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リカ、ウェーーーークアップ!!!!

 「リカ」


 どうしてかは分からないが、その男の声はよく届く。

 頭の後半部分が、かろうじてチョイ残る薄毛のその男は、

 いつ来ても客のまばらな低級酒場【ウイスキー・ドック】の主人だ。



 どうやら店の主は、楽しい酒を提供する気分はないようで、

 流行のハイトニック(アルコールと、よく分からない粉末を混ぜた

 安価な合成酒(イエロー・リカー))の(たぐい)は一切置いていない。



 後ろの棚に勢ぞろいする美しい琥珀色のボトルは混じりッ気ナシの、

 正真正銘の本物だ。


「リカ」




「ンだよ……俺は……まだ、眠い……」




「珍客だ」

「チン……キャク……?」



 甘いまどろみの中に居た俺は、視界に飛び込んできた

 薄毛の店主の見たくもない二ノ腕に軽いめまいを覚えながら、

 血管の浮き出る上腕からヒゲへとゆっくり視線を移す。


 黒のタンクトップを着て必要以上に筋肉自慢をするヒゲは、

 俺の視線に答えるように、黙って向こうを指さした。






 「アタシだよリカオン! さあ、仕事の時間だッ」





 な……なんだ?


 振り返って声の主を確認しようとすると、

 はち切れんばかりにパンパンに膨らんだ巨大マシュマロが

 まるでそびえ立つ巨塔のような、圧倒的な威圧感で

 視界を遮るように仲良く二つ、俺の前に並んでいた。



「チン、キャク?」

「いつまでも寝ぼけてンじゃないよ! ――オラア、私のハナシを聞けェ!」



 すると大きく波打つ巨大マシュマロ。

 まるで話しかけてくるように、目の前にぶら下がる“コイツ”は

 存在を強力に主張する。



「うう。頭が……頭が、割れんばかりに急にイタイ」

「ああん、どの頭がイタイッてェ? この“シエラザード”さんが特別に、この指で、たーーーっぷりマッサージしてあげるから起きろ」



 そう言って『依頼人(?)』は、俺の頭を問答無用に鷲掴むと

 ギュウギュウギュウと、まるで『魔女』のように鋭く尖った爪を

 力いっぱい突き立てる。



「コレか? コレがイイんだろ、この“ド”ヘンタイ! オラオラオラッ」

「イッ、イテテテ! な、なにしやがる、や、やめろコノヤロウ!」

「オラオラオラァ! さあ、とっとと目を覚ませリカ、そして解決しろッ」

「イッテェ、マジでイッテーー!」


「オイ、シエラ……」


「このくらいしないと、コイツはコノッ! ゼッタイ起きないだろッ!」

「それは、そうだが……」

「イッテェ、マジでイッテーー! いやああオネガイッ、もうやめてッ!」



「コノコノッ! このくらいで音を上げるんじゃない。そんなンで『なんでも屋』が務まるかッ。コノコノコノォ!」

「シエラ」

「ホホホ! ああッイイ、その顔ゾクゾクしちゃう! ……なんだい?」


「“赤いモノ”が垂れてる」




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