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中神航と比良坂翔

10か月振り! 空きましたよ、えぇ。こっちは気が向いた時しか更新しませんからね。たまーに見るくらいがちょうどいいですよ。


紹介編はこれで終わりです。次回からは日常編、一話完結の短編です。行事とかの大きな話はちょくちょく挟みます。


「うっし、もうすぐ昼休みだ……!」

「今日は負けねぇかんな!」

「航こそな!」



 とある日の四時間目が終了間際の時間帯。この時間は日本史の授業だが担当の先生がまだ一、二年目の若い女性の先生ということもありクラス内は騒々しくまとまっていない。先生困ってるなぁ……。

 黙々と勉強を進める人もいれば他のクラスまで響くほどの声量で喋っているグループもあったりする。

 俺は前者。ただし話しかけられればそれに答える。勉強大好き人間ってわけではないしね。自習ばっかりだけども。


 さて、冒頭の会話はというと、昼休み時間はいつも購買でパンを購入している俺の友達、中神なかがみわたる比良坂ひらさかしょうの二人による会話である。

 授業中だというのに、翔の机にはノートも教科書も広がっているのみで筆記用具は一切机に置かれていない。航はさすがに板書を写してたけど。普通に会話をするあたり、この二人は自由時間と勘違いしているのではないだろうか。いやいやまさかね。

 この二人は昼時間になれば毎度の如く競争を始める。時には翔が早弁をして勝負をしない日もあるけれど、たいていはこの二人は勝負をする。何の張り合いか全くわからないけれど。


 ちなみに翔なのだが……。席を立って航の隣にいるのだ。つまり今……立っている。



「ひ、比良坂君。座って!」

「いや、ちょっと聞きたいことというか用事があったんすよー。て、あ! 俺今日資料集持ってきてねぇ!」

「何やってんだよ比良坂ー」



 大きな声で言うことじゃないだろうに。ていうか周りも座らせてあげようよ……。先生ちょっと涙目だし。


 仕方ない。俺も怒られそうだけどこの際どうでもいい。


 俺は席を立って翔のところへ移動する。



「お、どしたん?」

「よっこら、せい!」



 俺は額を割るつもりで正真正銘全力を込めたデコピンを放った。



「いったぁ!?? なにすんだよいってぇ!!? あ、ちょっと待って血出てない? ていうかおでこ凹んでねェかこれ!?」

「凹んでねェ凹んでねェ」



 額を摩りながら席に座ったままの航に確認させるが、当の航は適当な返事で流すばかりだ。



「もういっぱーつ」

「え、あ、ちょ待て待て待て待てぎゃぁああああ!!」



 二度目のデコピンには耐えきれなかったのか、翔は白目をむいてその場に崩れ落ちた。そのやり取りにクラスメイト達は大きく口を開けて笑っていた。やっぱ注目浴びるのは好きじゃないな……。


 俺は脈をとって生存確認をしたのち、腕を引っ張り引きずる形で翔を席へ連れて行った。



「すいません先生。この馬鹿が失礼しました。すぐ戻すんで」

「え、えぇぇぇ……」



 先生は戸惑ったままだが授業が滞るよりマシだろう。


 俺は意識を失った翔を席に座らせた。ついでに意識覚醒のためにもう一発デコピンを放った。目覚めるかと思ったらとどめになってしまったのか、昼休み終了間際まで起きることはなかった。





   * * *





「いってぇ……。まだ痛むんだけど」



 その日の帰り道。俺、航、翔の三人で下校途中で翔は三回デコピンを喰らった額を擦っている。思いっきりやったから四時間が経過しても未だに赤いままだった。



「自業自得だろ」

「うんうん」

「だとしても俺だけやられんのは納得できねぇんだけど!? 一緒に話してた航と同じく席を立った悌も同罪だろこれ!」

「理由がちげぇよ。俺はするときは勉強してたし」

「俺は翔の暴走を止めたかっただけだし」



 翔は涙目になりながら抗議するも、こちらはきちんとした理由がある。航は翔と違って勉強してたし、俺は真面目に授業受けてたし、翔を止めに入っただけだし。翔の場合は勉強すらしてねぇ大馬鹿だもの。何か言われる筋合いはない、と思う。というかない。



「くそぅ……。あ、このラーメン屋でいいか?」



 少し歩くと翔が十数メートル先の店舗を指差す。多少汚れた暖簾と外装が逆に老舗感があってたまらない。てかこんな店あったのか……。



「おー、中々雰囲気良さそうじゃん」

「だろ? 見つけてたんだよーいいとこ。さっそく入ろうぜ」



 そう言って俺たちは店に入る。


 中には俺たち以外にも数人ほど入っていた。店を回すのは三人の男女。おそらく息子とその両親と言ったところだろうか。



「らっしゃい!」



 大将と思われる年配の男性に会釈をした後、俺達はテーブル席に着く。



「俺は味噌にすっかな。二人はどうする?」

「俺は……塩かな」

「じゃあ俺は醤油で。すみませーん」

「はいはーい。ご注文はどうなさいますか?」

「味噌と塩と醤油の三つで」

「かしこまりました。あんた、味噌、塩、醤油ね!」

「あいよ!」



 それぞれ翔が味噌、俺が塩、航が醤油とバラバラに注文する。実は注文するメニューって言うのは俺達の中で決まっている。簡単に言えば三人バラバラの種類にするだけ。他のスープを味見したいってのが一番の理由だ。

 女性の呼び方的に夫婦なのは間違いなさそうだ。でももう一人がわからん。息子さんかもしれないし別のお弟子さんかもしれない。


 数分してラーメンが運ばれてくる。湯気が立ち上り三枚の叉焼と煮卵、メンマに海苔に葱。定番のトッピングだがそれが一番だ。シンプルイズベスト。



「うっし、食べるかぁ!」

「零すなよ」

「大丈夫だって!」

「熱そう……」



 翔と航の二人が勢いよく麺を啜る中、俺はふーふーと冷ましながら少しずつ食べていく。猫舌だから舌を火傷しないように。前に地獄を見たからねぇ……。


 だがここで一つ、俺はこうしてラーメン屋で食事をした後は必ずと言っていいほど気まずい思いをする。正確に言えば罪悪感でいっぱいになる。なぜかと言うと……。



「? どうした?」

「いや……。毎回悪いなぁ、って」




 ラーメンの代金、俺だけ出していないのだ。




 三人でラーメン屋巡りを始めた当初は俺も支払いを行っていたのだが、バイト尽くめでお金に余裕がない事を二人が察すると、いつからか俺が支払おうとしてもストップされ二人で済ませてしまうのだ。


 流石に悪いと思って何度も今までの分の支払いをしようとしたのだが、二人はいらないの一点張り。


 タダで食う飯は上手い、とか言う人もいるけれど、俺はそうじゃない。むしろ不味くなる気すらしているのだ。



「いいんだって。奏楽ちゃんの事も養わねーとだろ?」

「そうだけどさ……」

「悌は気にすることねェって。別にこうして食べる機会だって多くねーし」



 俺のバイトがない日かつ三人の都合が合う日しか行けないため、多くても週一ほど、何なら月一の時もある。

 だが舐めてはいけない。ラーメン三杯で約二千円として、それを月一のペースで食べ続けたとしても、年間で二万四千円、一人につき八千円もの金額だ。ほんと割り勘に自分も入れろと何度言ったことか。



「……いつか返すよ。ラーメン代」

「何十年、何なら死ぬ時までツケにしても俺は許すね」

「右に同じ」



 笑いながらそう言う二人に、俺は涙が出そうになる。拳を握って堪えるけども。


 料金を二人が払い、俺たちは店を出た。食後だというのに翔は元気に駆け回り、航もそれに続く。……本当に楽しそうだ。俺よりずっと交友関係の広い二人が、どうして一緒にいてくれるのか、どうしてそこまで優しいのか。俺は今のこの環境に、未だ実感を持てずにいる。


 この二人はいつもそうだ。俺が何かやらかして怒られるとき、二人も一緒にいてくれる。もちろん、逆の立場になったら俺だって一緒に怒られるさ。むしろそっちの方が多いし。俺が怒られるのなんて、この二人にハメられて冤罪を擦り付けられることが大半な気がする。許さん。

 日本史の時の凸ピンだってそうだ。あれだけ全力で、しかも三発も浴びせられればキレられてもおかしくない。


 けど翔は……。



「……額大丈夫?」

「ん? 何の心配だよ気味悪ぃーなー」

「その言い方はないでしょ……」

「ははっ。あの時クラスのみんな笑ってたろ? それに俺の暴走止めんのは悌の役目。いつもの流れじゃねーか。痛みも引いてるし問題ねーよ。気にすんな」



 この通り、怒るどころか笑って茶化す。今も額は赤いというのに。店に入る前に俺たちにまだ痛むと額を擦っていたというのに。

 もちろん流れと言うのもわかる。中学時代からやんちゃする翔を止めるのは俺だったしチョップも拳骨も喰らわせたことはある。そう考えると俺の方がやばくね……?

 だが、翔と出会って四年近く。一度も本気でキレられたことがない。俺なんかよりよほどお釈迦様だよ、本当に。



「お前はお前のままでいりゃいいんだっつーの。だから俺たちも本気でふざけられる。楽しーんだぜ、今」

「そうそう。それに悌に仕返しした時だって何度あった事か」

「あったあった! 中学の修学旅行の時はお土産二人でつまみ食いしたし、授業中も勝手に教科書に落書きしたりペン折ったりな」

「……そんなこともあったっけ」



 そう口に出すけど言われて俺ははっきりと思い出している。せっかく買ったお土産も、つまみ食いとか可愛い言い方してるけど、食べた量二箱分だからね。落書きとペン折りはまぁ、他の人もやってそうなことだし……うん……だよ、ね……?



「あったさ。涙目で怒る悌が揶揄いがいがありすぎて、思い出しただけで笑える……!」

「中学の時なら他にもさ……」



 笑いながら二人で思い出話に花を咲かせているが、過去の悪戯話が湯水のように出てくる出てくる。おかげで横で聞く俺はひくひく頬が引きつる。


 けど、二人の行為に悪意がないのはさすがに分かる。他の人が聞いたらいじめじゃないか、って思えるようなことかもしれないけれど。二人は楽しそうに笑うし、俺に仕返しもさせてくれる。それをする瞬間は俺も二人も楽しくなる。だから怒ったりはしない。……と思う。



「……逆に聞くけどよ、……俺たちの悪戯に本気で怒ったことあったか?」

「えぇ?」

「一時期な。悪戯止めてた時期あったの覚えてるか?」

「えー……あったっけ」



 遡ってみるが、どこの時期にも引っかからない。記憶力はいいと思ってたんだけど……。



「中学二年の二学期くらいだ。さすがにやりすぎて悌も限界なんじゃねェかって。だからしばらく控えて普通にしてた。それが続いたときに、俺たちを呼んだお前はこう言ったんだよ。『いつも通りじゃないと嫌だ。どんな悪戯だろうと俺は何でも受け止めるから平気だよ』って」



 ……そんな恥ずかしい事俺言ったっけ!? 多分俺にはどうでもいいことだったから忘れてたんだろうな。やばいめっちゃ顔熱い……!



「……覚えてないや」

「だろうな。あっけらかんと言い放ってたし、次の日も何事もなかったかのように接してくんだぞ? ……けど、俺たちにとっては心が軽くなったよ。これで心置きなくできるって」

「うん、いい話にしようとしても無駄だからね? 結構ひどい事言ってるの自覚してる? ねぇ?」



 遠慮なく悪戯できるって堂々と本人に前で言います、普通? 正気の沙汰じゃないでしょ。

 まぁ、俺も結局許してるのも現実だなぁ。お土産の件は二人がお金出して買い直してくれたし。ペンもそう。教科書はどうにもならなかったけど困るものではなかったし。……元々一人だった俺からすれば、こうして構ってくれるだけで嬉しいから。



「まぁな。けど、そっから方向性が変わったんだよ。人いじるより自分でふざけたほうが楽だし迷惑かけねェなって」

「今日の昼先生めっちゃ困ってたけど……」



 涙目だったよ? あ、実はあのあと資料運びとか三人でお手伝いしてました。せめてもの罪滅ぼしだ。最初は困惑していた先生も最後にはありがとうと言ってくれた。なんて優しい先生なんだ。


 俺が呆れてため息を吐くけれど、翔は楽しそうに笑いながら数歩前へ駆け出し、振り返る。



「はは! 俺はやんちゃ小僧の三男で、それを止める悌はしっかり者の次男! そして、何かよくわかんない存在の長男、航!」

「おいコラ!」





「俺達は三人揃えば何だってできるし、何だって楽しくなる! 本気で喧嘩する時だって、最後は仲直りできる! 悌! 航! これからも絶対一緒だからな!」





 翔はこちらを指差しながら、満面の笑みで臆面もなく言い切った。大声で恥ずかしい事言ってくれるな、ほんと。



「……あぁ」

「……うん」



 俺と航は、ただ静かに頷いた。


 わかってるよ、翔。


 この二人のような存在は、この先二度と出会えない。


 お互いの本気を、受け止められる存在なんて数える程度だ。もしかすれば、一生のうちに出会えない人もいるかもしれない。


 でも、俺は出会えたんだ。


 二人だけじゃない。小さい頃からの付き合いの和琴と唯一残った家族の奏楽を始め、出利葉も樟も神前も丹波さんもいる。ちょっと厳しい時もあるけれど。




 けど、今もこうして付き合いを継続できている。それがとても嬉しくて……。




「……泣いてるし」

「え……うわ、ほんとだ」



 目元を拭うと袖が湿っていた。知らぬ間に涙が零れてしまっていたらしい。こんなこと考えるなんて歳かなぁ。



「おいおい泣くなよー。俺が泣かせたみたいじゃねェか」

「……泣かせたんじゃん」

「え、俺何かしたか!?」

「したした。……泣かせた罰でデコピンね」



 涙を誤魔化して俺がそう笑うと、翔は先程までの笑顔が消え、一気に顔が青褪める。



「そ、それは勘弁してほしいっつーか……」

「へへ、ダメー。航押さえて」

「仕方ねーなー」



 俺が指を鳴らして準備をし、頼まれた航も怠そうだが肩を回しているあたりやる気満々だ。動きやすいように航のバッグは俺が預かった。



「マジかよ!? ちょっと待て! くそ、こうなったらバレー部の身体能力見せてやる!」

「サッカー部の実力舐めんなよッ!」

「頑張れー!」



 逃走した翔を航は全力で追いかけはじめる。俺は歩きながら着々と指を温める。涙目で逃げる翔がおかしくて、無表情で追いかける航もなんだかシュールだ。




 こんな日常はきっと今だけだから。こんな日々は、二度と来ないだろうから。




 悔いの無いようにしよう。遠慮なんてものはきっと、この二人に失礼だろうから。




 ……だから翔には、全力の凸ピンをお見舞いしました。



ここまでとはいかなくても、自分が素でいられる友人がいるって、本当に奇跡に近いことなんです。


自分は出会えませんでした。小学生の時に自分を抑え込んだからでしょうかね。逆に人が怖くなりました。人を信じられないし、視線すらも怖く感じるようになりました。


皆さんにもし、それに近い存在がいるならば、絶対に大事にしてくださいね。

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