1.
ここいらで、ちょっとだけ俺の話をしようか。
…今日は気分が良いんでな。
かいつまんで言うと、俺の本名は“ハリー”じゃない。
正体不明の通称ハリー、素性の知れねえ男ハリー。そんな通り名でずっと通してきた。
本名なんてもうずっと昔に捨てちまったから、さすがに覚えてねえよ。
今ではロッセーリのジーサンに付けられた“ハリー・ウエスター”が俺の名前だ。
ちなみに“ハリー”になる前は、ダチが付けてくれたニックネームを使ってた。
ガキの時分にはよくあるだろ?仲間内だけで通用する、イカした名前を付けてお互いを呼び合う遊びさ。
俺は“ホッパー”と呼ばれてた。
ホッパーってのは、跳ねるものって意味だ。グラスホッパー、つまりバッタを想像してくれりゃあいい。
付けてくれたダチには悪いが、俺はその名が好きじゃなかった。
だが…成長して少しは知識が身についた頃、ジーサンに言われたよ。
『お前にはその名前が合っとった』
ってな。
ホッパーにはあちこち渡り歩く人間って意味合いもあるんだそうだ。短い旅を繰り返したり、あちこちを転々としたりする人間のことさ。
それを聞いた瞬間、なんだろうなあ…
あいつは間違ってなかったんだと感心したもんだ。
あちこち跳ね回って落ち着かねえ人生を送るようになったのも、果たして偶然かどうか…だが。
そう…ずいぶんと昔の話だよ。
俺もつい最近まで忘れていたほどにな。
あいつは “バード”だった。
“鳥”じゃねえよ。“bard” ──つまり“吟遊詩人”のことだ。
彫りの深い顔立ちで無骨な面構え、笑うと目尻に皺が目立つヤツだった。
陽気でおしゃべりな俺とは違って、あいつはクールだった。喋ることは喋るんだが、思慮深いヤツだった。
古いボロボロの表紙の詩集をいつも手放さず、暇さえあれば読んでいた。
町より森が好きで、木こりになりたいなんて本気で言う男だった。
逆に俺はオレゴン州のクソみてえな田舎から都会へ出たくてたまらなかったから、あいつの気持ちがサッパリ理解できなかった。
だがなあ……仲良かったってことは、それなりに気が合ったんだろう。
親友と呼べたのはあいつだけだからな。
まさか今頃になってそんな大昔のことを思い出すことになろうとは、予想もしていなかったぜ。
人生って、ホントにわかんねえもんだ。
なあ、お前もそう思わねえか?




