017 五十棲駿
AMI歴12年5月15日 白銀楼第二小学校 砂金奏
私はタブレットを取り出し、いつも見ているサイトを立ち上げる。
「こんな所でタブレット広げて何見てんの奏?」
「んー、賢者の森ー」
「現場でゼンモン情報のチェックですかー」
私はゼンモンまとめサイトの『賢者の森』をチェックしていた。
このサイトは『ドリアードT』さんという方が管理人をしている、日本のゼンモンのあらゆる情報を網羅するゼンモンWikiだ。
ルールとして実名を出さない事と、顔写真を出さない事があるが、分かる人間には分かるイニシャルトークで各校のゼンモンの情報が共有されていたりする。
まぁ私の事もバッチリのっているんだけど、本人から削除依頼があった場合はちゃんと対応もしてくれる、私の場合はイニシャルを出すのも禁止して貰っているが、一校の精霊眼持ちエルフの話はこのサイトでも有名になってしまっている。
まぁ今更隠そうにも一校の生徒に聞いたら一発の話だからねぇ・・・つくづく幼い頃の自分の軽率さに嫌気がさすわね。
サイトではムーンインパクトに対する考察や、竜脈源や竜脈のスポット情報、少ない魔力でスキルや魔術を発動するコツなどまで共有していたりするので大変有用性が高いサイトとなっている。
尤も誰でも全ての情報が閲覧出来る訳では無く、会員登録しないと踏み込んだ情報を見る事は出来ない。
秘匿性の高い情報を閲覧するには管理人の信頼を得て会員のランクを上げなくてはならないうえ、こちらの個人情報も開示しなくてはならないので、高ランク会員になるのはいささかハードルが高い。
しかし管理人の『ドリアードT』さんの前世は世界樹の森で本当に賢者と呼ばれていたドリアードだと自称していて、直接の面識はまだ無いけれどその知見の豊かさから私は本物だと踏んでいて、非常に頼りになる情報源になっている。
何を隠そうムーンインパクト=大魔術説もこのサイトから着想を得ているのだ。
かなり優秀な頭脳の持ち主らしく、恐らく私達と同世代のハズだが既に何か国もの外国語を習得していて、海外のゼンモンコミュニティにも参加して情報を集めているのだ、この辺も非常にありがたいわよね。
アメリア人のミシェル(仮)さんから聞いた話の裏を取ろうと、行方不明になっているゼンモン持ちの情報は無いかとメールで尋ねてみたけど、本当に3名のゼンモン持ちの女子生徒が現在行方不明になってると教えてくれた。
今度こちらが得た情報や、央華連邦に私が狙われている事も相談してみようかと思いつつ本気で悩んでいる所なのよね。
さすがにこれだけ込み入った話をメールだけで済ませるのも躊躇われるから、今度ドリアードTさんに直接会えないかと尋ねてみようかな?
と、話が逸れてしまった。
私が他校の出場選手情報をチェックすると亮人の対抗馬は二校の短距離走の有力選手H・Iさんらしい、しかしゼンモンを秘匿しているらしく、周辺の人間の憶測だけが飛び交っていて詳細は不明だった。
人にあまり知られたくないゼンモン持ちって事なのかしら?
まぁレアスキル持ちだったりしたら、厄介事が多くなる事は私も経験則で学んでいる、自分のゼンモンや能力を人に吹聴したり隠匿したりは人それぞれだ。
見学している私達から距離のある場所でやっている競技の選手はやっぱりゼンモンが見て取れなかったけど、観客席の近くで行われている垂直飛び高跳びでだけは、なんとか選手のゼンモンを見て取る事が出来た。
今まで見たところ選手の大半はゼンモン持ちだ。
「あ、美津紀の同類がいるわよ」
「選手の中にハルピュイアがいるの?」
「うん、今から飛ぶ選手、あそこの女の子」
「小野寺さんの前世ハルピュイアって空を飛べたんだよね?やっぱり飛ぶ事に拘りがあって高跳びやってるのかな?」
「うーん、確かに人間の身体で一番の不満点は翼が無い事ね、ただ足でジャンプしたってその場で地面に引かれて落ちるだけなんだから虚しいだけだとおもうのだけど」
「ハルピュイアの種族的技能でジャンプに適してるのって何があるのかしら」
「飛び立つ時に重力の影響を和らげる技能使ってたわ、後は加速する用のスキルも使えるかな?」
他には兎人や一くんと同じ風の森の妖精族のゼンモン持ちなんかが居た。
珍しい所ではグリフォンまでいたのにはビックリしたわ。一応一くんには知らせておいたけど、あまり興味無さそうだった。何だろう彼は前世の知り合いとかに興味無いのかしら?
競技を観戦していると、各所でゼンモン持ちが学年の記録を更新する様が見られていた。ゼンモン持ちとそうで無い一般の選手との差が記録として残酷なまでに表れている。
公式大会で無くて幸いと言うべきか、ここでの記録が公式記録になったらスポーツの業界に激震が走ってしまうだろう・・非公式の地方競技会で半信半疑の噂が広がった後に、公式大会でそれが事実だったと明かされる流れが想像される。
『例えば世間では君達を同じ『人間』だと認めるか否かと言った議論も起こり得るだろう』
件のアメリア人ミシェル(仮)さんの言葉が脳をよぎる、確かにこれだけの格差を生み出すゼンモン能力は、人類を二種類に分断しかねない危険性まで孕んでいるかも知れない。持つ者に傲慢を、持たざる者に嫉妬や敵意を抱かせるに十分だ。
ふと観客席を見渡すと、生徒や父母らしき人々に交じって、家族を装っているけどとても週末に家族を応援しに来たと風とは思えない大人の姿がちらほらと混じっている気がする。
ゼンモン持ちの能力を観測しに来たどこかの国の諜報員なのだろうかと不安になる。
そんな事を気にしながら私が周辺を警戒していると玲さんに話しかけられた。
「奏さん、周りが気になる?」
「そりゃあ気になります、ひょっとしたら央華国の諜報員が居るかもと思うと気が気じゃ無いですし」
「え?さっき言ってた敵って奴等?本当にいるの??」
「玲ちゃんわかるの?」
問われた玲さんは、瞑想するかのように目をつむって意識を集中している。
「前からいるアメリアの人達以外に、異なった組織が3,4つは諜報員を派遣してきてるね」
「奏ちゃんをマークしてる組織はありそう?」
「アメリア以外にも1つ、奏さんを強く意識している組織がある・・」
「央華国とやらかな?」
相変わらず玲さんの探査能力は滅茶苦茶便利だ。
以前玲さんにどうしてそんな事がわかるのかと問うと、気を体内に巡らせて内功を練って五感を全て研ぎ澄まし、伊織くんの柔の気を分けてもらってそれを薄く広げて感じれば何となく誰がどちらに意識を向けているかは掴めると返され、その上で私の動きに生体が反応を示している人物を見分ければいいという滅茶苦茶な事を言われた。
前世の私なら探知系の魔術を構築して精霊の助けを受ければ似たような事も出来ると思うけど。これを魔術や技能の補助も無しに感覚だけで成していると言うのだから恐ろしい。正直人間の脳の処理限界を超えていると思う。
因みに伊織くんの場合、同じことをしようとすると範囲がかなり狭くなるらしい、出来るだけで大したものと言うか異常なのだけど。
「奏が狙われているの?なんで?」
「私の精霊眼を狙っている組織がいるみたいなのよ」
「奏お姉ちゃんを狙うとか許せないんですけど、姉さん誰がそいつらなのかを教えてください!僕がやっちゃいますよ!」
「んー、さすがに今の段階だと軽率に動かない方がいいよね」
「アメリア側の主張を全て鵜呑みにするのも危険だけど、この人たちはかなり剣呑な気配を感じる」
「剣呑?」
「恐らく目的の為なら暴力的手段も辞さないと思うわ」
玲さんの言葉に背筋が薄ら寒くなるような恐怖を感じた。
「じゃあ本当に奏ちゃんを拉致する気って事?」
「あと、そいつらの仲間に私達位の子供も何人か混じってる」
「て事は・・」
「央華連邦のゼンモン持ちが襲撃に加わりそうだと?」
私の問いに黙ってうなずく玲さん、相手の本気度合を示しているようで、私は改めて自分の危うい立場を思い知らされた。
「僕達も出来るだけ奏ちゃんの側を離れない方が良さそうだね」
「奏っちが一番危ないのは夜寝てる時じゃ無いかなぁ?」
「それもそうか」
「僕はしばらく砂金さんのお家に泊めて貰おうと思います」
一くんが一緒に寝泊まりしてくれると言うのはこの状況では大変有難い、彼が従弟で良かった。
「亮人くんが聞いたら自分も泊めろと言い出しそうだね」
「一くんは親戚だからまだいいけど、亮人は他人なんだから無理よ無理」
「亮人くんは断られたら勝手に境内で野宿かキャンプでもしそうだね」
「アイツならその位やりそうな気がするわ・・気持ちは有難いけど勘弁して・・・」
「神社に張ってる結界に反応があったら例え深夜でもグループメッセで知らせてね」
「うん、ありがとう」
「私達が到着するまでは一くんに任せるわね」
「任せといてください!!」
何事も無いのが一番望ましいのだけど、玲さんの態度を見るにその期待は薄そうね。
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それとなく周囲を気にしながら見学を続けていると、ようやく短距離走の競技が始まる様子だ。
亮人と一緒に例の眼鏡男子がフィールドに姿を現せた。
途端に眼鏡男子に向かって黄色い声援があがる、恐らく二校の女生徒達なのだろう、大した人気だ事。
まぁあの涼し気な美男子っぷりを見ればそれもむべなるかな。一緒になって美津紀まで声援を送っているのはどうかと思うが、どうやら眼鏡男子くんの名前は『いそずみはやお』と言うらしい、どんな漢字書くのかしら?
いそずみ君と亮人はお互いに顔見知りのようで、軽く会話している様子が見て取れた。
なにやら亮人がこちらを指さすと、いそずみ君がそれに合わせてこちらに視線をよこした。
あらやだ、目が合っちゃった。
あれ、本格的にこっちを見詰めてないかなこれ?玲さんを見てる訳でも無さそうな気がする。
思いもよらなかった事態に、なんだかちょっと胸が弾んじゃう。
と、そのまま眼鏡男子がこちらに向かって来るような素振りを見せたが、亮人がその腕を掴んで止め、スタートラインまで引っ張っていく、他の選手達も揃ってスタートラインに並び、いよいよ二人が走る番が来たみたい。
「亮人っち頑張れー」
「亮人くーん」
私達の集団でちゃんと亮人に声援を送っているのは伊織くんと羽依ちゃんだけだ、薄情だこと(笑)。羽依ちゃんはカメラを向けているけどこの距離じゃちゃんと録画は出来ないんじゃないかしら?
まぁ、お義理ではあるけど、一応名目上とは言えアイツの応援に来た身としては、形だけでも応援してあげる必要はあるかしら。
「負けるな亮人ー」
とても相手に届くとも思えない声量で声をかけたけど、あいつはどんだけ地獄耳してるのかこちらに視線を向けてサムズアップを返す、うぅどうせ聞こえなくても良いやと思って微妙な声量だった事が逆に恥ずかしく感じる。
パァン
スタートの合図と共に凄い勢いでダッシュする亮人、反応の良さで既に頭一つ以上集団から抜けだしている。さすがに15日の人狼だけあって、身体能力はピークに達しているわね。
そのまま独走かと思われたけど、後方集団から一人抜けだし亮人を追い上げて来る影が。やはりと言うか例の眼鏡男子、『いそずみはやお』君だ。
後半に入り凄まじい伸びを見せるいそずみ君は、見る見る亮人との距離を詰めていく。私は思わず彼の美しい走りに見惚れてしまう。
彼の走りっぷりを、以前どこかで見たような・・・
亮人も迫るいそずみ君に対抗して必死に粘り、二人はもつれるようにゴールへ駆け込んだ。
ここからではどちらが勝ったのか全く見当が付かない。
「玲さん、今どちらが勝ったか分かります?」
「んー同着に見えたかな」
「そうなんだ?!凄い接戦だったね」
どうやら正式に同着と判定されたみたい、亮人と彼が握手をしている。
と、いそずみ君がこちらを向いたと思ったら、そのままこちらに向かって一直線に走ってくる。
観客席に向かって来るいそずみ君を見て歓声をあげていた二校の女子達だが、彼がこちらに向かっている事を察すると、途端にその歓声は喜びから悲鳴へと変じていた。
えっ、なんで!?こっちに・・・・
彼の姿が近付くにつれて私は気付いてしまった、彼の『ゼンモン』の正体に。
「フィルレーン!!」
近寄って来た彼が叫ぶ、私の名を、前世の呼び名を。
「本当に・・・本当にユヴァルニースなの?」
「あぁそうだ!やっと会えた私の姫君!」
そう言うと彼は私を抱きしめた、一瞬戸惑ったけど、嬉しさのあまり思わず私も彼を抱き返す。
前世で私の相棒だった一角獣、ユヴァルニースとの再会に私は胸がいっぱいになってしまう。
「「「ギャーーーーーー!!」」」
抱きしめ合う私達を見て悲鳴じみていた二校女子達の声がとうとう絶叫へと変じているけどこの時の私の耳には全く入ってこなかった。
「「ちょっ!!待てコラァッ!!!!」」
と、一くんと、すっ飛んできた亮人が私たちを無理やりに引き剝がす。
「何いきなり奏お姉ちゃんに抱き着いてるんですかアナタ何なんです!!」
「てめぇざけんな五十棲!!人の女に手ぇ出してるんじゃねー!!!」
「っ!!誰がアンタの女よっ!!ふざけた事言わないで!!!」
「フィルレーン、この無粋な男共は君の何なんだい?」
「ヤバイッ楽しくなって来ました!まさかの奏ちゃんに新たな恋人候補の登場だよ!!これはスクープすぎる!!」
人の感動の再開シーンを安っぽいスキャンダル扱いしないで欲しいのだけど。
この事態を収拾するのって、私の役割なのかな・・・?
「凄いね奏ちゃんモテモテだ」
「大丈夫伊織には私が居るから」
「わっ私も!」
控え目ながら珍しく栫さんまでが伊織くんにアピールしている、何だろう私のこの逆ハーレムっぷりに中てられでもしたのだろうか。自分で言っててちょっとウンザリして来たんだけど、これ本当にモテてると表現して良い状況なのだろうか・・・?
でもまぁ先程までの央華国絡みの話題で落ち込み気味だった気分が上向きになったのは確かだった。
あぁ・・伊織くんの言ってたモテモテってそっちの意味まで含んでたのか・・・ますます嬉しくないわね・・・
新キャラが本格的に登場です。
またブックマークして頂けました、ありがとうございます!とても嬉しく励みになります!!
ここまで来ておいて今更ですが、2章にあたる砂金神社攻防戦は奏ちゃんがかなり中心的な役目を負っております。
既にお気づきの方もいらっしゃるかも知れませんが、奏ちゃんはかなり乙女ゲーのヒロインっぽいポジションのキャラクターです、腐女子なのに。
じわじわと書き溜めた分が消化されてゆく・・・生産スピードを上げねば、ストックが切れたら更新スピードが落ちてしまう・・・
ここまで当作品をお読みいただきありがとうございます!
この作品を読んで少しでも
『楽しい』『続きが気になる』『この伏線ちゃんと回収されるの?』
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