019 待ち伏せ
AMI歴12年5月15日 白銀楼市内 裏路地
犬上亮人
俺は待ち伏せに対しここで正面から相対する事に決めた。
一の奴は隠れたままおっさんを追い続ける事にしたようだ、おっさんと一の臭いが遠ざかってゆく。
ここに隠れている奴等の相手なら、俺と秋月妹で問題ないと判断したという事だろう。
「特にフォローはしねぇぞ?」
「おっけー♪」
一が居なくなった以上、俺が秋月妹の事も気に掛けるべきなんだろうが、なんと言うかこいつにはそんな気遣いは無用だろうという謎の信頼感がある。
実際俺の宣言に対し、何の気負いも無く軽く返事を返してきやがる。
お?
てっきりいかついおっさんでも出て来るのかと思っていたが、予想に反して出て来たのは俺たちと同年代と思わしき少年少女達二人組だった。
「はっはっはっは!まさかゼンモン持ちが待ち伏せだとは思わなかったぜ!!」
「帰る、戻る、追いかける、無い」
「おいおいおい・・・日本語話せないのかよ・・・テンション下がるわー」
「・・・・・」
正面のゼンモン持ちを睨みながら声を潜めて秋月妹に話しかける。
『おい秋月妹気付いているか?』
『後ろのおじさん達の事かな』
『おう分かってたか、火薬の臭いが漂ってくるぜ、銃で武装してやがるな』
別のおっさんが二人俺たちの背後に潜んでいる、挟み撃ちにするつもりだったのだろう。戦闘が始まってから不意打ちするつもりなのか、脇道に隠れたままのおっさんは出てきそうに無かったのでこっちから打って出る事に決めた。
『おい、俺は後ろで隠れている奴から始末するぞ、正面はお前に任せた』
秋月妹にそう告げると、俺は前方に立ち塞がったゼンモン持ち二人を無視して、後ろで隠れてるおっさん達の許へ駆け寄った。
戦いにおいて敵の弱点から真っ先に潰して行くのは常道だ。
十五日の加護を最大限発揮した俺の瞬発力は常人の反射速度で対応できるものでは無い。
まさか前方の相手を無視して背後の自分達の方へ向かって来るとは思って無かったのか、脇道に入ると隠れていたおっさんが二人焦った様子でそれぞれ懐に手を伸ばすが、反応が遅すぎるぜ。
俺はおっさん達に銃を構える暇すら与えずに、左右に手を伸ばして同時に二人のおっさんの腕を掴むと、飛び込んだ勢いのままおっさん達を建物の外壁に叩きつけた。
背中と頭を壁に強打したおっさん達は息を漏らすと全身から力が抜けた、目論見通り衝撃で気絶したかな?そのまま掴んだ腕を引っ張り出すと、その手には拳銃が握られていたのでそのまま頂戴する事にした。一応指紋が残らないようにハンカチ越しに銃を掴み取って、そのまま俺の懐にしまい込んだ。
意識を戻さないよう念の為におっさんの後頭部をもう一回壁に叩きつけて、脇道から俺が戻ると先ほどの男女が二名とも秋月妹に投げ飛ばされていたようだ。
最初に投げられたらしい男が少し離れた位置で仰向けになってうめいており。
秋月妹はうつむけになった女の背にのしかかり、後ろ手に捻り上げて関節技を決めていた。
「いきなりゼンモン持ち二人をこっちに丸投げするとは思わなかったよ亮人っち」
「いや、お前なら余裕だろうと信頼してたんだぜ、何のゼンモンか分かったか?」
実際秋月妹は二人組ゼンモン持ちの待ち伏せを受けたって言うのに全く動揺したような素振りも見せずいつも通りの余裕の態度だったので、俺はこいつの実力に対する認識を上方修正して任せても大丈夫だろうと判断したのだ。
まぁあの秋月姉と伊織の妹がただ者であるはずもねーしな。
「さすがに何のスキル持ってるかも分からないの二人を相手に後の先狙いは怖いよ、スキル出させないように先手を取ってたからまだわかんない、まあ意識の大半を亮人っちに向けてたから楽に投げ飛ばせたんだけど・・・こーゆー時に思うけどつくづく奏ちゃんの能力は便利だよねぇ」
成程もっともな判断だ、そして敵は秋月妹の見た目に騙された格好になったな。
俺を意識するあまり秋月妹への警戒が薄かったのだろう。
会話をしながらも俺は体制を整えようとしていた男に駆け寄って全力で蹴りを入れた。
謎のゼンモン持ち男は勢い良く吹っ飛び、地面を転がった末に建物の外壁に衝突して停止する。
「でもホラ見ろよ、おかげで戦利品をゲットだぜ!」
「銃なんて持ってたら警察に捕まるのは亮人っちの方だよー?」
俺がおっさん達から奪った銃を見せつけると、残った女に関節技を極め抑え込んだ体制のまま秋月妹も返す。
俺が蹴り飛ばした男はふらつきながらもまだ起き上がるので、ダメージが残ってるうちに追撃を決めようと今度は背後に回り込んでジャーマンスープレックスを食らわせ男の頭をアスファルトへ叩き込んだ。
何かスキルを使ったような気配もあったが、この手応えなら気絶しただろう。
「なに、後でおっさん達とまとめて拳銃ごと警察に提出するぜ」
「ふみゅ・・・なら最初に『賢者の森』に銃とおっさん達の写真をアップしてから警察呼ぼうか」
「おま・・・エグい事考えるね」
こいつらの職業的にはそんな醜態を『賢者の森』で拡散なんてされたら致命傷なんじゃないのかな?知らんけど。
「警察呼ぶのも総師範に連絡してからの方がいいかなー?」
「無関係な大人を巻き込んでくつもりかよ・・・」
因みにさっきから秋月妹に押さえつけられた女は苦悶の表情を浮かべている。押さえつけて肺を圧迫されながら腕関節を極められ成す術がない様子だ。
「いやーほら、正当防衛である事をちゃんと説明しておかないと、怒らせると怖いのよ宮代の御爺さまは」
「お前にも怖いものがあるとは驚きだぜ・・・と、思ったよりタフだな」
俺が振り返ると、ジャーマンスープレックスを食らわせた男が再び立ち上がった所だった。
おっかしいなぁ?ゼンモン持ちが普通の人間よりタフだからって、すぐ起きれるようなダメージじゃ無かったと思うんだが。
その男の瞳には先程まで以上の明確な殺気が満ち溢れていた。
「お前・・殺す」
と、その手には拳銃が握られており、その銃口が俺に向けられていた。懐を確かめると奪った拳銃の内一つが無くなっている事に気付いた。
「おろっ?いつの間にか銃が一丁無くなってる!?」
「亮人っち・・・無いわー・・これは酷い」
秋月妹のジト目が痛い、おっかしいなぁ?いつの間に??
殺気とともに手にした拳銃を向けられ、引き金が引かれる瞬間に避けようと神経を集中させていた所、男は無造作に銃口の向き先を俺から秋月妹へ変えたと思ったらそのまま連射しやがった。
パンパンパン
特にサイレンサーも付けられていない為、拳銃の音が裏路地に響き渡る。
一緒に味方も撃ちかねない状況で、男の銃撃には一切の躊躇が無かった。
「わっわっわっ!今の流れでこっちなの!?」
秋月妹は瞬時に押さえていた女を手放し、突然自分に向けられた銃口から慌てて逃げまどっていた。
器用に銃弾を回避しきったらしく、特にその動きに変わりは無い。
・・と言うか今、銃弾を1発素手で弾かなかったか?
あれだけ俺に殺気を向けた状態で、まさか俺では無く秋月妹が狙われるとは思って無かったため冷や汗をかいちまった、さすがにこいつに怪我をさせたら秋月姉も本気で怒るだろうし。
殊更俺に怒りを向けて行動するかと思わせておいて、冷静に仲間の自由を取り戻す事を優先したのか。
パンパン
「なっ!?」
ホッとしたのも束の間、今度こそ男は拳銃を改めて俺に向けて残りの銃弾を発砲する。
秋月妹の安否に一瞬気をとられていた俺の意識は突然の銃撃に虚をつかれた形だが、身体の方が勝手に危険に反応して襲い来る銃弾を全て避けていた。
「あっぶねー」
俺達が銃弾を避けてる間に、倒されていた女も起き上がり体制を整えている。
正直今の肉体で十五日の加護がある状態の俺に鉛の銃弾が効果あるのか試したい気持ちもあったが、万が一普通に効いたらしゃれにならないよな。
男は銃弾を撃ち尽くしたらしい拳銃を俺に向かって投げつけて牽制してくる。
回避を重ねた為に俺の体制は崩されており、銃撃を警戒していた秋月妹の行動も受け身に回っていた為、次の女の行動を阻止する事は出来なかった。
秋月妹の拘束から逃れ、自由を取り戻していた女は大きく息を吸い込むと、突然耳をつんざく絶叫を上げた。
「キ”ア”ァ”ァ”ァ”―――――――――――――――!!」
その絶叫を耳にした途端、三半規管が狂わされたように視界が歪み、急に船酔いにでもなったかのように頭がグルングルンと回るような感覚を味わっていた。
「がっ、絶叫系の精神攻撃か?」
秋月妹を見ると、寸前に耳を塞ぐ事に成功したらしく、俺よりはダメージは少なそうだが、継続中の絶叫に対し両手が塞がれた状態なので行動が著しく阻害されている。
そこへ追い打ちをかけるように男の手から何か缶のような物が放り投げられた。
「ガス!!」
後ろに逃げながら秋月妹が発した声を聴き、慌てて俺も投げられた缶から距離を取ると間も無く。
プシューーーーーーー
缶から白煙が立ち込められ、垂れ流された異臭と共に俺たちの視界を奪う。
催涙ガスかよ!?くそ、異臭は俺にとってやっかいだ、こいつばかりは人狼族故の鼻の良さが逆に仇となってしまう。
俺たちは仕方なしに立ち込める煙から距離をとって様子を伺う事しか出来なかった。
やがてしばらくして煙が拡散すると。
「逃げたか・・」
ゼンモン持ちの男女の姿は消え去っていた。
一応拳銃一丁とおっさん達二人の方はその場に残されたままだ、異臭のせいで後を追うのも困難だし、おっさんを放置するのもはばかられ、俺は逃走した男女の追跡を諦めた。
「もう追わないんだ?」
「さっきのガスでまだ鼻が利かねえよ、仕方ねえしとりあえず銃とおっさんをどうにかしようぜ」
「でもさー正直警察呼んだら取り調べとか調書とかメンドー臭くない?情報のためウチら独自でおっさんから色々聞いた方がよくない??」
「こっから神社まで気絶したおっさんを運ぶのはさすがに嫌だし目立ちすぎるぞ」
「うーん、人除けの結界ももう解かれてるみたいだし、銃声は結界で誤魔化せてるのかなぁ?まぁ神社まで行かないにしろ、一旦すぐにここを離れた方がいいと思うのよねー」
「つってもおっさん抱えて移動してたら目立って仕方ない事に変わりは無いんだが?」
後先考えずに突っ走っちまうのは前世から変わらない俺のならいではあるが、我ながら行き当たりばったりも過ぎるかな、まぁ今までも本能任せの行動で致命的な失敗はしてこなかったはずだ。
俺達が対応に困って相談していると後方から見覚えのある人影が近付いてくる。
「じゃあ、いっその事あの人たちに任せちゃう?」
「それが一番楽ではあるんだがなぁ」
こちらに近付いて来る人影を見ながら、秋月妹の提案を吟味する。
胡散臭さでは正直変わらないと思うんだが、これも貸しに出来るだろうか?
独力ではここからおっさんを移動させるにも一苦労だし、かと言って放置もまずい。
預けてしまうのが一番楽は楽なんだが・・・
「尾行を継続してる一の奴に情報収集は任せて大丈夫だと思うか?」
「一ちゃんにそっち方面の働きを期待していいのかにゃあ?難しくない?ここは一旦彼らに二人とも預けて、後から一人だけでも尋問用に返してくれないかな?」
「ぶっ、アメリアの諜報員を銀行扱いかよ?その発想は無かったわ」
当初追っていたおっさんの後は、一の奴が追跡を継続しているはずだ、アイツに臨機応変な情報収集なんて出来るのだろうか?
いや、あれで仮にも勇者と言われていた男なんだから、その程度の知性は期待したい所だ。
とりあえず気絶させたおっさん二人は、近付いて来るアメリア人に任せてしまうか、面倒事を避けるにはそれが最善だろう、なんせこちとら社会的には未成年のお子様だし警察に事情を説明しようにも色々と困るのは確かだ。
しかし後で尋問したいから準備が整ったら返してくれとか、そんな要求通るもんかね?
亮人&羽依の活躍回ですね、珍しく羽依がカメラ以外の仕事をちゃんとしてます。
そして珍しく主観変更しないままの1話でございました。
ちなみに今の亮人でも拳銃の銃弾くらいではダメージを受けません。
しかし書きたいシーンが思い浮かんだから書き始めたこのお話ではありますが、書きたいシーンへ至るまでに描いておかねばならない事が多すぎるなー
ここまで当作品をお読みいただきありがとうございます!
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『楽しい』『続きが気になる』『この伏線ちゃんと回収されるの?』
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