4.形勢逆転、少年の無双。
幸いなことに、相手の動きは――鈍い。
安藤さんが避けられなかった理由は分からないけれど、ボク程度の攻撃が当たるのだから、ここはこのまま突っ切るべきだ。
渾身の力でバットを振るい、目の前の岩の魔物を粉砕する。
どうやら、この魔物は自己修復能力のようなものがあるらしい。
「だったら、どうすれば――あ、これか!」
ボクは飛んでくる石礫を避けながら、あることに気づく。
岩の欠片はすべて、特定の場所に集結する。よく見ればそこに、赤い宝石だろうか――大きなルビーのようなものがあった。
もしかしたら、生き物でいうところの細胞の核なのかもしれない。
「物は試しだ! いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!」
即座にそう判断して、輝きめがけてバットを振るった。
直撃。すると、まばゆい輝きを放って、岩の魔物は四散した。
「安藤さん、大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ……!」
そこに至ってようやく、安藤さんの安全を確保できる。
声をかけると彼は驚いた表情で、こう言った。
「間宮くん。キミは、いったい……?」
「え、それってどういう意味です?」
つい、キョトンとしてしまう。
これくらいなら、安藤さんもできそうだし。
だが、そんなことを考えている間にも、戦況は変化していた。
「数が、増えてますね」
「くそ……! どうして、こんな!」
尻餅をついた時に、足を挫いたらしい。
安藤さんが顔をしかめつつ、立ち上がりそう言った。
「俺のことは置いていけ、間宮くん……! キミの足手まといにはなりたくない」
「なにを言ってるんですか!? 一緒に生き残るんです! 諦めないで!!」
どうにも弱気になっているらしい。
彼にそう言っても、静かに首を左右に振られるだけだった。だとしたら、どうするべきなのか。ボクは前方に現れた岩の魔物を数えて、頷いた。
二人が生き残るには、もうこれしかない。
「な、なにを……!?」
ボクは安藤さんを守るように、立ちふさがった。
◆◇◆
ソウタは目の前に立ったリンを見て、驚愕する。
いいや。今さらこの少年の異常性に驚くべきではないのかもしれなかった。なぜなら、彼は人間離れした動きをもってして、岩の魔物を打倒したのだから。
それでも、あまりにも無茶だった。
「嘘だろ、こんな数に!?」
声をかけるより先に、リンは駆けだす。
岩の魔物――――ゴーレムの数、おおよそ十体。
ソウタの目には、何が起きているのか、捉えることはできなかった。
「いったい、間宮くんは――」
――何者、なんだ。
そんな言葉を、彼は呑み込んだ。
口にしてはいけない気がした。少なくとも、命の恩人に対しては。
「すごい。すご、すぎる……!?」
瞬く間に、ゴーレムは崩れ落ちていく。
一体、また一体と、その数は着実に減少していった。
最初にソウタの中に生まれたのは恐怖。だが、やがてリンに対する気持ちは変化していく。そう、恐怖の気持ちから――畏敬の念へと。
「ふぅ。終わった、かな?」
少年は額の汗を拭って、ソウタの方へと振り返った。
そして、ホッとしたように笑って言うのだ。
「大丈夫ですか、安藤さん?」
ソウタはそれを見て、ある種の感動を覚える。
これこそが、正体不明の魔物に対抗せし救世主、その誕生の瞬間だった。