22 身分と『ルナアリア』と王妃様
夜会は夜遅くまで続き、私は様々な人と楽しい会話を交わしたが、どこか上の空だった。
いくら飲んでも酔わないはずなのに、足元がふわふわする。先ほどの、ウィリアム王太子殿下の言葉が現実だと思えない……いや、現実だと分かっているからこそ、なんだか足元が落ち着かなかった。
それでも陛下の閉会の挨拶を聞いて、ウィリアム王太子殿下に部屋に送ってもらい、侍女たちにてきぱきとドレスを脱がされて化粧を落とされ、お風呂にもう一度入れられて、ゆったりとした寝間着で布団に入る所まで見届けられて、ようやく一人になれた。
暗闇に目が慣れてから、私は起き出して札を布団の上でかき混ぜる。
とにかくこの落ち着かない気持ち……お互いに好きだと思っているこれ、の正体を知りたかった。
頭の中は夜会の最中からこれでいっぱいだ。私は薄暗い部屋の中で、窓の外の満月と同じ色に発光しながら、一枚の眩しく光る札を引いた。
その札の名前は『恋人』。私と、ウィリアム王太子殿下は、恋をしている。恋人同士……というのは、身分としては難しいだろうけれど。お互いが、お互いに恋をしている事は間違いが無い。
私はこの問題を解決したい。私の身分については夜会が終わってからということになっているが、なんとしてもウィリアム王太子殿下と並び立てる身分が欲しい。
けれど、レイテリス国王は私を実子とは認めないだろう。認めたらそれこそ戦争が起こりかねない。レイテリス王国も今更責め立てられたところで、ではなぜジュレイン王国がそれを知ったのかを怪しむだろう。
私の身分は私が得なければいけない。本当の母親のように、全て教えてくれた王妃様に明日、相談するしかないだろう。
でも、自分の息子と恋人になりたい、と言われて、王妃様はどんな顔をするだろうか。
私は戦争を止めるために生まれた子供。この間まで名前すら持っていなかった、何もなかった人間だ。
そんなことを考えながらでも、夜会の疲れからか、私は辛うじて札をしまってから眠りについた。
翌朝……というか昼近くに起きて、今日は少し楽なドレスに着替えた所に、ブランチを引き連れた王妃様がやってきた。
「ね? 夜会の後はお寝坊になるのよ。うふふ、ブランチにしましょう」
「はい、王妃様」
悪戯っぽく笑う王妃様は夜会慣れしているのだろう。たぶん、私が起きるのを待っていてくれたに違いない。
胃に優しいスープやおかゆにしたパン等を食べて、お茶を飲んで落ち着いた頃に、私は人払いをお願いして王妃様に昨夜の相談をすることにした。
「王妃様……、あの、私。ウィリアム王太子殿下が、好きなんです。その……恋を、しています」
ここにはウィリアム王太子殿下もいないのに、私は顔が熱くなるのを感じた。
王妃様は何もかも知っていたような顔で私を優しく見つめている。
「えぇ、そうね。ウィリアムも、貴女がここで学びを始めてすぐに、私に言って来たわ。彼女に恋をしている、ルナアリアと婚約し結婚したい、と。だから、あなたたちを会わせてあげる時間はないけれど、ずっとあなたのための籍を準備させていたの」
驚いた。王妃様は聡い方だけれど、なにもかも先を見越されていたようだ。私が、好き、が、恋だと自覚したのは昨日だというのに。
「ルナアリア。貴女は、明日より大聖堂で巫女となりなさい」
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