乱心の乱戦
……………
地が揺れるほどの轟音が幾度も鳴り響く。それを皮切りに諜報員が心念の襟首を掴み走り出す。折口は一瞬遅れつつ炎の中へと入る。ヨシノリは両手の頭蓋に念を込め自身の『護衛』を指令する。
――オレの下へ戻り、爆発から守れ!
その指令が炎の園に立つ二体の守護霊に走る。その瞬間二体の目の色が変わり先程とは打って変わった速度でヨシノリの下へと動き出す。黒い瘴気を滲ませた二体はどの魔術師よりも早く走りぬける。
そのヨシノリのもとでは衣服の裾が焼け焦げはじめ、すぐ近くの火球が膨らみ爆裂する。彼がその灼熱の放射に対して腕で顔を守る瞬間。彼の身体を二体の霊が包む。轟音と共に彼を襲う衝撃波は霊の魔力によって作り出された防壁に吸収される。
ヨシノリが目を開くと彼は二体の霊に抱きかかえられるように守られていた。
彼が二体に離れるよう指令する直前、女騎士の霊が一言呟く。
「体型が違う……」
その言葉の冷たい声色を聞いた瞬間、ヨシノリの脳裏に『ラッキー38』が語った彼女らの説明が思い起こされる。
――『術者はこいつ等にバラバラに引き裂かれて死んだそうだ! 早めに術を解除した方が身のためだぜェ?』――
ヨシノリは思考を巡らせる。
――おそらく、この霊はオレが『本来の術者』ではないことに察しつつある。それがバレたら……。あの攻撃的な性格が『本来の術者』同様に向けられて、同じような末路を辿る……?
血の気が引く中、ヨシノリはとにかくこの状態を変え、戦いに彼女たちの意識を向けるために指令を頭蓋に与える。
――騎士は敵に向けて突撃し他を補佐しろ。
その指令の直後、動き出した騎士は彼に先程からは考えられないような冷酷な視線を向け無表情で一言告げる。
「何故、私の名前を知らない?」
ヨシノリはその表情に殺意の念を感じ取る。だが霊は術式の効果からか指令通りに動き出して駆け出した。その霊が纏っている黒い瘴気は明確に増えていた。
一方、ヨシノリの背後に未だ抱き着くもう一体の霊は彼が気付いた時には、万力の如き力で彼を締め付けていた。その圧力で彼の骨がきしみ始め、強い痛みがジワリと拡がりつつある。
「先輩ぃ……。やっと二人きり……。一つになれますねぇ……」
その喜びの混じった声を耳に受け、ヨシノリは再び生命の危機を察知する。
――バレてなくても、どのみち殺しに来やがる……!
「冗談じゃねえぞ! 離れろッ!」
思わず声を荒げ指令する。霊は抵抗しながらも彼を締め付ける力を弱め離れる。ヨシノリは即座に周囲の火球へ対処するようにその白衣の霊への指令を切り替えてようやく戦況判断へ移る。
白衣の霊が周囲の火球を誘爆させて回りだす中、ヨシノリは阿修羅の方へ目を向ける。術師たちはすでにその近距離へ接近を済ませ、心念が諜報員によって真っ直ぐ神霊へと 《《投げつけられ》》、飛び掛かっていた。
心念は燃え盛る阿修羅の如き神霊の1メートルほどの至近距離に入った途端、手元の金剛杵へ魔力を注ぐ。その金剛杵は光を放ち、心念と神霊を包み込む。そして、地響き。強力な衝撃波が小爆発鳴り響くこの戦場においても感じられるほどのパワーである。
だが、その輝きによる力の奔流を受けてもなお神霊はその場に立っていた。閃光が晴れ、火球の園に阿修羅が心念の首を掴みあげている姿が現れる。だが、その周囲ではほぼ同時に攻撃を仕掛ける諜報員とその霊三体、折口レイの残像。いかに強力な神霊と言えど、この同時攻撃を崩すのは至難。
『ドガァアアアアアン!』
爆発。
折口レイは爆炎に包まれていた。
――火球の爆発に巻き込まれた!? 何故!? 有り得ない! 私の走法が崩れた?! 否、爆発は……。私がそこを歩くとわかっているように、事前に発生していた……!
周囲の火球が同時に爆裂し相乗効果が発生した衝撃と熱から身を守る彼女は浅いながらも全身に広がる火傷の痛みの中でそう思考する。
同じく爆発の衝撃を受け視界を閉ざされた諜報員も事態を分析する。
――今までの火球による『接触』爆発はブラフ……。下級怨霊および火球一体一体をあの神霊の任意のタイミングで爆破できるということか……! それでは奴に近づく方法は……。
即席の同時攻撃は神霊の巧妙なブラフによって崩れ去り、心念はじわじわと神霊の握力により首を絞められ、複数の腕によってなぶられる状況である。彼らの思惑は全て破壊され、敗北の二字がヨシノリの心に浮かぶ。
しかし、その時爆炎に包まれながら二体の水滴る女性霊が阿修羅へと攻撃を仕掛ける。二体はそれぞれ、上段下段の攻める方向を様々に変化させながら一抹の隙も与えぬ素早い連撃を繰り出す。その双子の如き正確無比な攻撃は複数の腕でそれを受ける神霊だったが、それでもなお圧され、心念を手放すこととなる。
その諜報員の霊と神霊の格闘戦の中へ、剣を突き立てた騎士の霊が怒りの形相とどす黒いオーラを纏って一直線に突撃してきた。




