リカ、好感度はキニシナーイ!!
「凄いなあ、本物だ」
「サッサと用件を言え。アルコールがキレそうなんだ。さっきからずっと、イライラしてしょうがねえ」
「やだなあ。怒ってるんですか、“センパイ”?」
美的感覚を疑わせる、
ピッチピチのライダースーツで現れたストーカーは、
俺をジッと見つめたまま自然体で構えている。
なんとなくイヤなカンジ……。
人懐っこい笑みを絶やさず、常に柔らかな物腰で、
女性受けする綺麗なモデル顔と相まって、
一見すると非の打ちどころのない『超』好青年だが、
どうも雰囲気がカタギじゃない。
ピリリと肌を刺すような緊張感が、この一帯に漂った――
「そんなに警戒しないでください。リカオンさんを敵に回すつもり、ありませんから」
明らかに浮きまくっているヤツだが、逆に“有り”かもしれない。
【商業地区・六番街】は映画やドラマのロケ地でもある。
撮影を抜けてきたイケメン俳優なら、
この統一感のなさは許されるはず。
「でも驚きました。だって実際に僕の前に“居る”んだから。野生のオオカミって、ホントに実在したんですよね?」
「用件を言え」
食えないヤロウだ。表情がミリ単位も変わらない。
「どこからだ」
「え? なんですか、リカオンさん?」
「どこから見てた、“誰”の命令で俺を監視する」
「あなたのファンですよ、リカオンさん……って、ジョークを言って許される状況じゃない、か」
「二度と名前を口にするな。俺は安くない」
初めて素顔がお目見えする。
だがイケメンの事実は変わらない。
ますますムカつく。
「“大佐”がお会いしたいそうです。ご同行いただけますか?」
「おめでたいヤロウだ。ギャング映画の見過ぎで思考力の明らかな低下が見られる。それに加えて、相も変わらずダサい階級で呼び合う、そのセンスの古さ……
五秒やる。数える間に消えな」
「さすが“生きる伝説”。〈ユニオン〉を震え上がらせた野生のオオカミの殺し屋――『なんでも屋のリカオン』は、まだまだ健在のようで」
息を止める。
踏み込む。
グッと地面を蹴り出す。
――驚きの軽さ。思わず自画自賛する、近年ないバツグンのキレ。
この最高速度を絶対維持。
ヤツも瞬時に戦闘モード。意識の切り替えはスムーズ。
間違いなくヤツも武闘派。
どう制圧する?
なぜか負ける気がしない。気分はハイ↑。
やっぱりカラダは絶好調。
低空で頭から突入。それを見て、ヤツの膝が迎撃態勢に入る。
――よし、食いついた!
「ゲームオーバーだぜ、イケメン」
風を切る音が聞こえてきそうなヤツの鋭い膝が、
最高到達点に来る前にフォールする。思わぬ行動に、
イメージもボディバランスも崩したヤツに、
もたれかかるように仲良くそのまま男二人でベッド・イン。
悩ましげに抵抗するイケメンの左足を最後に“シメ”る。
人の気配がない寂しい空間に、ボキリと鈍い音が響いた。
「頭の中がおめでたい、テメエの上司に伝えろ」
苦痛に顔を歪めるイケメン。しかし、すぐに片方の足で立ち上がる
運動神経バツグンのイケメン。シメた左足は不自然に内側を向いたまま、
恨めしそうに正常な方の足を見つめている。
「今度コソコソ嗅ぎ回ったら“潰す”」
先週レンタルしたギャング映画に影響されたかな。
セリフが我ながらキナ臭い。
美女にモテモテの凄腕スパイより、
やっぱり俺は“そッち”がハマり役らしい。
「……コワイな、やっぱり。あなたは恐ろしい人だ。“大佐”には確かに伝えます」
「それからイケメン、おしゃべりは男に嫌われるぜ。口が寂しいならアメ玉でもしゃぶってろ」
――イケメンを徹底的にボコる俺。典型的な悪役のポジション。
ヒガミ度はMAX。
あとは、そうだ。
ハードボイル・道をトコトン突き進むことにした俺は、
コートのポケットからコインを感覚で数枚掴むと、
傷ついた若者の足元にバラ撒いた。
「とっとけ。慰謝料だ」
好感度はキニシナーイ。振り返らず去る。
それがハードボイル・道。
すっかり気分は上々。
アクションシーンもバッチリ決めて、今夜は酒が進みそうだ。
銅貨ばっかりだったら笑える。




