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3.窮地。








「間宮くん、赤城高校なのか! 俺もそこに通ってたんだよ!」

「あ、そうなんですか?」

「柔道部強いだろ? 俺の時は全国ベスト8までいってな!」

「柔道部……。た、たしかに強いですね!」


 うわー、苦手な同級生がたくさんのところだー。

 ボクは偶然にも高校のOBだった安藤さんと談笑しつつ、道を歩いていた。学生時代を思い出したのか、彼から先ほどまでの怯えた様子は見られない。


「間宮くんは、何部なんだい?」

「ボ、ボクは――帰宅部、です」


 恥を呑み込んで言うと、きょとんとした後に安藤さんは笑った。


「大丈夫だよ。赤城はスポーツ推薦が有名だけど、一定数いたからな!」

「あ、あはは……!」


 そして、なぜか励まされる。

 たしかに赤城は、スポーツが有名な男子校だ。

 ボクはそこまで頭が良いわけでもなかったから、そこを受験したんだけど。とりあえずは、忘れよう。いまは、お互いに人を探しているのだから。


「そういえば、娘さんはどんな子なんですか?」

「あぁ、うちの娘か? とても可愛いぞ。週に一回は告白されるからな!」

「へぇ~! そんなこと、リアルで起こるんですね!」


 となると、サナみたいな女の子、なのだろうか。

 彼女もなかなかに容姿が整っていて、最初に見たときはびっくりした。そういえば、安藤さんの娘さんが通う高校と、サナの通う高校は同じらしい。

 どれだけ、顔面偏差値の高い学校なんだ……?


 と、そんな関係のない話をしていた時だった。

 奴は、突然に姿を現す。


「見つけられたら、紹介してやってもいい。もっとも、俺は簡単には――」

「!? ――安藤さん、静かに!」

「な……!?」


 ボクの制止に、完全に魔物の存在を忘れていた彼は息をのむ。

 そして、身を屈めながらボクと同じ方向を見た。

 そこにいたのは――。


「あれが、安藤さんの言ってた?」

「あぁ、そうだ。デカい岩の塊、それが動きやがるんだ」


 高さ二メートルはあるだろう、大岩だった。

 手足の生えたそれが、ゆっくりとだが動いている。


「間宮くん、油断するなよ? アイツ、あの図体で意外と素早いからな」

「そうなんですか? そうは、見えないけど……」


 だけど、ボクよりも確実に運動のできる安藤さんがそう言うのだ。

 きっと標的を発見したら、目の色を変えるタイプなのだろう。ボクはぐっとバットを握りしめて、深呼吸を繰り返した。

 次いで息を殺し、気配が消えるのを待つ。

 でも、なにか違和感があった。


「…………?」

「行った、ようだな。間宮くん、もう――」

「違います、安藤さん!! もう一体、後ろから!!」

「なにっ!?」


 そして気づく。

 あの岩石の魔物が、一体だけではないことに。

 ボクは即座に叫んだ。音は後方から。それを聞いた安藤さんは、悲鳴に近い声を上げながら前方へと駆けた。ボクも彼について行く。

 すると、その直後に――。



「くっ!?」



 轟音が鳴り響く。

 コンクリートが叩き割られたその先に、もう一体の魔物がいた。


「大丈夫か、間宮くん!」

「大丈夫です!」


 ボクと安藤さんは声を掛け合って、互いの無事を確認する。

 そして、魔物との距離を測りながら体勢を整えた。


「逃げるぞ! こんなバケモノ、相手にしていられない!」

「…………いや、無理ですよ。安藤さん」

「どういう、ことだ?」

「道を、塞がれました」

「なにっ!?」


 こちらの言葉に、彼は後方を見る。

 すると、そこには先ほど立ち去った魔物が戻ってきていた。一本道だったために、最悪の状況に追い込まれてしまう。

 どうすればいいか、ボクは必死に思考を巡らせる。

 その時だった。



「間宮くん。俺が隙を作るから、キミは逃げなさい」

「え……。安藤さん!?」



 彼が静かな声色で、そう告げたのは。

 そして、こちらが答えるより先に安藤さんは――。


「いまだ、走れ!!」


 前方の魔物に、躍りかかった。

 その結果、魔物の注意は安藤さん一人に絞られる。



「子供を守るのが、大人の役割だからな! キミは生きるんだ!!」



 彼はそう叫んだ。

 それを聞いてボクは――。


「くっそ……!!」



 一気に、魔物の脇を駆け抜けたのだ。



◆◇◆



 リンが駆け抜けたのを確認して、ソウタはホッと息をつく。


「ふっ……! 最近の子供にしては、聞き分けがよくて助かったな」


 そして、自分の置かれた状況を確認しながら笑った。

 子供を守るのが大人の役割なら、自分が生きてきた意味はここにある。ソウタはそう考えて、腹を括ったのだ。

 しかし、この窮地を切り抜ける手段は思いつかない。

 つまりは、詰みだった。


「さぁ、せめて時間だけでも稼いでやる!」


 それでも、できる限りをしなければならない。

 そう思って彼は、魔物を挑発した。すると敵もそれに呼応するように動き――。


「ふっ……」


 ソウタは笑う。

 まったく、目で追えない魔物の一撃。

 それを真正面から受け止めようとした。その瞬間だ。




「だああああああああああああああああああああああああああああっ!!」




 少年の、絶叫が木霊したのは。


「な!? 間宮くん!!」


 間違いない。

 魔物の後方から思い切り攻撃を加え、あまつさえ破壊して見せたのは――。



「大丈夫ですか!? 安藤さん!!」



 間宮リンに、他ならなかった。


 


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