異形の神通力
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忍如、香室、ミサキ、シュウメイの四名がヨシノリ達と分断されたところまで時は巻き戻る。遠隔から飛ばされる隠匿された魔術結合を謎の男が封印し、その姿が香室雅へと一瞬にして戻った場面において、面々はその異様な出来事に不信感を覚えていた。が、容赦なく二の矢、三の矢を放ってくる遠方の怨霊への対処を全員が優先する。
忍如は落下中のその身体を空中浮遊術によって操作し、自分に向かってきた魔術結合をかわしながらその結合の根本へと飛ぶ。
――術の性質・威力・隠匿性能が先程の術と比べ弱まっている……。数撃てば当たるとでも考えておるな? 笑止千万。
老僧侶の背後にはいまだ忿怒の相を崩さぬ仏像の姿があり、強力な魔力を放っている。彼はレシプロ機の如きスピードで空中を飛来して肉体を持つ怨霊との距離を縮める。その的確な旋回性能と機動性により飛び交い、彼をからめとろうとする魔術結合の網目を軽々と彼は抜き去っていく。
一方他の魔術師たちは住宅街の路上に着地し、迫りくる魔術結合をかいくぐりながら忍如と同じく結合の根本へ辿っていた。
ミサキはブロック塀を軽やかに蹴り、跳躍や壁走りを駆使しつつ忍如に迫る速さで道を走っていた。
――あの僧侶、確か『忍如』と言ったな。飛行スピードが尋常ではない。魔力効率は私とそう変わりないが、情報通りの莫大な魔力量に物を言わせてぶっ飛ばしている。ギリギリ追いつけないか……。
彼女はそう考えつつ、前から飛んできた魔術結合を避ける。だが、その彼女の動きと同時に背後からシュウメイの声が響く。
「危ない! ミサキ、左に隠匿術だ!」
彼女はその言葉を信じ、自身で確認するより先に浮遊術によって自身の動きを反対向きに引っ張る。一瞬の静止の後、すぐ右に彼女はふわりと動く。それと同時に彼女は神経を研ぎ澄ませ、周囲の感知に魔力を集中する。
――見えやすい結合と見えにくい結合、いや、それだけではない……! 感知能力がまちまちな我々に合わせ、微妙なグラデーションを付けた隠匿術を結合に施している。私が集中し魔力を消費するほどに新たな魔術結合が……!
『ドガガガガガガッ!』
彼女の頭上、空中で何かがぶつかり合う音が続いた。彼女が一瞬目をやるとそこでは忍如が空中で静止し衝撃波を耐えている姿が見られた。
追いつきつつあるシュウメイが背後から呼びかける。
「隠匿された魔術結合が蜘蛛の巣のようになっている。穴は大きいが感知なしで進むのは危険だ……!」
シュウメイはミサキに追いつくなり護符を取り出し、魔術結合に向ける。
「詳しく見てわかったがこれは6本程度の魔術結合で編まれている。だがところどころ枝木のように異なる隠匿術を混ぜ込むことで結合の見え方にグラデーションを生んでいる……。これほどまでに複雑な術を操る霊は中々見ないな……」
そう口走りつつ彼は次々と封印を続ける。術の隠匿ギミックと強度のために脆弱性を改善することは避けられていたようで術の封印は易々と進む。
しかし、前方より新たな魔術結合がシュウメイ、ミサキめがけ飛んで来る。シュウメイはそれをいち早く感知して叫ぶ。
「アレは、即時封印できない避けろ!」
だが、蛇のように素早くそして追尾する魔術結合は避ける二人を逃さず、絡みつく。二人は徐々に体の力が抜け始める。ミサキはふらつく自身の足元から効果を察する。
「クッ……。麻痺か……! シュウメイ、早く封印を……!」
シュウメイは追加で護符を一枚展開して術の封印にかかる。しかし、それよりも早く二人の魔術結合は封印され、効果を失う。
二人の背後からぬるりと音もなく黒スーツの男が現れる。先程、『香室と入れ替わっていた男』である。彼はぼそぼそと自信なさげに、しかし深みある声で話す。
「私が術の封印を行う。君は感知役をしてくれ」
男の言葉にミサキは若干苦言を呈しかけるが、シュウメイは「わかった」と即決。男に隠匿された結合及び、前方から迫ることが分かる結合を指示する。謎の男はその指示を聞きながらどんどん封印を行っていくが、徐々に指示される前の結合を封印し始める。
それを見たシュウメイはこの男の圧倒的予知能力を察する。
――すごい予知能力だ。違法魔術師でここまでの能力、只者ではない。なにか、有名な違法魔術師のデータを私は忘れているのかもしれん……!
目の前の男の顔をちらと見て、既視感を感じつつも彼は役割を遂行する。
ミサキを含めた三名は封印を続けつつ前方へと向かい始める、上空の忍如は手あたり次第に封印を続けていたが、ミサキたちにターゲットが映り、攻撃の手が緩んだのを感じ取ると前進を再開する。
全身を続けた三人はついに住宅の庭にて魔術を操る怨霊の本体、その姿をハッキリと視認する。複数人の男女の肉体が上下や左右、関節などを無視して乱雑に、しかしつなぎ目なくつなぎ合わされた不格好な存在が荒い呼吸をしながら魔術結合を操作していた。その体躯の上部には幾つかの脚部や腕がぴくぴくと痙攣している上に、脚の先に人間の頭部や瞳、耳などが付いているなど、生物的な機能性を全く感じられない異形を示している。
その身体に幾つも付いている頭部や顔は皆一様に苦悶の表情を浮かべ、小声でブツブツと何か怨み言や呪詛を吐き続けている。だが、そのうちの一つがミサキ達を視認すると、頭たちは驚愕と恐怖の感情を示し、もぞもぞとぎこちない動きで幾つもの手足が蜘蛛の脚のように地面を掴み、逃避を始めた。




