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第十七話 奴隷収容所 後編

「邪魔者もいなくなった、次はお前だ」


 カルラは覚悟を決め再び剣を取る。しかし、今まで一回も当たらなかったため不安により手元が震えていた。


「行くぞ」


 光の如く動く幕僚長の速さにカルラは目で追うことすら叶わず幕僚長の一振りでのカルラの剣を粉々に破壊する。


「そんな鈍の剣でよく戦おうと思ったな!」


 剣戟こそカルラの剣のみに直撃したが、その速さ故の衝撃波、そして粉々となった破片はカルラを襲い肩に無数の傷ができていた。各々の破片が刺さったために傷は斑点状になり青ばんでいた。


「くっ」


 動けないであろうカルラを幕僚長は見て安堵したのも束の間、ステフィーの方へ振り返った。


「これ以上は動けまい。さて、ステフィーくんと言ったかな?君とも相手をしないとね」


「相手?貴様礼儀がなってないな。我は神より信託を賜り、愚民に伝える伝道師。宗教的権威など微塵も感じられないお前を敬虔しろと申すか」

「いえ、別にそこまで言ってないけど。まあいい、その醜いランスを粉砕してやろう」


 再び幕僚長の剣が光を帯び、ステフィーに飛びかかる。巨体が扱うランスだけあってランスは大きく重かった。そのため光を帯びた剣でさえも一撃では破壊できず半分ほど突き刺さった程度である。


「鈍らの剣よりかは楽しめそうだな……ん?」


 ステフィーを見ると妙な笑みを浮かべていた。このランス、何かがおかしいと幕僚長は察し抜こうとするもそう簡単には抜けなかった。そして、ランスに秘められた能力が発動した。

 ランスが微かに震え幕僚長がどんな攻撃が来るのかと身構えている中ステフィーの録音した声が聞こえた。内容は勿論信託である。


「そう、この愚者を司りし聖槍(ランス)にはな、録音魔法により録音がついているのだ!」


 何故か勝ち誇るステフィーに幕僚長は再び剣に光を纏わせて力を込めた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。愚者を司りし聖槍(ランス)が!!!」


 ランスに亀裂が走りそのまま瓦解していった。慟哭するステフィーだったが、後ろから近づいてきた真顔の幕僚長に剣を振るわれ戦闘不能になった。


「さて、アマラくん。次は君の番だ」


 幕僚長の顔は狂気の感じられる笑顔だった。幕僚長は貴族親衛隊の長。技術、魔力、経験、筋力すべてにおいて勝てるはずがない。しかしアマラは動こうとはしなかった。


「……。そろそろ」

「ん?何がだい?SAN値とか?」

「耳を澄ませてみろ」


 幕僚長は聞き耳を立てる。そして、聞こえてきたのはこの奴隷収容所に轟く夥しい足音、それは大量の軍勢と飼いならされたドラゴンだった。


「なんだこのドラゴン!?」


 予想外であったためすぐに剣を構えた。軍勢とはいえ仮にも幕僚長、それなりには戦える。

 そして、軍勢の先頭からオットー一人が歩いてきた。


「幕僚長!あなたを殺人罪と監禁罪諸々で訴えます!理由はもちろんお分かりですね?あなたが公爵であらせられると同時に幕僚長を兼任という国を守らなければならない立場なのに、その権力で全域の風紀を乱したからです!覚悟の準備をしておいて下さい。貴方は犯罪者です!刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!自分のセリフに感極まって涙が止まらないなんて言う必要はないがな!」


「……。敵兵数千人。雑魚相手でもきついな」


 幕僚長は投降する気などまるでなく戦おうとしていた。


「幕僚長!一対一の戦いを申し込む。あなたが勝てば我々は引こう。まさか、誇り高きであり公爵であり幕僚長でもあらせられるお方が民の名誉を汚すような真似はしないですよね?」

「いいだろう」


 一対数千を一対一にできるとあって幕僚長はすぐにその提案に乗った。

 静まり返った収容所。兵士はどちらが勝つのかを静かに見守るだけだった。


「いざ、参──」


 オットーが斬りかかろうとした。


「見切った」


 雑魚に比べれはマシだか、それでも幕僚長には敵わないのだ。避けて幕僚長も攻撃しようと剣を振るうが、金属製の小さな玉が幕僚長の胸を貫いた。

 途端に幕僚長は倒れた。すぐにオットーが息を確認するが辛うじて息があるだけ。そして、オットーは堂々と勝ち誇った。

 元々この計画は事前に立案されたものであった。仮にも貴族や軍の中枢人物、プライドが無いわけがない。有利な条件をだして一対一にさせた上で射殺するというものだった。

 軍勢からも多くの声が上がり「おいおい瞬殺だよ」「勝ったッ!第二部完!」と大歓喜であった。


「まだだ……! まだ生きているかも知れん……!」


 とある兵士が幕僚長の体に剣を突き刺さす。


「いや、もういいだろ……」


 オットーが止めに入るが兵士は言うことを聞かない。


「いや……まだだ……! まだ安心は出来な──」


「お前、出身はどこだ?」


 死体蹴りをしている兵士は驚いた。なぜなら、掛けられた質問は今自分が剣を刺している幕僚長から発せられたからだ。


「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」


 素っ頓狂な声を出すものだからその声に幕僚長も驚いた。


「そんなに驚かなくてもいいだろ」

「そうだな、私の出身はだスリープール。改革派に雇われた」

「そうか。……」


 スリープールは遥か西にある国のことだ。幕僚長はよく知らなかった。そして、抵抗するのをやめた。自分の死を覚悟した。

 安らかな死が近づいてはいるものの、オットーが近くに来たことで更に安らかな死が遠のいた。


「それにしても、この男は不思議なことが多いな。誰か死に際の回想シーンを引き起こせる魔法を持ってるものはいないか」


 死に際の回想シーンを引き起こす魔法はかなり珍しい。しかし、射撃担当が恐る恐る挙手をした。


「俺、使えます。臨死回想!」


 オットーの視界が歪み幕僚長の記憶が映像とともに流れ込んできた。


 俺はダンティル出身の母親とピールスリン出身の父親の間に生まれた。暮らしていたダンティルは人口・経済ともに規模が少なく、貧しいくらしをしていた。そんななか、ピールスリンと合併の話が入ってきた。このままいっても生活はよくならない。だからこそ、ピールスリンと合併して豊かな暮らしを得ようとした。そして、ついにダンティルの大半はピールスリンと合併して、新ピールスリンが誕生した。

 でも、生活はよくならなかった。それどころかのピールスリン奴らが大量に流入し、合併時に保証されていた自治権は没収され、反抗しようものなら土地を没収され投獄された。

 そのころ、ダンティルの学校に通っていたが、父親がピールスリン出身ということで独立派の子供から執拗な苛めを受けた。当然母親もだ。母親は大病を患っていたが、病院に通うことが許されず母親は病死。父親は我が物顔でダンティルの街を移住してきたやつらとともに大通りを踏みしめていった。

 しかし、あまりにも反感が強いことから俺と父親は揃ってピールスリンに移住することとなった。いじめられないと信じてきたものの、今度はを遥かに凌駕する田舎者いじめだった。

 嘘をついてを統合。そして土地を荒らして弾圧をする。

 自分は確信した。ピールスリンの奴らは最低の人種。この世に存在してはいけない民族だと。

 まず、俺は父親を殺害。その後のダンティルと同様にピールスリンと合併しながらも自治権を持っているプリンシドに移住した。そして、プリンシドにある貴族親衛隊の付属施設で人心掌握術を学んだ。貴族へお近づきになるために。

 簡単だった。すぐにの公爵の娘に接近した。そして結婚。彼の父親である貴族、そして娘を交通事故に装い殺害した。

 プリンシルは自治権によってピールスリンほど厳格な法はないので、貴族の継承権も緩く公爵の座を手に入れた。

 あとは簡単だ。越権行為で貴族親衛隊幕僚長にまで上り詰めた。そして、幕僚長権限と貴族の権限で人を奴隷制度を利用して虐殺した。



「なんと下劣な……固有名詞が多すぎてあんまりわかんなかったなんてこと、ジャーナリストの私が言うはずもないがな!」


 オットーが大声で喋っている間に、太郎と中尉は汗だくになりながら急いで戻ってきていた。


「幕僚長!」


 中尉が急いで幕僚長と亡骸を確認した。


「次はお前の番だ!中尉!」


 射撃担当が中尉を狙う。太郎が剣を構える。その他軍勢が武器を構える。中尉にとって逃げ場はない。


「さらばだ」


 中尉は軍勢の期待を裏切り消えた。


「消えた……のか。まあいい、次あったときに倒すとしよう。それまでに、強くなんないとな」

 

 中尉が強いことは太郎もわかっていた。仲間の手当もして、ピールスリンへ戻る支度をする。


「中尉を取り逃がしてしまった。今度は絶対捕まえるぞ。まあ、内乱で国境検問所が機能してないなんて言う必要がないがな!」


 オットーのどうでもいい大きな小言を聞き太郎一行に戦慄が走る。

 

「なんだって!?急いでピールスリンまで向かおう!転移魔法使わなきゃ良かったな……」


 大急ぎて馬車を捕まえ陽がすっかり茜色になった頃、一行はピールスリンへと到着した。


「それにしても、街が騒がしいな。やっぱり内乱で何かあったのか?」


 大通りまで出ると、そこには『奴隷解放!人権守れ!』などといった巨大な看板を抱えた群衆が溢れかえっている。そして、その先には貴族親衛隊の残党の姿があった。

 残党は容赦なくデモ隊を攻撃し次々と人が倒れていく。攻撃は苛烈を極め付近の建造物も崩壊し、酷い有様だった。


「宣言する。我々は奴隷の解放を認めない。また、北部一帯を占領した。これ以上の抵抗はやめろ!」


 残党のリーダーと思われる人物が先頭に立ち、抵抗を辞めるように宣言していた。しかし、抵抗を辞めるように言っているが、残党も容赦なくデモ隊を殺して回っていた。


「もしも、現政府が負けて親衛隊による政治を招けばは必ず暗い未来へと突入するだろう。今こそ、我々は親衛隊の解散と、奴隷解放に向けて明るい道を進まねばならない!」


 改革派と大きく掲げられた看板の下でもまた、リーダーが市民に演説を行っていた。改革派も一応は武装組織のため容赦なく残党と渡り合っていた。

 その影響であらゆる建物が崩れ、人が死んでいた。

 太郎はその凄惨さに、思わず口を開いた。


「……。内乱が……始まった」

ところで、誤字脱字等あったらご報告よろしくおねがいします

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