第一章⑨ マクシム
マクシムは重い足取りで執務室へ向かった。
眠れぬ夜に無意味な考えが頭を駆け巡る中、彼はただひたすらに歩き続けた。
扉を開けると、執務机の上に置かれた書類が視界に入る。昨日、届いたばかりのものだった。
そこに無造作に置かれていたのは、五鬼衆の指名手配書と送付書類。
参謀本部が彼らを危険人物リストに追加し、ついに一般市民向けにも指名手配書が作成されたのだ。
これが届いたということは、近いうちに世間にも彼らの存在が知られるだろう。
マクシムは書類を見つめ、呟いた。
「思えば、あの日もこの五人がいた……」
不意に記憶がよみがえる。
自分がベルナルドを殺した日と、かつて大海賊フランソワが死んだその後も。
運命のいたずらか、彼らと何度も巡り会うことになるとは。
「どんな因果か……僕を忘れはしなかったのだろう」
彼の瞳には覚悟とともに、深い闇の色が宿っていた。
マクシムは指名手配書を一枚ずつ手に取り、じっと目を凝らした。
人物画に精密さはなく当たらずも遠からずといったところだが、その輪郭や特徴は確かに彼らを思い起こさせる。
「ニール……」
金髪碧眼の青年のイラストを見つめる。
「絵はやや美化されているが、爽やかな外見の裏に潜む本性はそんなに変わらんだろう。見た目に惑わされてはならぬ……美しい毒草だ」
次にめくったのは、小柄な黒髪の少年の絵。
「コリンか。やけに賢そうに描かれているが、年齢に見合わない、戦闘時に見せるあの狡猾な目つきはよく表現されている。油断できん」
次は明るい茶髪に水色の瞳の美青年、マテオのイラスト。
「義手の描写も確かだ。こういう華奢に見える男ほど狡猾で強い。油断大敵」
続いて癖毛の赤髪、長身のジャスパー。
「琥珀色の瞳もよく再現されている。彼の炎のような性格も、この絵から伝わってくる気がする」
最後に傷だらけのルキフェル。
「斜めに裂けた傷もリアルだ。緑色の瞳が冷徹な彼の本質を如実に表している。超危険人物……あの男だけは絶対に油断するな」
マクシムは一瞬、視線を遠くに向けた。
「絵であっても、その冷気は伝わってくる。彼らとの再会は決して偶然ではない」
ゆっくりと息を吐き、指名手配書を机に戻す。
「これからの戦いは、一歩も引けぬものとなる……」
夜の帳がゆっくりと世界を包み込むように、マクシミリアン・ブーケ隊の宿舎には静寂が戻った。
だが、その静けさの奥底で、嵐の予兆が確かに息づいている。
指名手配書に映る五つの影。五鬼衆の冷たい眼差しが、確実に彼らの未来を切り裂こうとしていた。
マクシムは己の胸の奥にわだかまる闇と覚悟を抱え、夜明けの訪れを待ち続ける。
この戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
そして誰もが知らぬ真実が、いま静かに蠢きはじめている——。




