一話
ラズウェイ公爵邸で暮らし始めて、1ヶ月が過ぎた。
午前中はセリーナさんの話し相手として、他愛もない雑談をしたり、一緒にお茶を飲んだり、たまに何故かダンスの練習まで一緒にやらされたり……。
まぁ、セリーナさんがダンスの練習が嫌いらしいから、巻き込まれてるだけの気がしてるけど。(嫌いという割にセリーナさんのダンスは完璧で私がいつも恥をかくのは納得出来ない)
午後は、セリーナさんが王太子妃教育に行くので、手が空くことが多い。
その時に、マリーさんを始めとするセリーナさん付きの侍女の皆さんが比較的手が空くから、侍女の仕事を教わっている。
本来は、他の使用人さんの仕事を手伝ったりしているみたいだけど、私が仕事を教わりたいとお願いしてみたら、マリーさん達も他の使用人さん達も快く応じてくれた。
「ミリ?お嬢様がお呼びよ?何かしたのー?」
使用人食堂でお昼ご飯を食べて、この1ヶ月で親しくなって来た侍女やメイド仲間とお喋りをしていると、以前見せていた穏やかな微笑みとは違う、少しからかうような笑顔でマリーさんが呼びに来た。
公爵邸で暮らし始めた頃は、マリーさんも他の人達にも敬語を使われがちだったが、私も同じ使用人としてお世話になる訳だし、むしろ1番下っ端なので敬語はやめてもらった。
「いえ、特には何もしてないはずですけど……」
そう言えば、今日の午前中は話し相手としての仕事なかったな。
普段なら朝食後にすぐにセリーナさんの部屋に行くんだけど、今日は何やらやる事があるから自由にしてて良いって話だったんだけど。
午後に呼ばれるってことは王太子妃教育はお休みの日なんだろうけど、一体どうしたんだろう。
まぁ、午前中の代わりに話し相手なれってことかな?
なんて考えながらセリーナさんの部屋をノックすると、中から入るように返事がある。
「セリーナお嬢様、お呼びでしょうか」
入室すると、この1ヶ月で教わった主人に対するお辞儀をしながら待機。
私達使用人は主人の許可があるまで顔を上げたらいけないのだ。
まぁ、セリーナさんも公爵様や奥様もその辺はあまり細かく気にしないみたいだけど、せっかく教えてもらったんだから実践しないと。
ちなみに、奥様は使用人として生活し始めてからご挨拶させて頂いた。
屋敷の使用人の管理は、公爵様から委任されてる執事さんが基本的にはしてるけど、侍女に関しては奥様の管轄になるらしい。
雇用主は公爵様、上司は奥様って感じ。
「ミリも随分と様になって来ましたね。頑張ってるようで何よりです。
さぁ、こちらへ来なさい」
室内には他の侍女さん方もいるので、令嬢モードのセリーナさんに呼ばれ近くまで行くと、ソファに座るように促される。
本来ならお仕えする立場の私が座ることは許されないんだけど、その主人の指示なので大人しく腰をかける。
とは言え、これも他家ではまず考えられないことらしいけどね。
ただ、断るとセリーナさんが拗ねるから大人しく従っておけとはマリーさんの言だ。
「ちょっと皆は席を外してくれるかしら?」
私がソファに腰かけると、セリーナさんがすっと手を上げる。
そして、物音ひとつ立てず一礼して下がる先輩達。すごい。私まだあの動き出来ないや……。
「ミリの淹れてくれるお茶飲みたいなー」
部屋に2人きりになるのを待って、セリーナさんがニヤッと笑みを浮かべる。
「かしこまりました、お嬢様」
練習の成果を見せるチャンス!と意気込んで立ち上がると、セリーナさんは何故か不服そうな表情だ。
あれ?何かミスった?
「2人きりの時にまでそんな堅苦しい話し方やめてよねー。距離感感じちゃうじゃないのよぉ」
ぷくーっと頬を膨らませてて可愛い。
「あ、すみません。つい……」
本当は敬語も嫌なのよねー。とまだブツブツ言ってるのは聞こえないふりをしつつ、マリーさんに教わった手順を思い出しながらお茶を淹れる。
めっちゃ見られてるのが緊張するけど。
「たぶん不味くはないと思うんですけど……」
ドキドキしている私に気付いているのか、いないのか。
にこにこしながらお茶を口にしたセリーナさんの表情がぱっと明るくなる。
「美味しい!すごいじゃないのミリ!
これならお客様にも出せるレベルよ」
「いや、流石にそれはまだ……」
褒めすぎだとは思うけど、この1ヶ月一生懸命練習して来たから、それを認められるのは素直に嬉しい。ちょっと照れるけど。
「さて、美味しいお茶も飲んだところで、今日呼んだ本題に入るとしますかね」




