃいけねーんだがな。それにはまだ経験が足りてねー。その点お前さんは周りをよく見ている。疲れねーか?」


 疲れる疲れないの話で言えば疲れる。けれど、それはいい経験と割り切っている部分がある。こんな安全な演習絶対にない。断言しよう。冒険者になって魔物と対峙するようになって、改めてその危険性を理解したからこそ思う。


「まったく、ガキはガキらしく守られてろってんだよ」

「なんとも言い難いけど、心配してくれてるってのはわかる」

「ったく、こんな野外活動の護衛なんてのは初めてだよ。なんだよこの豪勢な野営はよ」

「言うなよ。やりすぎたと思うけど、あのまんまじゃ森に入ってから苦労するだろうよ」

「言いたいことはわかるがな。お前さんに聞きたい事があってな。海の村エスフォルトは、お前さんの両親の領地だったな?」

「そうだね」

「ブラックランクってのは、強いか?」


 強いとかそんな次元じゃない。人外だあれは。それが国王だったり、貴族だっていうんだから、この国はおかしい。


「そうか。俺ァな、お前さんくらいん時にエスフォルトに居たんだ。けどまぁ、海の魔物の被害でな⋯⋯」


 原初の魔物、水龍。あれはやばかった。油断してくれていたから倒せたようなもので、二度目はないと本気で思う。けれど、その災害に怯える事はもうない。


「当時は弱い自分が嫌いでこうして冒険者になったが、アレをどうにかできる、どうにかするんだって考えてたのが今じゃ愚かに思えてな」

「何が言いたいのさ」

「⋯⋯噂には聞いた。お前の親父さんが討伐したってだから、少し気が抜けてんのかもしれねぇ。無茶な頼みだってのは理解してる。立ち会いをさせてくれやしねぇか?」

「⋯⋯ん。言っておくよ。多分アレには勝てないけど」

「いいんだよ。目指す場所ってのをもう一度確認したいってだけだ」


 ゴールドランクでも十分に強いとは思うけれど、俺の周りが強すぎて感覚が麻痺している部分もあるだろう。そういった意味ではこちらとしても勉強になるところはあるはずだ。


「エスフォルト、いい場所になったか?」

「当たり前でしょ。何たって俺が生まれ育った場所だからね」

「言うじゃねーか。それ飲んだらさっさと寝ろよ」


 気恥ずかしそうに背を向けて去って行くハサンさんの背中はとても立派な冒険者で、とてもカッコいい男の背中だった。

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