リカ、げんなり…↓↓↓
「ありがとうございます」
そう言って迷彩服姿の男は、芝居じみた敬礼をする。
「では――失礼いたします!」
ゾロゾロと、俺の部屋をまたたく間に制圧するジャングル探検隊。
隊長以下、まるで背中と足に定規を当てられたように
全員がカクカク動きながら要所を確実に抑えていく。
そして完全に包囲される俺……。まさに夢のような光景だ。
まるで黒曜石のような黒い肌。
そして部屋の天井を覆うような“規格外”の巨体。
後ろで手を組み、窮屈そうに休めのポーズで対峙する隊長は、
明らかに常人離れしたムッチリボディを惜しげもなく披露する。
はちきれんばかりにパンパンに膨らむ『超』ビックサイズの迷彩服が、
ヤツの危険度を“見える化”する。
「お初にお目に掛かります! 我々は《密林に潜むヘビ》――【商業地区・八番街】に本拠を置く“戦闘民族”であります、そして私は今作戦の指揮を任されました、アルファルファ大尉であります、リカオンさんにお会いできて、まことに光栄であります!」
「なんだって? すまない。早くてゼンゼン聞き取れないんだけど」
「ではもう一度、ゆっくり復唱します! 我々は《密林に潜むヘビ》――【商業地区・八番街】に本拠を置く“戦闘民族”であります、そして私は!」
ダメだ、もう理解したくない。
朝イチから割れんばかりに頭が急にイタイ……。
誰か頼む。この部屋に立ち込める空気を、早くなんとかしてくれ。
この場所は強力な換気が必要だ。
「まず“昨日の件”につきまして、我々からリカオンさんに“お詫び”を。――オイ」
すると隊長は一転して【暗黒街】仕様に表情を切り替えると、
となりの隊員に命令する。
まるで伝言ゲームのように、そのゼッタイっぽい隊長命令は
次から次へと小刻みに、隊員たちの耳元でハキハキと正確に伝えられる。
そしてようやくドア付近まで行くと、
このイタ過ぎる『軍隊コント』は一気にスピードアップ↑。
退路の確保を命じられたゴツイ兵隊は、改めて内容を忠実に
確認・復唱(アホか!)して、カクカク動いてフェードアウト。
そして横長のスーツケースを左手に提げ、すぐにリ・ターン。
なんてカロリーの究極なムダ遣い。おおクレイジー!
「……もういい。頼むから、このまま帰ってくれないか? メシまだだし。あんたたちのキモチは分かった。俺は、なあんにも気にしてない」
「そんなこと言わずにリカオンさん!」
「いや、イイ。なにもいらない。帰れ」
「入ります」
ん?
ダミ声が行き交う、この男だらけのむさ苦しい空間に場違いな澄んだ声。
まるで一服の清涼剤のように俺の全身を洗い流してくれる、
この清々しい声の主は……?
「昨夜は特別に“ご指導”いただき、ありがとうございました」
「なるほど。テメエもジャングル探検隊の一員だったか。どうやら俺の伝言は、ボスにしっかり伝わらなかったようだ。やっぱりムカつく」
俺の前に現れたのは、あのイケメンだった。
どこぞの映画俳優さながらの、
ピッチピチのライダースーツで俺の前に現れて驚愕せしめた
【興業地区・四番街】で俺に安いケンカを吹っ掛けてきた、
あのイケメンだ――
「さっきのバカみたいな伝言ゲームは、仲間内だけのオママゴトか? 俺はちゃんと伝えたよな、イケメン? コソコソ俺を嗅ぎ回ったら」
「“潰す”、ですよね」
「……ナメてんの?」
「リカオンさん、やはりご納得できませんか。我々は、あなたと“敵対的な関係”になることを望みません。むしろ極めて“友好的な関係”の構築を強力に求め続けます――オイ!」
異常に横長なスーツケースを左手に提げる兵隊は、
自分の胸の高さまで軽々と持ち上げると
俺に見えるようにそれを提示する。
「なんだそりゃ」
「申し上げたように“お詫び”です。我々の“誠意”を、是非ともリカオンさんに見ていただきたい」
「対物ライフルでも進呈するつもりか。言ったはずだ、なにもいらない。なにも求めない。帰れ」
「ご覧になるだけでも」
「イイ加減にしろよ。テメエらが相手にしてるヤツは気が長い方じゃねえ。これが最後の警告だ、俺の部屋から残らず消えろ」
――と、
ドアの前に居たイケメンがサッと来て、俺との距離を瞬時に詰める。
すると無意識に俺は危険箇所をピンポイントに予測して、
効率の良い迎撃態勢を整えていた。
見たところ、コイツの脅威は少ない。
向ける注意は可能な限り最小に、だ。
俺の危険センサーがビンビン反応するのは、
やはりジャングル探検隊の隊長だ。
“戦闘民族”のイタ過ぎる空気を醸す規格外のコイツは、
やはりデンジャラス。
「……! なんだ?」
するとイケメン、予想外に急ストップ。
俺の攻撃範囲のギリギリでヤツは静止すると、ドサッとその場に
膝を落とし、なんと!額を床にこすり付けた。
ふわっと一瞬の内に広がったヤツの亜麻色のサラサラヘアーが、
ペパーミントの清々しい香りを運んでくる。
「お納めください。コトを余計に荒立てた“お詫び”です」
「そう言えばイケメン。“お前の左足”はどうなってる。昨日の今日なのに、なにごともなくピンピンしてるのは、どんなマジックだ? 俺の知らない間に【暗黒街】の医療技術は、一体どこまで進歩した?」
もはや時代遅れの土下座スタイルで誠心誠意詫びるイケメンは、
ようやく顔を上げ、俺の問いにシンプルに回答する。
お世辞にもスマートとは言えない、
ヨロヨロとした動作でぎこちなく立ち上がり、
イケメンは昨日とまったく同じライダースーツのスソを
ほんの少しだけ捲る。
「オイオイ、まさかテメエ……そのケースの“中身”ってのは……」
「お見せしろ」
スーツケースを高らかに俺の前で掲げる兵隊は、
即座に命令を実行した――
「……やっぱ〈ユニオン〉ってのは変わらねえな。ドイツもコイツも揃って思考回路がイカれてやがる」
《密林に潜むヘビ》の指揮官は、
「友好的な関係を望みます」とクソ真面目に俺に言った。




