リカ、プラス・オーーーン!!!!
「イイ“シュミ”してるだろ」
「やっぱり、お前のジョークは笑えねえ」
ガラステーブルに積み上がった写真は、
どれも“生きて”なかった。
「――イイ年したオヤジを片っ端から“ヤ”る。若いオンナも子供も、ヤツは見向きもしない。オヤジ専門の、頭のイカれた殺し屋が【商業地区・六番街】を今も歩いてる」
胸クソ悪くなるシュミだな。
俺はまだオヤジじゃないと確信しているが、
それでも絶対に近づきたくない。
「死因は?」
「刺されたから死ぬ、分かるだろ? 厳密には出血多量によるショック死ってトコだ。バラつきはあるが複数回――七~八回は必ず刺す。どんなウラミがあるかは知らねえが、可哀そうなオヤジが今月だけで、“五体”上がった」
「五……かなりイカれたクソッタレだな。警察はどうしてる?」
「相当な数が動員されているようだが、所詮ヤツらは“オモテの世界”の住人。そッちでなにも見つからないってことは――」
「イカれたクソッタレは【暗黒街】の住人、ってか」
「そういうことだ」
可哀そうなオヤジたちが映った写真をもう一度、
ビーデ=ロイヤーから受け取って確認する。
代わる代わる被写体を変えて、
様々な角度から撮られた十数枚の凄惨な現場写真。
あらゆるヒューマニズムが欠落したようにズームアップされた遺体は、
どれもスーツ姿だった。
それもかなり上等な、ハイクラス・スーツ。
ブランド物の『超』高級時計をしてるヤツも居る。
被写体から生命を感じない分、
物言わぬ装飾品がやけに輝いて見えた。
写真のこっち側に居る俺には、
むせ返るようなナマナマしい血の匂いより
金貨の鉄臭さがプーンと漂った。
「この人に見覚えはあるか、リカオン?」
「あるワケねーだろ。俺のシュミはフツウだ」
「やっぱりな。お前のシュミは、どうでもいいが、常識は皆無だな。その辺のガキだって知ってるぜ。この写真の人は“国会議員”だ。お前は〈携帯端末〉のニュースも見ないのか? 死体が見つかってこの三日間、〈昼〉も〈夜〉も大騒ぎだぞ」
〈ヤクザ〉に常識を教えられる俺。
しかしコイツの場合、インテリだから。
……ちょっと言いワケが苦しいかな。俺は常識に囚われない男なんだ。
「それで? このお偉いさんに、黒服は多額のワイロでも贈ったのか? これからって時に元が取れなくてザンネンだ。心からお悔み申し上げる」
「昔からウチを贔屓にしてくれた恩がある」
なんと、思わぬところから急にグサリ。
軽口を叩いて激しく後悔。なけなしの人情さえカネに変える、
この闇の業界にしては珍しく義理堅いことで。
「これはウチの沽券に関わる問題だ」
ジョークにまったく聞こえないところが、
憎いくらいクールだね。
「これ以上、ヤツを野放しにできない」
【商業地区・六番街】は、
お前らの領土だもんな。
「犯人はオンナと俺は見る」
「そうかもな」
「手口から見れば妥当な線だ。無数の刺し傷、コイツは誰が見たってウラミたっぷりだ。そしてターゲットは、いつだってオヤジ」
「だが、そうじゃない線もある」
「男がオヤジを殺し続ける理由があるか? 金目のモノには、ヤツは一切手を付けない」
「理由がなくたって人は死ぬぜ」
するとビーデ=ロイヤーは俺の目をジッと見た後で、
テーブルに積み上がった“遺影”に視線を落とす。
サングラスの奥に隠されたヤツの瞳に映るのは、その恩人だ。
「俺への依頼は、殺し屋を捕まえろ、だな?」
「ああ」
ビーデ=ロイヤーは言った。
「――生死は問わない。そのイカれたクソッタレを、必ず俺の前に連れてきてくれ」