2月14日
扉が開く。待ちわびた人物の来訪に、少年は思わず舌なめずりをした。こすり合わせていた両手を頬の左右に添え、口を尖らせる。
「いよっ!待ってました!」
部屋の中央にあぐらをかいて座っている学生服の少年、ダイキ。短髪ゲジ眉、細い目の、笑顔が似合う少年だ。
「ダイキ。来てたんだ」
部屋に入って来た少年も同じく学生服姿で、大きなカバンを肩にかけている。少し伸ばした髪を自然に流し、整った顔が優しい印象を帯びている。
「おう、お邪魔してまーす」
「もしかして、学校から直接僕んちに来たの?」
「おう。何てったってユウの為だからな!」
笑い飛ばすと言う言葉を思わせる、ダイキのパワフルな笑顔がそこにあった。
「自分の為でもあるだろ?」
少年ユウは半笑いで答えながらカバンを置き、ダイキの前に腰を下ろした。
「人聞きが悪いな。俺今朝から何も食ってねーんだぜ。何てったって今日はアレだからな」
引き続き笑顔のダイキに対し、ユウは表情を曇らせ、置いたカバンに目を落とす。
「ああ、それなんだけど…」
「ん?どした?」
ユウは首をかしげた後、カバンのチャックを開け、右手を中に入れた。ダイキの目線が目の前のユウからカバンに移る。
「今年は…これだけなんだ」
ユウが控えめに掲げた手には、濃い赤色の紙で包まれ、金に光るテープで飾られた平たい箱があった。
「は?一個?」
ダイキの笑顔が一変、目を見開き口は半開きになっている。
「うん…」
「どうしたんだよ。去年は数えんのも面倒なくらいあったじゃねえか」
「分からない…」
ユウは掲げた手を下ろし、箱を床に付けた。ダイキは内緒話でもする様に上半身を乗り出して、ユウに接近する。
「バラしたのか?チョコ無理だって」
ユウは小さく、首を左右に振る。
「それは無い。誰にも話してないし…」
ダイキは元居た場所にドカッと座り、腕を組んだ。ユウはうつろげな目で、自分とダイキの間の床を見ている。
「僕にも何が何だか分からないんだ」
「んだよー、折角メシ抜いてきたってのによー」
声を大きくして不満を主張するダイキに、ユウはススッと床を這わせる様にして、赤い箱を差し出した。
「とにかく、これはダイキが食べて。僕はアレルギーだからね」
「おう…」
ダイキが赤い箱を受け取ると、ユウは立ち上がり、クローゼットを目指してフラフラと歩いた。
「言っとくけど俺はぜーったいアレルギーの事バラしてないぞ。何てったって俺達親友だからな」
クローゼットの前に立ったユウは、ダイキに背を向けたまま、制服のボタンをひとつひとつ外していく。
「そうだね。去年、女子から貰ったチョコを代わりに全部食べてくれたよね」
「直接言わねえのか?チョコ無理だって」
黒い上着の袖から腕を抜く途中で、ユウの動きが止まる。
「…直接チョコを手渡ししてくる子も居る。食べれないからってはね退けたら悲しむかなって思うと、ね」
「ユウは優しいよな。んでモテる」
力説する様にダイキが言うと、ユウが脱衣を再開し、黒い上着を脱ぎさった。
「モテる…筈なんだけどな。今年は一個だけか」
ダイキが赤い箱を顔の前まで持ち上げ、手首をひねって箱を観察している。
「まっ!変にモテても迷惑だし気にすんなよ!」
ダイキは笑顔で立ち上がり、ユウの背中に近付いた。肩を叩いて励まそうとしていたのだが、ユウが振り返ったのでそれは出来なかった。
「迷惑はしてないけどね、ちょっと気になるな。嫌われる様な事はしてないと思うんだけど」
「嫌われたりしてねえよ。何てったってユウは優しいからな!」
ダイキの力強い笑顔に、ユウもつられて微笑んだ。
「ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」
「おう!」と返した所で、ダイキの腹がググーッと鳴った。
「一個じゃ足んねえから、今日はもう帰って何か食うわ」
「うん」
「じゃあな、ユウ」
ダイキはユウの部屋を出る直前で立ち止まって、もう一度「じゃあな」と言い残し、姿を消した。




