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第八章⑦ エリオット

 一方で、この一部始終を密かに目撃した人物がいた。

 潮風に身を隠しながら、エリオットは波止場の影から彼らの戦闘を見つめていた。

「なんだ、この光景は……」

 思わず漏れる小さな呟き。

 指名手配書でしか見たことのない五鬼衆の面々が、目の前で生きて動いている。

 しかも彼らが戦場に出たはずのマクシムと連携してエドガーを倒し、さらにルキフェルがマクシムを圧倒する。その事実が、頭の中でゆっくりと消化されていく。血まみれでありながらも、無駄のない剣戟、的確な連携、そして圧倒的な存在感。

 エリオットの目はルキフェルにすっかり釘付けになっていた。やがて、ルキフェルがマクシムを打ち倒すその瞬間までを目の当たりにして思わず息を呑む。

 あの傷だらけの容貌、冷徹で苛烈な瞳。

 たしかに——鬼という異名がふさわしい。

 エリオットは暗がりに身を沈めながら視線を遠くに向ける。

「……あの男を放置するわけにはいかないな」

 エリオットの目が無言の覚悟で鋭く光る。

 海軍にとっても、これは無視できない脅威になる。

 いや、もはや脅威という言葉では足りないかもしれない。

 そう感じるほどの圧力が、波止場の空気を震わせていた。

「……いかん。すぐに助けを呼ばねば」

 エリオットが慌ててその場を去ろうとするが、風によって運ばれた言葉が彼の足を凍らせた。

 冷たい波紋が心の奥底に静かに広がっていくのを感じる。

「ゼフィランサス……?」

 その名が、かつての親友であり同時に宿敵でもある存在を呼び覚ます。

 記憶の底に沈めたはずの出来事が重く胸を締めつける。

「マクシミリアンが……あいつの仇を? 私の命を狙う、というのか……」

 エリオットは振り返ることはしない。だが、風に乗って届くマクシムの言葉に揺るぎない決意が感じられて理性がかき乱される。

 結局、エリオットは振り向いた。理性を抑え込みながら現実のものとして受け止めようと身構えた。

 ところが、彼の視線は別のところに注がれる。

 彼の目線の先、ソフィーの胸元に銀細工のネックレスが夕陽を受けてキラリと光った。

 その小さな輝きがまるで彼女の命をつなぐ鎖のように、エリオットの胸に突き刺さる。

 彼は動揺に耐えきれず、膝をついた。世界がぐらりと揺れ、重力が自分を押し潰すような感覚に襲われる。しばし言葉を失ったまま、その場に沈んでいた。揺れる世界に呑まれそうになっていた彼だったが、やがて必死に呼吸を整えて手をついて立ち上がった。

「……戻らねば」

 声にならない呟きとともにエリオットは足を踏み出す。重い足取りだが、目には迷いの影はない。

 戦場の混乱を抜け、海軍陣営へと向かう。だが、心の奥底ではまだ動揺が収まらなかった。

 ソフィーの胸元に光った銀細工のネックレス。

 あの小さな光景が、頭から離れない。

 まるで自分の心を引き裂くように、その輝きはエリオットの思考をかき乱す。

「なぜ……あの首飾りが……」

 問いかける声は風に消え、誰にも届かない。

 それでも彼は歩き続ける。足元の地面を確かめながら、胸の奥で生まれる不安と動揺を押し殺して。外套が風に靡き、夕暮れの光が薄く彼の顔を照らす。

 戦いの熱と疲労、そして心のざわめきが渦巻く中。

 エリオットはただ一つの使命を胸に海軍陣営へと戻るのであった。

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