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21 『私の夜をずっと照らして欲しい』

 あっという間に時は過ぎ、私の誕生祭の夜会の日は、朝からの大仕事になった。


 お酒は、味というよりも炭酸が弾ける感覚が気に入った。


 全く酔わない体質のようで、王妃様が「大丈夫そうね……!」と言って酒瓶を片手に机に沈んでしまった時には困った。侍女たちに寝室に運んでもらったけれど、どうも私は何をどれだけ飲んでも大丈夫なようで、様々な種類のお酒の瓶を空にしてしまったらしい。


 王妃様はひと瓶でダウンしていたので、私もあまり人前で飲み過ぎないように気を付けよう。緊張していたら、また違うかもしれないし。


 夜会までの一ヶ月間は、特にダンスと会話に重点を置いて訓練をした。運動神経がよかったのでダンスはおさらい程度でよかったのだが、会話が難しかった。


 私はレイテリス王国の姫ではなく、同じく戦火に巻き込まれそうになった別の国、アルテイル王国の王室の末席の王女という扱いだった。ルナアリア・アルテイル、という設定を密かに作ってくれたらしい。アルテイル王国は小国で、外交もジュレイン王国以外と行っていない事から、陛下の計らいでそのような扱いとして、留学中の私の誕生日を祝う夜会を開く、としてくれた。


 なので、私はそのアルテイル王国の第四王女、ルナアリア・アルテイル。アルテイル王国の主な特産品や観光地についての知識を頭に入れ、それを前提とした会話をする、ということになった。今回は知っている人が殆どなのでうっかり失敗してもいいようだが、今後はそうもいかない。


 その辺についてのもっと詳しい事は、夜会を終えてから、ということで……一応は知識を頭に入れ、会話もよどみなくできるようにはなった。


 そして当日、私は、朝から裸に剥かれて侍女に香油を使ったマッサージをされている。


 長いままの髪を洗髪し、卵白を泡立てたもので艶を出して、洗い流してまた香油をつけて梳る。


 マッサージの後は入浴だ。これもまた香油の落とされたバスタブで、念入りに肌を擦られた。赤くならない程度だから痛くはないけれど、少し肌が白く見える。


 顔は擦るわけにはいかないので入念なマッサージのあと綺麗に洗い流され、美容液やらをぬりたくられてから、今度はヘアメイクである。長い髪を活かすように編み込みをして真珠の髪飾りで止める。


 そしてドレスに合わせた下着に、コルセット。今回は思い切り締め付けられた。


 胸が盛り上がるように作られた下着と、ウエストを締め上げるコルセットのお陰で私の身体は豊かな曲線を描き、それに沿うようなマーメイドラインのドレスを着せられた。


 金のレースで首から胸元までが覆われ、下品にならないように胸の半分からは下に向って生地を捻るようにして縫ってある。銀をラメに使い、髪色に近い淡い金色のドレスを纏い、白金の宝飾品に深いサファイアの宝飾品、踵の高い金のハイヒールで出来上がりだ。


 鏡の中の私は、普段しない濃い化粧もあってか、まるで別人に見える。お母さんに少し似ている気もするけれど、なんでだろうか、私は母神を思い出す装いだと思った。


 時間になってウィリアム王太子殿下が迎えに来ると、彼は入口で固まっていた。


「……変ですか?」


「いいえ……、ルナアリア姫、実に……本当に、お美しい」


「よかった。貴方にそう言われたかったのです。エスコートをお願いします」


 彼は私に心からの賛辞を贈ってくれた。久しぶりに会っても、侍女たちがいるのでどこか他人行儀な私たちの会話だが、目が笑っている。久しぶりに会えて本当に嬉しい。お互いに、そう思っている。


 彼の手に掴まって夜会の会場に入ると、中の人の視線が一斉に集まった。私はマナーで習った通りの綺麗なお辞儀をし、ウィリアム王太子殿下と一緒に階下に降り、陛下と王妃様に挨拶をして、横に用意された椅子にウィリアム王太子殿下と並んで座った。


 次々に私に誕生祝とその贈り物を持ってくる人達の応対をし、ちゃんと設定どおりに会話出来たようで王妃様にはこっそり褒められた。しかし、見知った顔が多いとはいえ、誕生日を祝うのに贈り物までするのか、と驚いた。私はお金は当然持っていないし、どうやってお返しすればいいのだろう、と内心頭を悩ませていたが、その辺はちゃんと、後で教えるよ、とウィリアム王太子殿下が囁いてくれたので考えるのをやめた。


 楽団の曲がダンスのものに変わると、ウィリアム王太子殿下が私の前に立って手を差し出した。


「一曲お願いできますか?」


「喜んで」


 こうして会場の中心でウィリアム王太子殿下と踊るのは、本当に楽しかった。あの花畑で走り回った時のような高揚感があったし、ウィリアム王太子殿下はいつも私の中を好きでいっぱいにしてくれる。


 私は伝えようと思いながらうまく言葉にできずにいると、ダンスの終わりにウィリアム王太子殿下に軽く抱き寄せられた。


「ルナアリア……どうか、私の夜をずっと照らして欲しい。……今の君なら、これがどういう意味か分かるよね」


 それは、私がうまく言葉にできなかった言葉。


 ウィリアム王太子殿下も、ずっと私をそう思ってくれていた。ただ、私がその言葉を持っていないから伝えなかっただけで。


 言葉を知ったから、感情を知ったから、私はウィリアム王太子殿下の言葉を聞くことができる。受け入れる事も、自分の気持ちを伝える事もできる。


 泣きそうで言葉に詰まったが、私は泣かなかった。嬉しすぎて涙を目にいっぱいに溜めながら、それでも笑顔で、ウィリアム王太子殿下を見上げた。


「はい、ウィリアム王太子殿下。私は、あなたの朝に向かう道を照らし続けます」


 その言葉に身体を離したウィリアム王太子殿下が、私の手を取り、甲に額を付ける。


 私は今なら、それを知っている。男性が、愛する女性にのみ行う最敬礼であることを。

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【長編異世界恋愛】
宰相閣下は『壁の草』をご所望です!~転生モブ令嬢は推しの溺愛に気付かない~
― 新着の感想 ―
[良い点] ルナアリア♪ 可愛い名前です その名前にちなんだプロポーズも素敵です^_^
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