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最悪な婚約から数年。そう数年が経った。
私としては婚約なんて絶対嫌だったんだけど、王家からの申し入れだった時点で、私にも我が家にも逆らう余地はなかった。
国王陛下は名君て呼ばれるに相応しいお方ではあるけど、息子である王太子のラウルにはかなり甘いところがある。
将来王位を継ぐラウルの立場をより強固にする為に、国内一の貴族である我が家と婚姻関係を結びたかったんだろうというのがお父様の見立て。
それで半ば無理やり婚約させられるこっちとしてはたまったもんじゃないし、ラウルだって何故かやたらと私のことを嫌っているから、もしかしたら破棄出来るんじゃないかとも思った。
それをラウルに話してみたら、「謙虚なフリか。吐き気がする」だそうです……。
だったら、せめて関係を改善出来ないかとも考えた。
前世の知識があるから、内政チートとまではいかなくても、前世であってこっちにはないものを提案してみたりもした。
そうすれば私を見る目も多少はマシになるかと思ったんだけど、「小賢しい改革案でまた父上に取り入るつもりか。つくづく浅ましい女だな。どうせそれもお前が考えたのではないのだろう」だそうです……。
もうこれは無理なのかも知れない。
普段は誰にでも優しく、その見た目はキリッとした美少年なラウルなのに、私を見る目は完全に死んでるし。
見るのも嫌だって言うのが全身から伝わってくる。
このまま最終的には断罪されて、辺境で孤独死するしかないのだろうか。
だったら、私はなんでこの世界に転生してしまったんだろう。
強制的に行かされている王太子妃教育を受けつつも、毎日そんなことばかり考えて憂鬱に過ごしていたある日、私は彼女と出会った。
あの日、その場所を通ったのは本当に偶然だった。
王太子妃教育が早く終わり、そのまま屋敷まで帰っても良かったんだけど、憂鬱な日々が続いてたせいかな。
気分転換をしたくて、王都から少し離れた湖を見に行ってたんだ。
滞在時間はわずかだったけど、大きな湖を見てたら憂鬱な気分が少しは紛れた気がして、まだ何とか頑張れるって思えた。
そして、王都へ戻ろうと馬車に揺られていた時だった。
前を走る護衛騎士が何かを見つけたみたいで、唐突に馬車が止まった。
何だろうと思いながらも、大人しく待ってたら護衛騎士……あの日はジャックだったかな。
彼が珍しく厳しい声をあげているのが聞こえた。
いつも陽気で、私のことも笑わせてくれるようなジャックがあんな声を出しているなんて、普通じゃないことがあったのかもしれない。
本来なら、そういう時こそ大人しくしているべきなんだろうけど、好奇心に負けてしまって馬車から声のする方を覗いてみた。
あの瞬間の衝撃は、前世の記憶を取り戻した時や、ここが乙女ゲームの世界だと気付いた時と同じかそれ以上だった。
だって、そこにいたのは日本の女子高生の格好をした女の子だったんだから。
それが私とミリの出会いだった。
初めて会った時、ミリは酷く混乱しているみたいだった。
そりゃそうだよね、気が付いたらいきなり森の中にいたみたいだし。
戸惑っているミリを半ば無理やり馬車に乗せ、屋敷に連れて帰ることにしたんだ。
この世界でまさか出会うとは思ってなかった日本人というのもあるけど、そもそもあんな森の中に女の子1人残して置けないしね。
まして、ミリは本人は自覚が全くないみたいだけど、かなりの美少女だった。
まだ原石って感じだけど、磨けば必ず光る。
あのまま放っておいたら、良からぬ輩に捕まって大変なことになっていたかもしれない。
出会った時のミリは、まだここが今までいたのとは別の世界だって言うことは気付いてないみたいだった。
どうせすぐに分かることだし、私から伝えようかと思ったんだけど、ミリの気持ちを考えると中々言い出せなかった。
日本人としての生を終え、転生してここにいる私とは違い、ミリは生きたままこちらに来てしまった。
日本には家族や親しい人がいただろうに、突然その人達と引き離されてしまったんだから。
これまでこちらで生きて来て、別の世界から来た人が居るという話は聞いた事がなかった。
筆頭公爵家の令嬢で、一応は王太子の婚約者でもある私だ。
庶民や普通の貴族では聞けないような話も色々と耳に入っては来る。
それでも私が知らないだけという可能性はあるけど、他にはいない可能性の方が高いと思う。
そうなると、日本に帰れる可能性も当然……な訳で。
王都に着いてその街並みを目にしたミリは、ここが日本ではない、別の世界だということに気が付いたみたいだった。
日本へ戻れるかどうかと言う話は、確実な事がわからないから私の方からは何も話してないけど、何となく難しいんじゃないかって言うのはミリも察していたみたい。
絶対ショック受けてるはずなのに、それを表には出すまいとして無理しているのがわかってしまって、正直見ていられないくらい辛かった。
私なんかより、ミリの方がよっぽど辛いのにね。
だから、何か力になってあげたいと思って屋敷に住んでもらうことにした。
突然連れて来て、身元もわからないミリを屋敷に置くことに、さすがのお父様も最初は難色を示した。
彼女の境遇(咄嗟の思い付きで記憶喪失の女の子ってことにしてしまった。まぁ、事後承諾でミリも了承してくれたから無問題)には同情はするが、我が家の立場上身元のはっきりしない者を置く訳にはいかないと。
お父様の言うことも理解は出来たけど、ミリを他所にやるなんて絶対出来ないと思った。
こんな右も左もわからないところにいきなり飛ばされて、1人放り出されるなんてあまりにも辛すぎる。
かなり大変だったけど、夜を徹する説得と、たぶん初めてお父様に頭を下げてお願いしたおかげか、何とかお許しを貰えた。
条件は、ミリの行動の全責任は私が負うこと。
公爵家の令嬢である私が責任を負うというのは、何かあったら謝って済む事ではない。最悪、一族から追放されることもある。
そこまで言えば私が諦めると思ったのかもしれないけど、ミリを屋敷に住まわせる事が出来るなら、それくらい何でもなかった。




