魔銃を取りに行こう!
あまりに長くなりすぎたので2章の題名を「入学試験編」とします!
一日中王都のあちこちを走り回った。
お昼を駆け回って。
夕暮れの太陽が沈むまでずーっと、何かいろんなことをしていた。
Fランクの依頼は雑用なんだってすごい思い知らされた。皿洗いとか靴磨きとかまであるんだからもう冒険者ってなんだろうって思う。ちなみに報酬はすごく安い。
あたしはミラ、ニーナ、ラナ、モニカにそれぞれ依頼をお願いしたり、自分で受けたりしていたら、あっという間に夜になったような気がする。
体を動かすだけだったらいいけど、どの依頼を先にやるのか。どう受けるのかをずっと考えながらやっていたから、頭も疲れた。
ギルドにみんなで戻ってきたときのあたしはもう体が重くて、すごく眠たかった。ギルドの隅にあるテーブルにみんなで座る。椅子に腰かけるとはあと息が自然と漏れた。
みんなを見るとニーナは疲れた顔をしている。ラナはわかりやすくテーブルに突っ伏してる。ミラとモニカは……あんまり疲れてない、そんな気がする。
「とりあえず1日目終了ね。とにかくさっさとご飯を食べて寝よう。つかれた」
ラナが弱々しい声で言った。一日中いろんなところを掃除したり、探し物したり、犬の散歩をしたり。……ラナだけじゃないよね。あたしのためにみんなが頑張ってくれたのは……申し訳ないなぁって、胸の奥がきゅってする。
あたしは立ち上がっていう。
「みんな今日はほんとありがと。今日は帰ってゆっくり休んでよ」
お礼くらいしか言えないことは悔しいんだ。そういうことがなんだか初めて分かった気がする。
「マオもゆっくり眠って明日頑張ろう」
ミラがぐっと両手を握りこんで力強く言ってくれた。やっぱり元気だ。頼もしいけど、基礎体力の差を感じるね。でもありがと。
「マオ様。私は明日も工事現場に行きます。親方さんにお話をしたら、依頼をいくつかにわけてくれるということでした。ただの手伝いで1つではなくて、資材運びで1つの依頼、木材の運搬で1つという風に。これでけっこうお役にたてそうです」
モニカも少しうれし気に言ってくれる。……しっかりしてるや。
「ああーーーー。早くご飯食べに帰るわよ。マオ」
頭をテーブルにすりつけているラナ。
そして死んだような顔をしているニーナ。
2人にも感謝しているよ! ほんとだって。
「うん。あたしは明日の依頼の整理とか、受けられるものを確認してから帰るからラナは先に帰っててよ」
「はあ? そんなの待ってるからさっさとすましてきなさいよ」
「……いいからさ!」
「いいからって……。じゃあ、早く帰ってくるのよ」
あたしは頷いて。とてとて受付の方にいく。その時振り返っていった。
「みんな、ごめん。明日もよろしく」
☆
ギルドの外に出るともう空は暗い。星が出ている。
あたしの手には何枚かの依頼書がある。夜にも受けられるものがないか受付のお姉さんに聞いてきたんだ。みんなも帰っているし。
「よっしやるぞ!」
この話はもともと自分の話だ。だから自分で頑張らないといけない。夜だからってあたしが休むのはおかしいんだ。
「えっとまずは繁華街で……」
「マーオ」
「うわ!」
び、びっくりした。振り返ると両手を組んでニコニコあたしを見ているミラがいた。あたしは不意に依頼書を隠して、冷や汗をかく。
「一人でまだ続ける気だったんだよね?」
うわ。ばればれだ。
「そ、そりゃあ。あたしの問題だから」
「じゃあ、私もまだ付き合うよ」
「……いや、これはあたし問題だから」
「マオの問題だから、私の問題」
「……んー」
言葉がないね。ちょっとうれしくて照れちゃうよ。
「その、マオ様」
うわっ。さっきと同じような反応をしちゃった。よく見るとミラの後ろにモニカがいた。
「なんとなく怪しいと思っていました……ので。ミラ様と一緒にいました」
「……そこまで見透かされていると恥ずかしい……」
「すみません……」
謝らなくていいよ!?
「さすがにラナとニーナはいないよね? モニカ」
「はい……お二人はすごく疲れてらっしゃったので……」
「なんか安心したよ」
2人はホント疲れてたから。さすがに悪い気がする。
でも3人でやれば結構早く終わるかもしれない。
「じゃあ、ミラ。モニカ……もう少し付き合ってほしいんだ」
「おー」
「はい……」
ミラはあたしと一緒にいるときはなんかフランクな気がする。
☆
夜の繁華街はにぎわっている。星の光が降りてきたように街中が明るい。
「おーい。エールをくれ」
「はいはい!」
あたしはとある店で木の容器に並々つがれたエールを持って、お客さんのところまで運ぶ。白い泡をこぼしそうになって焦る。
ウエイトレスって言うらしい。でもただ注文を聞いて、持っていくだけなんだから誰でもできそうな気がする。あたしは制服の上着を脱いで、シャツの上からエプロンをしている。
「こっちもエール3つ」「グリーンビーンズ追加で」「テーブルを拭いてくれー」「お姉ちゃん勘定ここにおいておくよ」「エール」「焼いたものをなんかもってきてくれ」
うん、わかった。あたしは店の主人……この場合は依頼主に言われたことを全部伝えて。料理とか飲み物を持って行ったり、布巾でテーブルを拭いたりした。
モニカは裏で皿を洗ってくれている。すごく不本意だけど、魔族を前に出したくないということだったからあたしがこれをしている。
ミラは別の依頼をお願いしている。
「おーい。マオさん。こっちも」
「はいはい」
あたしが声のしたほうに行く。そこでふとおかしいなって思う。今あたしの名前を呼ばれた気がする。まあ、ここ数週間いろんな人に会ったから知り合いは少ないわけじゃないけど。
でもそこにいたのは微妙に苦手な奴だった。
緑の髪を後ろで結んだ美少年……本当の歳はいくつだろう。よくわからないけど、彼はイオス。ギルドの支部でギルドマスターだ。彼の座るテーブル、その向かい側には緑のローブを羽織った女の子がいた。頭にはフードをつけていて顔は見えない。
「やあ、マオさん」
「うーん。飲み物は?」
「つれないなぁ。世間話くらいしようよ」
「あたしは忙しいんだよね。冷やかしはお断りだよ」
「……きみってさ、結構こういう店の店員に向いているんじゃないの?」
そんなわけないじゃん。あたしは魔王だよ? まー、仕事だからちゃんとやるけどさ。
「まあ、君がそういうなら本題を短く言おう。君さ、僕が魔銃について困ったことがあればアルミタイル通りの1丁目に行くようにメモを渡していたと思うけど、行ってないだろ?」
「う。い、忙しかったんだってば。それに魔銃について困ったことがあればってことだったじゃん」
「……でもマオさん、最近大きな喧嘩をしたんじゃないかな? その時魔銃があれば楽になってたんじゃないかな」
……確かにロイとの闘いで最初から魔銃があればもう少し楽に戦えたかも。
「ほら」
イオスはあたしに紙を渡す。それはFランクの依頼書だった。
「依頼内容はアルミタイル通りの1丁目のワークスという職人のもとに魔銃を引き取りにいくことだ。これだったら君もいきやすいだろう?」
「……あんたさ。もしかしてあたしの状況すごくよくわかってたりするの?」
「もちろんだよ。まあ、1件くらいこういう形でもいいだろう。ギルドマスターの職権をささやかながら使っただけだよ」
イオスの手に握られたそれをあたしはつかむ。
「……あんがと。でもタダでもらったりしないよ。今度ちゃんと返すよ。何かで」
「あ、そうそう。お礼と言われてはなんだけどさ」
あたしは「お礼と言われたらなんだけど?」なんて言ったやつを初めて見たよ!!
「この子も同行させてほしいんだ」
イオスの向かい側に座る女の子がぺこりと頭を下げた。
「なんで?」
「お礼だっていっただろう。ウエイトレスさん。ほら、僕の用事は終わりだ。さ、なんか飲み物を持ってきてよ」
☆
「ということで魔銃を取りにいくことになったよ」
ミラとモニカも合流してあたしはその経緯を説明した。モニカが小首をかしげて聞いてきた。
「あの……魔銃というのはなんでしょうか?」
「ヘンテコな武器のことだよ」
「武器……ですか」
ミラはもちろん知っている。
少し悔しい気もするけどイオスが言っているは正論だった。ロイとの戦闘はもともとそんな気は全然なかったけど、魔銃があればまともに戦えた部分もある。あんなことはそうそう起こらない、
その時あたしの脳裏にクリスの顔が浮かんだ。
うん。魔銃取りに行ったほうがいいかもしれない。力が弱すぎたら話し合いにもならないしね……。
「それでその子は……マオ」
ミラが言ったのでハッとした、アタシの後ろにいる緑のローブを羽織った子のことはあたしも全く分からない。
「えっと、あ。自己紹介。自己紹介しよう。あたしマオ。こっちはミラスティアで、モニカ」
「……」
女の子の口元が緩んだ。彼女はゆっくりとフードを取る。
白い肌に頭のてっぺんが茶色で毛先に行くほど金色になっていく。にこりと笑った表情はどこか作り物じみていた。
彼女は紅い瞳に長い耳をしている魔族だった。




