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太陽への供物

     ……………


 上空に居た龍は標的を変えたのか他の場所へ向かっている。だが地上の阿修羅は暴れまわる猛牛に乗り、留まることなく機動を続ける。その周囲にはこの街に散らばっていた様々な姿の低級怨霊が一挙に押し寄せ諜報員とその幽霊、そして折口の行動を邪魔し続けている。

 ヨシノリの下にも四方から再び低級怨霊が押し寄せつつあった。心念は右手に持つ金剛杵に再び魔力を込め始める。ヨシノリはそんな中でも互いに切りつけ、殺し合う白衣の少女霊と女騎士の霊を見て苛立った声を思わず上げる。


「何互いに潰し合ってンだッ、こんな時に! いい加減に居ろよッ!」


 二体の霊はその怒号にびくりと驚いた様子で手を止める。その瞬間ヨシノリは我に返り二体の霊が術者さえも手に掛けるとの説明を思い出して失敗したかと焦りを覚えた。だが、霊たちは即座に周囲の怨霊に目を向け、飛び掛かっていく。

 女騎士は携えた剣で低級怨霊の大群を薙ぎ払う。その剣は極めて切れ味が悪く、ほとんど打撃によって怨霊を攻撃していたが、それでも重い一撃により次々と低級怨霊らは消し飛ばされて行く。

 一方、白衣の少女は懐から出刃包丁ジャパニーズヤンデレソードを二本取り出しそれを逆手持ちにして怨霊たちを切り裂いていた。こちらは騎士と対照的に鋭い切れ味で手早く相手を断ち切っていく。

 ヨシノリは彼の下へ向かう敵が一掃されてゆくところを見て、戦況の立て直しに希望を感じる。彼は心念に駆け寄って聞く。


「立てますか?」


「すぐ治る、大丈夫です。しかし、全員で一気にかからなければあの阿修羅は倒せない……。奴が怨霊を作り出し、操っているんだ。奴を倒さない限りは力を浪費するだけですからね……!」


 ヨシノリはその説明を聞いて他の面々が陥っている状況を確認する。折口は刀によって周囲の敵を切り伏せているが攻撃範囲には限りがある。諜報員の方は霊魂に大軍の相手を任せ、阿修羅のもとへ攻撃を仕掛けているが低級怨霊による妨害と強力な阿修羅の突撃によって押し返される結果となっている。


「範囲攻撃で怨霊を散らさないとメインの相手に集中できないな」


 よろめきつつも立ち上がる心念がそれに答える。


「僕は爆発を遠距離で起こせます。だが、それだけでは足りない……。それに、あの諜報員は秘匿課との連携を嫌っているようですからね……」


「あんたは爆発を撃って折口さんを解放してくれ。諜報員の方はおれがどうにかする」


「どうにかするって君……」


 心念はヨシノリの顔を見て、彼の苛立つ様子を感じ取る。


――彼は、自分が殴られて怒っているのか。増々冷静な判断ができないようにも思えるが、声色はいたって冷静……。この二面性、まるで師匠を見ているようだ。


 心念はそう考えつつ、折口の方へ火球を飛ばす。


――彼の判断は正しい。それにもし彼が無茶をしようとし言うのなら僕がカバーすればいい。今はあの阿修羅を鎮めるべく協力するのが先決……。例え、折り合いがつかなくとも……。


 心念の火球が飛ぶ中、ヨシノリは手元にある二つの頭蓋骨に念じる。二体の霊はそれに呼応し新たな指令を受ける。


――『あの阿修羅の周囲に居る低級怨霊を優先して叩け』


 彼の指令は実質的に彼自身を無防備に晒す指令である。だが、彼はそれ以上に一方的にやられ続けるこの状況をよく思っていなかった。


――殴られるのも、なぶられるのも嫌だが……。それ以上に目の前で他の奴が殴られるのがムカつくんだよ……! 調子乗ってそうなあの神霊をぶっ飛ばせるんなら、殴られたって別に構いやしないぜ!


 彼のその思考は全く冷静ではないが、理に則した言動は冷静そのものである。

 霊たちは暴れまわる牛の方へ向かい、低級怨霊を倒していく。同時に折口の周囲に心念の火球が届き、低級怨霊たちを爆発に巻き込んで一掃する。

 ヨシノリが叫ぶ。


「折口さん! 牛の動きを完全に封じてくれ!」


 折口は即座に刀を鞘に納め、地面を独特なリズムで蹴り一気に牛の走る軌道上に躍り出る。


『ザバッ』


 一閃。牛の前足を切り落とし、そのまま折口は阿修羅に切先を向ける。

 阿修羅は二対の腕を合わせ、祈りを行なおうとする。だが、その隙を突き諜報員が阿修羅に対してナイフを突き立てた。


『ガギシャァッ!』


 硬質な音が響くが、阿修羅に対して切り傷を負わせる。阿修羅が纏いつく諜報員を振り払おうとして動く中、折口が刀による突きと共に呪文を詠唱する。


『快刀乱麻、汚れなき刃の煌めきがあなたを撃つ』


 刀身が光を放ち、レーザー光線のような力の奔流が阿修羅に向け照射される。諜報員はすぐに飛び退き、その攻撃に巻き込まれるのを防いだ。


『ゴオオオオオオオッ!』


 直接その攻撃を受ける阿修羅は、痛々しく身体が焼け爛れた。だが、その攻撃を受けても腕は動き、自身の跨る牡牛を三対の腕で殴り、血を噴出させる。


「!?」


 牡牛は暴れるが阿修羅はそこから心臓を取り出しそれをむさぼった。

 その瞬間、阿修羅の身体は炎のようなものに包まれ熱気を帯びる。そして、そのまま阿修羅はおもむろに三対の手を合わせ、祈る。

 ヨシノリは迫りくる低級怨霊に殴られかけていたが、その阿修羅の動きによって怨霊たちの動きが止まり、彼も殴られることはなかった。


「な、なんだ!?」


 彼がそう口走る中、彼の心にはある確信が走る。


――ヤバイ! さっきと同じ、何かがヤバい感覚……! 今回はこの怨霊たちがヤバイ!


 彼は慌てて怨霊たちから距離を取る。他の魔術師たちも何かを察したのか、近くでとどまっていた怨霊たちから離れる。


「うぎゃああああああああああ!」


 怨霊たちは一斉に叫びをあげ、身体をよじり、内側から燃え始める。怨霊たちはみるみるうちに姿を消し炭にしていき、揺れる炎の玉に姿を変えていった。

 心念は声を上げて全員に知らせる。


「これは……! 触れると危ういです! 本物の炎と変わりない上に……。低級怨霊よろしく自爆する可能性が高い!」


 変貌した怨霊たちの魔術結合を観測しその性質を分析したのだ。

 ヨシノリは更なる窮地に立ったことを実感する。


――近づいても燃やされるし爆発する。そんな火の玉をくぐってあのバケモンと……! しかも奴まで燃えてやがる。どう切り抜けるか……!


 燃え上がる身体の中、阿修羅は三つの顔でそれぞれ笑みを浮かべ、火の玉を操り始めた。


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