1.不自然な朝。
「なんだろう。今日はやけに静かな朝だなぁ……?」
ボクはアパートを出て、街を歩く。
ひとまず高校を目指すのだが、どういうわけか人とすれ違わない。いったいどうしたというのだろうか、車も通ってないし、田舎とはいえ閑散としすぎている。
そういえば、今朝は準備が忙しくてニュースを見てなかった。
「なにか、あったのかな? もしかして災害? それで、避難?」
いやいやいや。
それだとしたら、ボク自身が無事なはずがない。ということは、そういった類ではない。でも、そうだとしたら何事だというのだろう?
「……まぁ、いっか。とりあえず、学校に行こう」
首を傾げるが、答えは出てこなかった。
考えても仕方ない。だったら、遅刻しないように急ぐべきだった。
そいうわけで、ボクは早足だったのをさらに速く。駆け足で移動を開始した。
「きゃああああああああああああああああああああああああああっ!!」
その時だった。
学校の反対側から、女の子の大きな悲鳴が聞こえたのは。
「え、あ……! ど、どうしよう!」
瞬間、色々なことが頭の中を駆け巡った。
このままでは遅刻するとか、そもそも行っても助けになるのか、とか。でも、少しの時間立ち止まってから、ボクは思い切って方向転換した。
「でも、ここで無視したら本当の意気地なしだ!」
ボクはいじめられっ子だが、意気地なしにはなりたくない。
その一心で、声のした方へ駆けたのだった。
◆◇◆
「こ、こないで……!」
少女は震えていた。
目の前に現れた一体のバケモノに、恐怖していた。
それほど大きな相手ではない。しかし、腰辺りまであるサイズの芋虫など、見たことがなかった。一人の少女が相手にするには、無理だといえる。
「だ、だれか……!」
避難勧告が出てから、その途中で少女は引き返したのだ。
自宅に残してきた愛犬をたすけるために。しかし、その選択は大きな間違いだったと、この時になって後悔した。
両親の制止を振り払って。
少女は、ここで死んでしまうのだと、そう思った。
バケモノが奇声を上げる。
そして、いよいよ少女に躍りかかろうとした。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
その時だった。
「え……?」
誰かが叫びながら、バケモノを吹き飛ばしたのは。
思わず閉じていた目を開く少女の、その前に立っていたのは。
「大丈夫!? ――というか、あの芋虫なに!?」
自分で倒しておきながら、その存在に目を白黒させる少年。
あまりにも可愛らしい、女の子と見間違うような、少年だった。
「う、うしろ!」
「まだいるの!? えい! くらえ!!」
彼は少女の言葉に、即座に反応してもう一体のバケモノに蹴りを食らわせる。
大人でも太刀打ちできなかったその芋虫は、断末魔を上げて絶命した。
少女は唖然としながら、自分を助けた少年を見る。
「ふぅ、なんなんだ? これ……」
少年は汗を拭いながら、首を傾げた。
そして、ふと気づいたように彼女へ手を差し出す。
「大丈夫? けがは、ないかな」
なんてことない、と。
そう思わせるような笑みを浮かべて。