床をこするだけの話
「ふざけんじゃないわよ!」
ラナが怒っている。だんだんと地団駄を踏んでる。人がこんなことしているの初めて見た
あたしはポーチからここの依頼書を取り出して読む。それは単なる掃除の依頼だ。危険なことなんて何もない。報酬は……すごく安い。
「でも、広いなぁ」
見上げると天井が高い。手を伸ばしても届かない……って当たり前か。木造の梁がむき出しになっている。周りには整然と長椅子が並んでいる。ただ、歩くと床がぎしぎしするから結構古いのかも、でもまあ、
広い。単純に。
ここは街の教会。ラナの師匠のところじゃない。王都は広いからいろんなところにこういう教会があるんだって。それにしてもあたしを罰するために転生させた神の庭を掃除するなんてなー。なんだかなー。
「こんなの終わるわけないでしょ!」
ラナが怒っているのはそれが原因だ。あたし達には時間がないから、こんな広いところの掃除をするのは時間がかかりすぎる。
「でも、やるしかないよ。ほらラナ」
あたしはモップをラナに渡す。ほんとーーーにいやそーーーーな顔をラナがしている。眉をひそめて、唇をちょっと噛んでる。う、うぅ。なんかモップを渡すだけで罪悪感。
「あ、あたしが一人でやろっか?」
「それじゃあぁ! 意味ないでしょ。馬鹿??」
理不尽!
☆
ごしごしと床をこする。終わるわけないと思ったけど思ったよりも早く終わるかもしれない。いや、時間はすごくかかるのは間違いない。途中であたしは次の依頼に行かないといけない。
手の蝶はあたしの魔力なら数回も使えない。紋章を刻んでくれたモニカの魔力の残滓も利用できるにしてもこんな簡易的な魔法もまともに使えないあたしにすこしため息をつく。
ラナは黙々と床をこすってる。……と思ってたら声をかけてきた。
「あんたさぁ」
「なにさ」
お互いに掃除をしながら言い合う。
「信心深い方なの?」
なんか難しい質問が来たよ。別に信心深いってことはないけど、神を信じるもなにもその声を聴いたことがある。でもそんなことを言ったら変人じゃん。
「別にあたしは神に御祈りなんてしないよ」
「…………ふーん」
ごしごし。
ラナは桶にモップを突っ込んでざぶざぶしている。荒いなぁ。
「私は意外と御祈りはするわ」
「師匠が神父だもんね」
「それもあるけど……私の故郷はあんたと同じように遠い場所にあって、毎日感謝のお祈りをしていたからその日課みたいなのが染みついてるのよ」
正直気が付かなかった。毎日一緒にいるのにラナがお祈りしているところなんて見たことがないや。
「祈ってるところなんてあんたには見せないけどね」
なんでさ! あたしがラナを見るとなんでかいたずらっぽく笑ってくる。あたしもくすりとした。
「でも、実際数百年前の魔王との戦いでは神様が力を貸してくれたのよね。まあ、祈っても損はないでしょ」
「……………」
やられたほうはたまったもんじゃないけどね。
「それにしてもミラスティアの聖剣でもほかの聖杖でも聖甲でもそうだけど、あれはどこから来たのかしらね」
「どこからって?」
「伝承では選ばれた3勇者に神が授けたっていうけど、どういう風にもらったのかしら。実際にものはあるし、また、もらえたりするんじゃないの?」
……そういえば、3勇者はあれをどこから手に入れたんだろう。あたしも知らないや。いきなり出てきたって気はする。神造兵器と呼ばれていた。
「無駄話したくなっちゃうくらい退屈な仕事ね。あー」
「あ、ラナ」
「何よ」
「も、もう少しその話しようよ」
「なんでよ」
「いいじゃん」
ラナは手を止めてあたしを見た。どこかいぶかしげな顔。あたしは目をそらしてしまう。
「ま、いいけど。……昔から不思議に思っていたのよね。なんで神様はあの時だけ人間に武器を与えたんだろうって。歴史を見たら人間同士の戦争なんて山のようにあるし、それに手を貸したなんて話は……まあ、あるにはあるけど、聖剣みたいに形としては残ってない」
……人間同士の戦争には介入しなかった……じゃあ、あの時は相手が魔族だったから?
「別にどうでもいい話よ?」
「どうでもよくないよ!」
「……え、えらく食いつくわね。単に私がぼんやり思ってただけっていっているでしょ」
あたしは何となく教会の祭壇を見た。そこにあるのは神の偶像。3勇者との戦いのときに語り掛けてきた「あれ」はきっとそこにはいない。
「神に、何か意図があった?」
あたしはぼそりとつぶやいた。……それは……あ、痛い!
後頭部にチョップされた! なにさ!
「無駄話は今度こそ終わり。あんたが言うように神様に意図があろうと私とかあんたにはきっとわからないわよ。そんなどうでもいいことより、こんなつまらない仕事はさっさと終わらせるわよ」
「う、うん。そ、それじゃあ頑張ってごしごし」
「しないわよそんなこと」
「え?」
「それよりもやってみたいことがあるのよ。あんた手伝って」
ラナはにやりと笑った。なにをする気なんだろ。
「どうするするつもりなのラナ?」
「あんたもやるの。ほらこっち来て」
ラナはあたしの耳元でささやく。……ひひ、く、くすぐったい。
「耳が敏感すぎでしょ」
ほっといてよ。




