第十四話 ウェステス北部地区
運転手に聞いた話によると、ウェステスはリハウセド程ではないがピールスリンの衛星都市兼高級住宅街らしい。日が沈みかけているが、できれば今日中に片を付けたかった。
「到着しました。代金の方は……」
運転手は恐る恐る太郎の方を振り向いた。そこにはウェステスに到着するなり、怯える貴族を片腕で抱きかかえている太郎の姿があった。
「この貴族宛に請求して下さい」
「あ、はい」
奴隷だと思っていた人物が貴族だとわかり罰が当たらないか、などと考えながら運転手は去っていった。
「さて、犬。ウェステスに着いたぞ。案内しろ」
「はい……」
貴族は嫌そうな顔をしながらも渋々案内を始める。
「奴隷収容所はウェステスの北部にある山間部にあります。そこまでは馬車を捕まえなければ」
「簡単に馬車とか言ってくれるけど、馬車って高いんだよ?知ってる?こっちは、お金ないんだよね。1アルゼンチンペソしかないや」
太郎は体中を漁るが、出てきたのはペソ硬貨だ。
「そ、そうですか」
貴族が焦点を合わせようとしないことに疑問を呈したステフィーは、貴族の前で仁王立ちをする。彼女は長身ということもあり、中々の迫力がある。
「神は言っている。ここで有り金を貢ぐ定めだと」
「持ってません……よ」
貴族は口ではないといっているが、体が震えて慄いている。最早言い逃れなど出来なかった。
「神の使者である我に虚言を通そうなど1兆年早い。早急に持ち金全て貢げ」
ステフィーがランスの先を喉元へ当てる。
「ひいぃ。わ、わかった。持ち金すべて出すよ。この服も装飾も売っていい。命だけは」
するとアマラの眼つきが変わる。その姿はまるで獲物を捉えた獣のようだった。
「剥ぎましょう」
太郎たちは傍観した。獣と化したアマラがナイフで貴族の服を剥ぎ取る様子を。
贅沢の限りを尽くしてきた貴族はさぞかしだらしない体かと思いきや、服の内側から出てきたのは適度に引き締まった良い体だった。太郎も思わず顔を赤らめる。
「いい男……」
そんな艶めかしい声を気にも止めずアマラは太郎に貴族の服を渡した。
「タローさんはこれ換金してきて。そして、激安の服を買ってきて下さい」
「ああ、わかったよ」
ウェステスはベットタウンらしく人口も多いため、アパレルショップは思いの外充実していた。太郎は高そうな店舗で貴族の服を売っぱらい、古着屋で公然猥褻罪すれすれの猿股を買う。
元の場所に戻ると、そこにはステフィーが一人で何やら呟いていた。
「買ってきたけど、二人は?」
「我が眷属の二人は、静寂に呑まれし林で待っておるぞ。では、我が信託の続きを。なぜ我が信託をしているのかというとだな……」
アマラとカルラは人目につかないように林に移動していた。そのため、ステフィーが待っていたと後からアマラから聞いた。もちろん、ステフィーがそんなことを喋る筈もなく意味や派生についてを延々と聞かされていた。どうにか精神的苦痛に耐え、人気のない林へとやってきた。そこには全てを剥がされすっぽんぽんになった無残な貴族の姿があった。
「むごい」
見て見ぬ振りしたとはいえ、その言葉が思わず口から出てしまった。
「600ネスもありました。タローさんは換金してきましたか?」
アマラは、600ネスを片手に乗せて眺めながら恍惚しながらそう告げる。
「まあ、1500ネスで買い取ってもらったよ。猿股が3ネスだから手元に1497ネス。さて、馬車を捕まえようか」
「その前に、一応風引いてしまうかもしれないのでこの方に履かせて上げて下さい」
「そうだな」
太郎が古着屋から受け取った紙袋から中身を取り出し、驚愕する。
「あ……」
「ん?どうしたんですか?早く履かせないと……」
思わず漏れた声に疑問を感じたカルラが太郎の方を振り向く、太郎が手にしていたのは猿股ではなく布状の猿轡だった。
「古着屋の店主に猿股下さいって言ったんだけどな」
「取り敢えず、それで急所を保護しましょう」
幸いにも布であるために急所を隠すには充分であった。しかし、留めることは出来ないため魔法を使いくっつけておく。
貴族は羞恥のあまり気絶してしまったが、太郎たちは形振り構わなかった。近くの駅逓から馬車がでているとのことなので、馬車に乗りウェステスの北部地区へ向かった。ウェステスの中心部からは少し離れており、緑がと建物が調和している街並みだった。
「ここは奴隷収容所に向かうための中継地だ。もしかして、まだ行くのか?夜なのに?」
あたりはすっかり日は落ちていた。元々建物が少なく光が少ないこともあり、何も見えなかった。
「あたりまえです。夜明け前までには陥落させます」
「とりあえず、一度ここで休憩しないか?ここから先休める場所もないだろうし」
「そうしましょうか」
貴族から贈与された大金を使って夜食を食べようと飲食店を探す。チェーン店は無く、長年この地域に根付いてきた飲食店が所々に建っている。
「お?。あそこで人が集っておる。きっと我の信託を聞きに集った者たちであろうな」
ステフィーは群衆が集まっている方を指差す。しかし、聞こえてくるのは芳しくない声だった。太郎たちは警戒しつつ恐る恐る近づいてみる。
「うっ……」
「我の信託を妨害しようとする組織の策略か。いいだろう。この恨み1京倍にして返してくれようぞ。さあ、掛かってくるが良い!」
そこには横たわっていたのは、夥しいほどの傷と痣のある人の死体だった。蛆も集っていないようで、死体も新しい。どうやら亡くなってそんなに時間は経っていないようだ。
「むごいな。これだけの傷と痣。きっと奴隷の一人だろう。暴行三昧の日々に耐え切れず逃げ出したものも途中で力尽きた。そういうことだろうな」
太郎は死体に向かって手を合わせ祈りを捧げた。せめて安らかに眠ってほしい。
「それにしても、なんでここらにはよく傷だらけの人が死んでいるのだろう?」
「この村に対する祟り的な……?」
ここの村人は近くに奴隷収容所があることを知らない。何かと理由を付け安心を持たせているが、やはりどこか恐怖心は植え付けられているらしい。太郎は安心させるため話していた村人に豪語する。
「大丈夫ですよ。この祟も今日でお別れです」
「「え?」」
二人の村人は目を見開き互いの顔を見合わせ唖然とする。理由を聞こうとするも、もう遠くまで立ち去っていた。
「除霊師なのかな?」
「休憩だけど、何か食べようか」
近くの店をスマホで検索した。が、ステフィーが太郎のことを奇妙な目で見つめ首を傾げている。いつもは奇妙な目で見られている方だが、気になるものは気になるらしい。
「我の前で硯など触りおって気が触れたか」
「す、硯を触りたい気分なんですよ」
ここの住人にとってスマホは硯に見えるようだった。飲食店はどこも閉まっており、旅人向けの小さな店が開いていた。そこで塩ピーナッツを購入し、夜空を眺めながら塩ピーナッツを食べ始める。今朝ピールスリンに到着してから色々なことがあったと太郎は思いを馳せた。消耗した体に塩が染みこむ。
「本当に行くんですか?」
アマラは塩ピーナッツを食べる手を止めた。
「私は行きますよ。でも、タローさんは行く意味なんて無いですよね?無理して行かなくて良いんですよ?わざわざ命の危険を冒してまで行くことでしょうか?タローさんはかなり楽観視しているようですけど、考えましたか?」
途中から語勢が強くなり、アマラが本気で言っていることなのだとわかり太郎だけの手が止まる。
「考えたさ。そんなこと」
太郎は浮かんだ言葉を良く考えもせず軽はずみで口にする。確かに、よく考えなかったことは無かったかもしれない。
死体を見つけたときだって少ししか動揺しなかった。神様からもらったこの能力なら奴隷解放なんて朝飯前。そんなことを心の奥底でどこか思っていたのかもしれない。アマラは僕の能力を知らないからそう思うのは必然かもしれない。でも、一週間ずっと一緒にいたこの娘からそんな目で見られていたとは。関係を築くのは難しいな。
「本当ですか?」
アマラの目は怪しんでいる目だ。太郎はアマラに信じてもらおうと語り始めた。
「勿論。僕は師から受け継いだこの技を信じてるんだ。師は言っていた。かなりのことがない限り君は死なん、と。見縊らないでほしいよ」
「呆れました。自分ではただかっこいいことを言おうとしているですね」
太郎はかっこいいことなど言っていない。しかし、アマラが少し笑い気味なのを見ると反論する気も起きなかった。
「で、ステフィーとカルラは何か答えてください」
アマラの隣に座っているステフィーは一人で何かを呟いており、カルラは夜空を眺めていた。
「え?何か言った?」
「我の信託の続きを神から賜与されている最中なのだが……」
「聞いてないし」
その後奴隷の遺体は北部地区の集落で火葬されることが決まった。そこからは普通の馬車を捕まえ、ウェステス最北端にある森に辿り着いた。
「ここからは徒歩だ。馬車が通れないような道にある」
「めんどうですね」
とはいえ、馬車が使えないとなるともう歩くしかなかった。
貴族の話によると奴隷収容所は森の奥深くに建設された地下施設らしい。しかし、舗道は整備されていた。
「貴族に未舗装道路を歩かせられませんし」
舗道は見事に整備されており、舗道だけ見たら誰しもが収容所だとは思わないだろう。
奴隷収容所の入り口は小さな小屋のような感じだった。まるで休憩小屋である。
「さて、行くか!」
そういって太郎は扉を破壊した。
正直言ってあまり上手く書けた気がしません。結構つまらなかったかもです。




