五話
ゴロゴロしてるセリーナさんをお風呂に放り込んでほっと一息。
なお、貴族はお風呂も使用人に手伝わせる人が多いが、セリーナさんはそれを幼少時から嫌がるようになり、1人で入るらしい。
まぁ、元が日本人だしその気持ちはすっごくわかる。
「マリーさん、今日はすみませんでした」
怒られる前に先に謝っておく。
外で気分転換してくるはずが爆睡しちゃったもんな……。
「大丈夫よ。今日は天気も良かったし、どこかでお昼寝でもしてたの?」
「そうなんです。ベンチで日向ぼっこしてたらいつの間にか……。お恥ずかしい限りです」
「あぁ、それ気持ち良さそうね。今度は私がお昼寝させてもらおうかしら?」
くすくすと笑うマリーさん。
どうやら本当に怒ってはいないみたいだ。
まぁ実際すごく気持ち良かったしなぁ。
「それでサーシャ様が授業終わりに通りかかって起こしてくださって……。他の家の方でなくて良かったです」
「まあ!それはサーシャ様で良かったわね。
変なのに見られてたら何か言われてたかも知れないし」
うんうんと頷くマリーさん。
やっぱりそうだよなぁ。
私が普段接する貴族がセリーナさんや公爵様ご夫妻、それにサーシャってのがあるから忘れがちだけど、使用人に対して冷たく差別的な貴族も多い。
むしろ、セリーナさんやサーシャみたいなタイプの方が珍しいくらいだ。
「はい、本当に気を付けます。あ、そうだ。サーシャ様と言えば……」
今度招待状を送るって言う話をした事をマリーさんに伝える。
本当は私が話したいからってのが発端だけど、そこはスルーで。
「うーん、サーシャ様らしいと言えばそうなんだけど、それは……」
マリーさんも困り顔。
貴族のご令嬢が使用人に招待状とかまず無いだろうしなぁ。
「あら、いいじゃない。お受けしなさいよ」
声に振り返れば、そこには全裸で仁王立ちするセリーナさん。
「2人はお友達なんだから、何も気にしなくていいのよ」
と、めちゃくちゃ良い笑顔でありがたい事を言ってくれてるけど……。
「お嬢様、まずは服を着ましょうね」
マリーさんが一瞬にしてタオルでぐるぐる巻きにして連行して行く。
お風呂の手伝いをされるのは恥ずかしいのに、全裸は恥ずかしくないんだろうか……。
「ですが、本当によろしいんでしょうか?あちらの家にもご迷惑なのでは」
着替えを手伝いながら改めて尋ねる。
てか、サーシャからの招待の事セリーナさんにきちんと話してなかったな。
「まぁ、あちらからのお誘いなんだから大丈夫よ。フェルチェ伯爵も寛容な方だし」
「サーシャのご両親とお知り合いなんですか?」
それは初耳だ。
今の言い方だと良い方達みたいだけど、どんな方々なのか気になる。
「まぁ、一応公爵令嬢だからねー。顔を合わせる機会もある訳よ。
伯爵は……。そうね、貴族らしからぬ貴族って感じかな?
権力より自由を愛する人。だからフェルチェ伯爵家の地位も中々上がらないんだけどね。
ちょっと奔放過ぎるところもあるけど、まぁ良い人ではあるわよ」
ふむ。とりあえず良い人なら良かった。
きっとサーシャを大切にしてくれるだろう。
「それにね、ミリと話す時間はサーシャにとってもすごく大切なはずよ」
フェルチェ伯爵の人柄に一先ず安心して、1人うんうんと頷いていると、セリーナさんが真剣な声で続けた。
「突然これまでとは価値観も何もかも違う環境に放り込まれたんだもの。
そんな中で以前の自分を知っている人の存在はとても大きな助けになるはず」
「なるほど……。それは確かに」
「サーシャは明るくしてはいるけど、不安や心配はたくさんあるはずだし、ストレスも溜めてると思うわ。だから、遠慮しないで招待受けなさい。いいわね?」
そう言ってにっこり笑うセリーナさん。
何やら「それだってのにあの馬鹿王太子は更に余計なストレス与えて……。何やってんのよあいつは」とか何とかぶつぶつ言ってるのは聞こえない事にしておこう……。
そして、セリーナさんが語ったサーシャが感じているかも知れない不安やストレス。
それはまさにセリーナさん自身の事なんじゃないだろうか。
前世の記憶を取り戻してからは、性格や価値観もかなり前世に引っ張られたと以前に言っていた。
その時、まるで全く知らない世界に突然1人放り込まれたように感じたんじゃないだろうか。
誰にも打ち明ける事が出来ないまま過ごした10年以上という歳月は、本当に大変だったはず。
それに、突然この世界にやって来た私自身とも重なる部分はある。
右も左もわからないこの世界で、同じ日本人の記憶を持つセリーナさんの存在はとても大きかった。
セリーナさん以外にも、どこの誰かわからないような私に優しく接してくれた公爵家の人達。
この世界で初めての友達であるサーシャだって私を助けてくれた大切な存在だ。
サーシャとゆっくり話したいと思ったのは、最初は王太子との事をしっかり聞いてみたいからだった。
今もその気持ちは変わっていない。
でも、それだけじゃなく、もし私に話す事で今サーシャが感じている不安やストレスが少しでも減らせるなら。
かつて私が救われたように、サーシャの力になりたい。
心からそう思った。




