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影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます  作者: 勇者ヨシ君
第三章 花嫁の名前を知らないまま(夏~秋)

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配信62回目 転校生が空気を読まない

 階段で死んだ翌朝は、だいたい頭が最悪です。

 しかも今日は、転校生まで来るらしい。

 普通っぽい日の顔をしてるくせに、そういう日ほどろくでもない。

 頭が割れそうだった。


 意識が浮き上がる直前、白い帳面の端だけが頭をよぎった。


 淡い色の髪。困ったみたいに静かな目。


 ――また書かないことになりますね。


 そんな声を、ほんとうに聞いたのか、死ぬたびに勝手に思い出しているだけなのか、自分でも分からない。けれど目を開ける前から、ああ、また一行ぶん増えたのかもしれない、とは思った。最悪だ。金の借金だけでも終わってるのに、死んだ回数まで帳尻を取られるのは、さすがに聞いてない。


 目を開けた瞬間、見えたのは古い天井と、心底嫌そうな顔をした朔夜(さくや)だ。つい数時間前、階段から落ちて死んだ記憶が、その顔を見た瞬間に全部戻ってきた。


「戻ったか」


「戻ったけど、雑い……」


「帰れと言った直後に死ぬな」


「階段が抜けるなんて聞いてない」


「抜けてたんじゃない。足場の意味だけ削られてた」


「表現を変えても死因は死因なんだよ」


 喉が痛い。後頭部も痛い。全身がうっすら自分のものじゃないみたいに遠い。蘇生の次の日はだいたい最悪だけど、今回はその“最悪”に、寝不足と気まずさまで乗っていた。


 朔夜(さくや)が低く言う。


「今日は本当に学校だけ行け」


「昨日から急に保護者ぶるのやめて」


「ぶってない」


「ぶってる」


 言い返したところで、ぬいが私の脇腹あたりで潰れた声を出した。


「若いのう」


「黙れ毛玉」


 私は事務所の洗面台で顔を洗い、そのまま学校へ向かった。


―――――


 教室へ入った瞬間、るなが立ち上がった。


「ゆらちゃ〜ん!顔やばいよぉ〜!?」


「それ昨日も聞いたやつ」


「今日はほんとにやばいのぉ〜……」


 幽々(ゆゆ)もじっと私を見る。


「歩き方、変」


「細かいとこみてんな」


「……まだ戻りきってないみたい」


 その一言に、私は少しだけ肩を強張らせた。


 ホームルームのチャイムが鳴る。担任が入ってきて、その後ろに、知らない女子がいた。


「よし、みんな。今日からしばらくこのクラスに入る、夏目(なつめ) 透羽(とわ)さんだ。仲良くするように」


 名前を呼ばれて前へ出たその子を見た瞬間、教室の空気がちょっとだけ軽くなった気がした。


 明るめの茶髪は肩口で外へ跳ねていて、わざと巻いたというより、もともとそういうラフさが似合う髪型をしている。日に焼けすぎてはいないのに、妙に屋外が似合う。保健室よりグラウンド、図書室より河川敷、みたいな健康的な雰囲気。


 制服は校則ギリギリで少し着崩しているけど、不良っぽくはない。第一ボタンを外した首元も、短く折った袖も、ちゃんと“だらしない”じゃなく“慣れてる”側に見えるのが、ちょっとずるい。


 顔立ちは普通にかわいい。しかも、笑うと一気に近く見えるタイプだ。ああいう顔は、初日でクラスに馴染む。たぶん、るなみたいな子とは一瞬で仲良くなる。男子からの人気も得られそうだ。


 ……なのに。


 笑ったあとの真顔だけが、ほんの一拍、遅れる。表情が消えるというより、感情がそこへ戻ってくるまでの時間がわずかに空くみたいな、変な“抜け”。


 その一瞬だけ、私はこの子を、かわいい転校生じゃなくて、どこか別の場所から遅れて教室へ届いたものみたいに見た。


夏目(なつめ) 透羽(とわ)でーす。よろしくお願いしまーす」


挿絵(By みてみん)


 声も軽い。笑顔も軽い。なのに、何かだけが少し遅れている気がした。


 席に着いた透羽(とわ)は、開始五分でるなに話しかけた。


「ね、名前なんて読むの?」


「るなだよぉ〜」


「え、かわい~。ぴったり」


「えへへぇ〜」


 早い。距離の詰め方が早い。


 さらに透羽(とわ)は、前の席の幽々(ゆゆ)を覗き込んだ。


「静かな子だね。でも、こういう子の方がいろいろ見てるよね」


 幽々(ゆゆ)が顔を上げる。


「……何を?」


「なんとなく?」


 笑ってごまかす。そのまま、今度は私を見た。


「で、そっちは顔しんどそうだけど寝れてる?」


「初対面で刺しにくるな」


「だってほんとにそういう顔してる」


「失礼だな」


 クラスメイトがくすくす笑う。空気は軽い。普通の転校生いじりみたいな流れなのに、逆に私がいじられてる。だから、妙に落ち着かなかった。


―――――


 昼休みには、透羽(とわ)はもう、るなのパンを半分もらっていた。


「いいのぉ〜。こっちもたべる?」


「いいの? るな、いいやつすぎない?」


「るなは最初からそうだよぉ〜」


「いや、成立早すぎるだろ」


 私が突っ込むと、透羽(とわ)は机に肘をついたまま笑った。


影森(かげもり)って、ずっと気を張ってる感じするね」


「なんで初日でそんな分析してくるの」


「分析ってほどでもないけど。|損耗(そんもう)激しそうだなって」


 ぴたり、と空気が止まった。


 るなはきょとんとしている。幽々(ゆゆ)と私は、ほぼ同時に透羽(とわ)を見た。


「……今、なんて?」


「え?」


損耗(そんもう)って言った」


「あー」


 透羽(とわ)は頬を掻いた。


「なんか前の学校の先生がちょっと難しい言い方する人で。うつったのかも」


 笑いながら流す。けど、その笑い方も少しだけ早い。ごまかすと決めてから、表情が乗るまでがほんの少しズレている。


 放課後、なんとなくそのまま四人でコンビニへ寄る流れになった。るながアイスを選び、透羽(とわ)が勝手に隣へ並び、幽々(ゆゆ)は少し後ろからついてくる。


 レジ待ちの列で、透羽(とわ)がまた言った。


「そういうの、記録に残ると地味に面倒じゃない?」


「何が」


「ん? ほら、声のやつ。朝みんな言ってたじゃん」


 私は思わず振り向いた。


「……聞いてたの?」


「ちょっとだけ。保全される前に直ればいいね」


 今度は幽々(ゆゆ)がはっきり眉を寄せた。


「保全......その言い方、普通しないよ」


「だから先生の癖だって」


 透羽(とわ)は明るいままだ。悪気がない顔。むしろ、こっちが引っかかる方がおかしいとでも言うみたいに、自然な顔。


 なのに、引っかかる。


 私がレジ横のガラスへ何気なく目を向けた時だった。


 四人並んで映っている。るな、幽々(ゆゆ)、私、透羽(とわ)


 ……いや、違う。


 透羽(とわ)だけ、ほんの少し遅れて瞬きをした。


「っ」


影森(かげもり)?」


 透羽(とわ)本人の声で呼ばれて、私ははっとした。見直す。もう普通の反射しかない。


「……何でもない」


「それ、何でもない時の顔じゃないよ」


 透羽(とわ)はそう言って、コンビニ袋を指に引っかけた。何でもない仕草なのに、その立ち方だけが、どこか“そこへ後から置かれた”みたいに見えた。


―――――


 別れ際、るなはすっかり透羽(とわ)と仲良くなっていた。


「また明日ねぇ〜」


「うん、また明日」


 透羽(とわ)は先に歩き出し、途中で一度だけ振り返った。


影森(かげもり)


「なに」


「階段、まだ気をつけなよ」


 心臓が一回だけ止まった。


「まだ……なんで、それ」


「え?」


 透羽(とわ)は首をかしげる。ほんとうに分からないみたいな顔で。


「なんか、そんな歩き方してるから。転びそうだなって」


「……そう」


「じゃ、またね」


 今度こそ、自然に手を振って去っていく。


 るなも帰った。幽々(ゆゆ)だけが少し残って、私を見た。


「どう思う」


「……分かんない」


「嘘」


 私は黙った。


 分からないんじゃない。分かりたくないだけだ。


 あの子は普通に見える。明るいし、空気も読まないし、るなともすぐ仲良くなった。でも、ところどころで混ざる単語も、距離の詰め方も、反応のズレも、全部が少しずつおかしい。


 戻ってきた子。そういう感じじゃない。


 もっと別の。


「……あの子、戻れたんじゃない」


 幽々(ゆゆ)が小さく息を呑む。


 私は、自分でも嫌になるくらいはっきりした声で言った。


「戻されたんだ。たぶん、何かに」


 その瞬間、校舎の窓ガラスが夕方の光を強く返した。


 眩しさに目を細めた、その一歩目で、私はまた足裏の感覚を見失った。


「え」


 地面はある。見えている。なのに、膝から下だけが一瞬ずれて、身体の重心が変な方向へ滑った。


 昨日の階段と、同じだ。


影森(かげもり)!」


 幽々(ゆゆ)の声。遠い。


 私は廊下脇のコンクリ壁へ肩からぶつかり、そのまま後頭部を角へ打ちつけた。


 鈍い音。

 白く跳ねる視界。

 熱いのに、急速に冷えていく感覚。


 床に倒れたまま、私はぼんやりと思った。


 ああ、やっぱりだ。


 あの子を見た時から、嫌な予感はしていた。

 戻り方が変なやつは、こっちの足場まで少しずつ狂わせる。


 視界の端で、窓ガラスに夕焼けが滲んだ。

 その赤の中に、もう帰ったはずの透羽(とわ)の影だけが、ほんの一瞬だけ立っていた気がした。


 そこで、意識が暗く落ちた。



ゆら「...六十二回。毎日数えてないと、忘れそう」


■今回の登場人物


影森(かげもり)ゆら

 階段死の翌朝を、最悪の頭痛と気まずさ付きで迎えた女子高生。今回は「転校生が来た日」なのに、その日の終わりにはちゃんとまた死んだ。安定感があるようで全然うれしくない。


夜見(よみ)朔夜(さくや)

 怪異相談屋。今回は冒頭で蘇生しただけなのに、存在感がだいぶ重い。学校だけ行けと言った直後に転校生案件の入口へ足を突っ込まれているので、たぶん次回は機嫌が悪い。


・るな

 転校生とも秒で仲良くなる通常運転。今回もふわふわしていたが、こういう子がいるからこそ“普通の学校”がまだ残って見える。


白澤(しらさわ) 幽々(ゆゆ)

 転校生の違和感に、ゆらと同じ速度で引っかかった側。軽く流さず、ちゃんと“そこ”を見る子はやっぱり強い。


夏目(なつめ) 透羽(とわ)

 明るくて、距離が近くて、普通にかわいい転校生。なのに、言葉と反応と立ち方のどこかが少しずつズレている。今回の本題。


・ぬい

 若いのう、だけ言っていた毛玉。だいたい仕事していない。


■今回の話について


 今回は、61話で死んだ直後の温度を残したまま、第三章の学校パート刷新に入る回です。

 夏目(なつめ) 透羽(とわ)は「明るく距離が近い」「るなとはすぐ仲良くなる」「でも一般人が使わない単語をうっかり漏らす」タイプです。


 また、冒頭では鬼灯(ほおずき)なゆの帳面がうっすら頭をよぎるようにしています。なゆは死や越境を記録する記帳官で、本来は死ぬたびに帳面へ記録すべきところを、何度か意図的に書かず猶予を与えてきた側です。今回も、書かれたのか、また不正で先送りされたのか、その曖昧さを残しています。


【今回の帳尻】

・金銭帳尻:蘇生一回。たぶん請求されます。

・死の帳尻:また一件。白い帳面の線は増える方向です。

・学校側の帳尻:転校生ひとりで、教室の“普通”が少しずれました。

・ゆらの実感:この子、なんか変だ。


 次回は、たぶん朔夜が学校の外からキレます。

 そして、転校生の“普通じゃなさ”が、もう少し現実の書類や記録の側から滲んできます。


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