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第三十話 長旅の先に

「おい人探しさ()くんだで!」


 三人はデッキの手すりに寄りかかって、 蝸牛が背のびをしたように延びて、海を抱え込んでいるヘスティルディンの街を見ていた。

 ヘスティルディンというのは、ブルーストの北にある大きな島の南部に位置する港街である。


「……ステフィーさん? この船は蟹工船ではありませんよ? その見てて不愉快になるその格好やめてもらえます?」


 カルラは、低い声でそう言った。

 何を隠そう、アマラ、カルラ、ステフィーの三人が登場しているのはブルーストからヘスティルディンへと向かう小さな高速船の甲板である。

 ステフィーは何を思ったのか、その場には似合わない派手な成金が着るような服を来ていたのだ。

 アマラは、何も言わずに俯いているがカルラの意見には肯定的だ。


「うむ、そうだな……」


 ステフィーは、何か言おうとしてが言葉を遮った。そして、船頭に赴くなり近づいているヘスティルディンの街を眺める。


「まさか、こんなことになるなんてね」


 アマラは、暗い顔で海を見た。ブルーストとヘスティルディンの間を流れる海峡の海は、とても冷たく気性が荒い。おまけに深い。そのため、アマラが見た海は青というよりは紺色の、底なんてないじゃないかって思えるようなそんな色をしていた。


「まもなく、ヘスティルディンに到着いたします。お降りの方は、ご準備ください」


 三人は下船の準備をするために一度船内へと戻った。

 やがて、三人と僅かな乗客を乗せたしがない高速船はヘスティルディンへと到着した。

 ヘスティルディンは観光地としての特性が強く、高速船に乗車していた他の客の内の半分程度は観光客であった。

 しかし、ステフィーを除いた二人の顔色は決して冴えたものではない。なお、ステフィーもああ見えて内心気落ちしているらしいとのことである。

 カルラは、ヘスティルディンの街並みを見るなり呟いた。


「で、とりあえずどこへ向かうんでしたっけ? ヘスティルディンは大きい街ですよ?」


 ピールスリンと比べたら人口は1/5もない。それでも、北の島にある都市の中ではヘスティルディンは主要都市であり、ブルーストなどとの貿易も活発であるため非常に重要な都市だった。


「一応、例の件を取り扱っているNPO法人がヘスティルディンにあると聞いています。他にやれそうなこともありませんからね」


 アマラが答えるなり、三人の目的地が決まった。しかし、ヘスティルディンという街は人口規模に比べても面積は広大だ。NPO法人の場所が記載されている地図を取り出してみるも、ここからはかなりの距離がある。


「遠いですね……」


 歩いて数時間の距離である。馬車を拾おうにも、あいにく持ち合わせはほとんどない。ブルーストまでの経費が非常に高額だったのだ。

 ブルーストで暴風竜を探しに行った時は、例の船長にぼったくられたとはいえ一応はブルーストギルドがほとんど負担してくれたこともありさほど大きな額ではなかった。

 しかし、今回は誰も助けてはくれない。自費でブルーストまでたどり着き、高速船に乗船したのだ。


「仕方ありません、歩きましょう」


 カルラは、軍属時代に訓練していたためそこまでの抵抗はない。そして、ステフィーに至っては披露という概念があるかさえ甚だ疑問である。しかし、アマラは違うのだ。


「わかりました、歩きましょう」


 それでも、アマラは歩く決心をした。それだけ、このことは彼女、そして彼女たちにとっても重要なことなのだから。

 そして数時間が経過した。当然だが日もくれ、三人は喉が乾き腹も減る。尤も、ステフィーに空腹や口渇という概念があるかは甚だ疑問である。


「あそこですね……」


 アマラは、渇望していたNPO法人の建物が見えてきた。

 なんで中心部から遠く離れた場所にあるのか。地図に書いてあったのだが、地代が安かったかららしい。その文言に気がついたアマラは地図を破り捨てたくなるほどの衝撃に襲われたのだが、なんとか自制心が勝り地図を破り捨てることは回避できた。


「と、とりあえず水でも出してもらいましょう」


 三人は、水をほとんど飲んではいない。大切な飲食にかかるような費用でも、交通費を優先していたからだ。


「さて、入りましょう。でも、こんな時刻だともうやっていないかもしれませんね」


 カルラの心配を他所に、アマラはNPO法人の建物の扉に縋り付くようにドアノブに絡み、捻った。


「ん? お客様ですか?」


 今にも死にそうな顔をしているアマラたち三人を見て若干引きつつも、来訪者とあって係の者は丁寧に受付をしてくれた。そして、例の件の担当者に話を変わってもらえた。


「で、用件なのですが事前にお聞きしている通りのことですか」


 担当者は、事前に集めた資料と思しき大量の札束をテーブルに置くと、担当者を含めたアマラたち四人はテーブルを囲う椅子に座った。


「ええ」


 アマラは、丁寧に担当者の問いに対して返事をする。


「わかりました。では行方不明となっているヤマダタロー氏なのですが、目撃例が一件だけありました」

今年最後の投稿です。一年間ありがとうございました。良いお年を!

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