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青春=ぼっちの男 ~ぼっちの俺にささやかなラブコメを~  作者: 最東 シカル
第四章 あなたに出逢えて良かった。
82/91

プロローグ

 



 真夜中の住宅街を走るはひとつの影―――。




 その影は余りにも美しく、そして儚い。

 止まることを知らない涙は陶磁器の様な肌を濡らし、そして首へと伝う。

 穢れを知らない少女は走り疲れたのかその場でへたりこみ、焦点の失った目で固いコンクリートを見つめた。


「なん、で・・・」


 大粒の涙は地面を濡らし、地に付いた手にポタポタと落ちていった。


「おかあ、さんっ・・・」


 全部、嘘だったんですか?

 私に向けられた笑顔は、全部―――。


「う”ぅ・・・」


 こみ上げる声は、涙によって堰き止められてしまう。

 少女には滂沱となって溢れ出る涙を留める術が無かった。

 いや―――知らなった。

 泣いたことなんて初めてのことで。少女には今の感情のをどう表現するべきかも、分からなかった。


「おとうさんっ・・・」


 だったらなんで!なんで私に優しくしたんですか!

 私が疎ましいなら、里奈だけを愛していたのならば、最初から私は希望なんて持ちませんでした!お母さんもお父さんも愛しませんでした!


 ―――里奈だって!!!


「っ・・・」


 少女は瞬間、大好きな妹の顔を思い出した。


 あぁ、私はなんて――。


 少女は噛み締める。

 血の滲むほどに。


 

 とその時――。


 

「あら、こんな暗い時間にどうしたの?」


 頭上から聞こえてくる女性の声に、少女は慌てて目元の涙をぬぐった。


「な、何でもないです・・・」


「なんでも無いようには見えないのだけれど・・・」


 少女はある程度涙をぬぐい終わり、早々と立ち去ろうとしたが――。



――コテっ。


 足に力が入らず、可愛らしくこけてしまった。


「あらあら、大丈夫?」


 赤みがかったショートボブの女性は、倒れた少女の腕をそっととり立たせた。


「あ、ありがとうございます」


「あらあらあらあら・・・なんて可愛らしい子」


 ショートボブの女性は少女の顔を見て心底驚いた。

 

―――ここまで綺麗な瞳は、私は知らないわね・・・。


「は、はあ、私はもう行くので、ありがとうございました」


 再び少女は立ち去ろうとするが、それはショートボブの女性の声によって踏みとどまった。



「行く当て、無いんでしょ?」


「っ!?」


「はぁ・・・私はこう見えてあなたの様な子何人も見たことあるのよ。私の目は誤魔化せないわよ」


「そ、そんなことありません!」


 少女は図星だったが慌てて否定する。

 だが―――。


「真っ赤に腫れた目、ヨレヨレな所々破けた服、外なのに靴下のまま、そして――真夜中。これだけの条件が揃ってて、まだ否定するのかしら?」


「っ・・・」


「私はあなたを責めたいわけじゃないのよ。ただ、こんな時間にあなたみたいな子がうろついて居たら、どうしても危ないのよ」


「・・・」


 少女は余りに美しすぎた。

 年齢に見合ったまだ幼い顔立ちだが、その段階ですら画一された美があった。


―――こんな可愛らしい子が真夜中にほっつき歩いてたら、簡単に欲の腐った男共の餌食になるわね・・・。はぁ、仕方ないわ。



「―――私の家に、来ないかしら?」


「ぇ・・・?」


「こう見えても私、結構なお金持ちなのよ?財政面は任せなさい。部屋も沢山余ってたから、丁度いいわ」


「そ、そのような事して貰う訳には――」


「いいのいいの。下手な見栄は張らなくていいわ。ここは優しい優しいお姉さんを信じてくれないかしら?」


 少女には何故か目の前の女性に”悪意”を感じなかった。

 

「・・・」 


 あぁ綺麗な女性・・・。


「どうかしら?」


「・・・お願い、します」


 少女は罪悪感に苛まれたが、どうしても断る気にはなれなかった。

 

「ふふっ、それでいいのよ」


 ショートボブの女性は慈愛に満ちた表情で微笑んだ。


「私の名前は神垣アナ。町裏でカフェを営んでいるわ。どうぞよろしくね?」


 アナさん、って言うんですね。

 うん、覚えました。


「私の名前は―――」



 スッと息を吸う。






「―――古瀬麻衣と、申します」


新章入ります。

麻衣ちゃん編です。

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