2.少年はただ、無自覚に。
「世界中に、さっきみたいなバケモノが!?」
「う、うん。魔物、って呼んでる人もいたんだけど」
ボクは助けた少女――サナと、彼女の家を目指して歩いていた。
その理由というのは、この子の家にはもう一匹の家族が残されていると聞いたから。サナは避難しようと言ったが、一度聞いては無視できなかった。
そんなわけで、道中では魔物に見つからないよう気を付けながら話を聞く。
分かったのは昨晩の遅くに、世界中に魔物が湧き出てきたこと。
それだけだった。
「それで、こんなに街が静かなのか」
ぼそりと呟き、納得する。
細かいことまでは分からないが、とりあえず現状は把握できた。
「ね、ねぇ。本当に、いいの?」
「え? なにが?」
「このまま、私の家に行ってもいいのかなって。もしかしたらケガをするかもしれないし、それに……」
振り返ると、そこには心配そうなサナの顔。
栗色をした肩までの髪に、円らな黒の瞳。顔立ちは幼いけど、見て分かったのは着ている制服が隣町の高校のそれだ、ということ。
きっと、年のほどはそれほど変わらない。
だとすれば、男であるボクがしっかりしなければ……!
「大丈夫だよ」
「え?」
「サナのことは、ボクが絶対に守るから! それに――」
小さなその手を取り、ボクは最大限の笑みを浮かべる。
そして、こう告げた。
「リク、だっけ。サナの大切な家族、助けてあげないとね!」
「間宮くん……」
するとサナは、一瞬だけポカンとしてから。
何やら顔を真っ赤にしてうつむいてしまうのだった。
「………………?」
いったい、どうしたのだろう。
彼女の挙動の意味は理解できなかったけど、とりあえず納得はしたらしい。
そのことを確認してから、ボクは改めて視線を前へと向けた。十字路に差し掛かり、見晴らしは悪くない。これなら、どこから魔物がきても対処可能だ。でも、それは裏を返せば……。
「なにか、隠れるものが欲しいな」
そうだった。
こちらの動きも、丸分かりということ。
だけど、そんな都合の良いものはないわけで。
「サナ、走れる?」
「う、うん!」
選択したのは、強行突破。
とりあえず遮蔽物のあるところまで。
そこまでたどり着ければサナ曰く、彼女の家は目と鼻の先だ。
「行くよ!」
だから、思い切って飛び出した。
すると意外にも問題なく、通り抜けることに成功する。だが――。
「アレは!?」
「……リク!」
次に視界に飛び込んできたのは、一匹のチワワが魔物に囲まれる光景だった。
サナが悲鳴に近い声を上げる。
「そっか、アレがリク……」
ボクは物陰から、その様子を確認した。
魔物は三体。先ほどの芋虫のようなそれではなく、ヘドロのような姿かたちをしていた。思わず目を瞑ってしまうような臭い。
息を止めて、考えた。
「どうする……?」
ここにサナを残して、リクを助けに行くか。
しかし、そうするとサナが無防備になってしまう。
それにさっきと異なり、素手で対処はできそうになかった。そうなってくると武器を使って、かつ迅速に対応する必要がある。
「なにか、ないか……。ん? コレは――」
そう考えた時だった。
ボクは、道の端に転がったあるものを拾う。
「よし、一か八かだ」
ボクは息を殺し、拾ったものを構えた。
といっても、それは本当に大したものではなくて。
「簡単には、壊れないでよ!」
一本の、ビニール傘。
それを手に、ボクは駆けだした。
◆◇◆
「間宮くん!?」
サナが叫ぶより先、少年は駆けだした。
そして、あっという間に魔物へと接敵し……。
「すごい……!」
また、だった。
大人たちがバットや刃物で対抗しても倒せなかった魔物を、リンはいとも容易く、しかもビニール傘一本で倒していく。
それこそ、空気を払うかのように簡単に。
ヘドロの魔物に傘を突き刺し、それを開いた。
――ギィィィィィィィィィィ!
すると、魔物はそんな声を上げて四散する。
本当になんてことないように、少年は数秒でその場を制圧した。
「大丈夫かい、リク?」
そして、ゆっくりと屈んでチワワを抱きかかえる。
サナの方を見て笑う。少女は、そんな彼をじっと見つめていた。




