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第11話

お話は一旦完結です。

第11話


約束の時間に下水路に向かうと既にジャドソンたち4人は集まっていた。



「よし、来たな。じゃあ、下水路の探索を始めるが何かあるか?」


そういえば、気になる事があったので俺はジャドソンに訊ねる。


「万が一、ナニかあったら誰かギルドに報告に行くのか?」


「その時にはセスに任せようと思う。足場の悪い場所でもコイツなら素早く抜けられるからな。」


「わかった。あと、撤退の判断は誰が?」


続けて聴くとケリーが馬鹿にしたように鼻で笑う。


「いまから逃げる話なんて冒険者とは思えない臆病者ね!所詮は学園上がりって事かしら?」


イチイチ馬鹿に関わるのも面倒なので俺はケリーを無視してジャドソンに改めて訊ねる。


「それで、撤退の判断は?」


ケリーが何か言おうとするがジャドソンが遮って俺の問いに答えた。


「俺だ。だが、お前はお前の判断で撤退して構わん。お互い命を預け合えるほど知ってるわけじゃねぇからな。」



「わかった。共に行動はするがそれだけという事だな。」


「そういう事だ。さて、そろそろ行かねぇとな。ほら、ケリーもいい加減にして行くぞ。」


そう言ってジャドソンたちは下水路の門を開けて入っていく。

門を開けた時にムワッとした何とも言えない臭いがして口に酸っぱいものがこみ上げて来た俺は少し出遅れて後に続いた。


以前は感じなかったのに、何故だろう。と疑問を感じるもののどうしようもない。


なるべく臭いを嗅がないように鼻を手で覆いながら下水路を進む。


ジャドソンたちは慣れているのか戦闘音すら立てず進んでいる。聞こえる音は微かな足音と時折、壁掛け松明に火を灯す音くらいだ。


しばらく進んでいると不意にジャドソンたちが歩みを止めた。


何かあったのか、と思っているとセスが口を開いた。


「おい、ここ本当に下水路か?さっきからネズミ1匹出ないぜ?」


「何よセス、そんな事で足を止めさせたの?ネズミなんて出ない方が良いじゃない。というか、ネズミより臭いの方が気にならない?さっきから徐々に腐った臭いが強くなってる気がするんだけど?」


「お前なぁ。」


とセスがケリーに言い返そうとした時、ズンと重たい音が下水路に響いた。


一体何が?


口を開こうとした俺にジャドソンがジェスチャーで黙れと指示してくる。


そこから俺たちは明かりを消して音のする方へゆっくり静かに近付いていく。


音に近付くにつれ、徐々に背筋に悪寒を感じ逃げた方が良いと本能が警鐘を鳴らすが俺以外は誰も感じて居ないらしい。

逃げ出したくて仕方がないが、せめてナニが居るのか確かめてからで無くては、と自分に喝を入れてジャドソンたちに付いていく。



そうして不安を抑えながらも俺たちはとうとう音の発生源に辿り着いた。

少し開けた場所に居たそれは明らかにこの世のものではないおぞましい化け物だった。


その化け物は地獄に堕ちた人間たちを捏ねて丸めたような姿をしており、アンデッドを潰しながら飛び跳ねている。目の錯覚かアンデッドを潰す度に大きくなっているように感じる。



そして、最初は化け物に気を取られて気付かなかったが、傍らに日本人っぽい顔立ちの少女が嬉しそうに化け物を見守っている事に気付いた。


念の為、俺は自分の顔に幻影の魔法を掛けてこちらの世界らしい顔を作る。


と、そこでジャドソンが来た道を戻るようハンドサインを出す。


良い判断だ。


俺たちはそっとその場を離れようとして、


ーガチャンッ


ケリーが杖を取り落とした。


些細な音だが、下水路では響く。


「あら?エサからやって来るなんて良い心掛けね。」


少女が言うと、化け物はゆっくりとこちらへ向かって来る。


咄嗟にジャドソンが叫ぶ。


「セス、行け!ケリー!ボサッとしてんな死ぬぞ!とっととあの化け物に聖属性魔法叩き込め!」


ハッとしたようにケリーは杖を拾って立ち上がり呪文を唱え始め、ディランは即座に炎の障壁を展開し、相手の視界を遮る。


セスはその隙に乗じて戦闘から離脱し、来た道へと走り去って行った。


セスの離脱後すぐに炎の障壁越しに何かが投げ込まれた。

直感的に俺は叫び、その何かから顔を逸らす。


「目を閉じろ!」


直後、眩い閃光が下水路を照らした。

フラッシュバンだ。

みんな忠告に従ってくれたのか効いていないようだが、ディランの集中が途切れたせいか障壁は消えていた。



少女は悠々と先端にナイフが付いたマスケット銃らしきものを構えてジャドソンを狙う。

俺は咄嗟にジャドソンに向かって叫ぶ。


「ジャドソン!あの筒は遠距離攻撃武器だ!直線上に立つな!」


間一髪でジャドソンは初撃を躱し、一気に距離を詰めに走る。



そして、ケリーは詠唱を終え、化け物に聖属性魔法を叩き込んでいた。


「ホーリーフレイム!」


しかし、化け物は少し縮んだだけで倒れる様子も効いている様子もない。


すると、ジャドソンから距離を取りつつ戦っていた少女はケタケタと笑いながら挑発する。


「無駄よ!そのレギオンちゃんはお姉様の特製なのよ?聖属性魔法なんかでどうにか出来るわけ無いじゃない!」


悔しそうに唇を噛むケリーに代わり、今度はディランが化け物に向かって魔法を放つ。


「フレイムアロー!」


しかし、やはりケリーの時と同じように少し縮んだだけで効いている様子はなく、レギオンは再び飛び跳ねてアンデッドたちを潰し始めた。


「何をやっても無駄よ!レギオンちゃんは最強無敵なんだから!王国は諦めて滅んで帝国のものになっちゃいなさい!」


少女が再び挑発するが、その隙にジャドソンが距離を詰めて斬り掛かった。


「おいおい、嬢ちゃん甘すぎだぜ。」


終わりだな。と思ったが少女はニヤリと笑いマスケット銃の先端に付いたナイフで剣を弾く。


遠距離に拘ってみせたのはブラフか!


そして、その隙を狙っていたかのようにレギオンがジャドソンに攻撃を仕掛ける。



咄嗟に後方へと回避したようだが、かなりギリギリだったらしくジャドソンの剣先はレギオンに叩き折られていた。


体勢を立て直そうとするジャドソンを無視して、少女はケリーを狙う。

ケリーはジャドソンほどの身体能力は無さそうだ、そう判断した俺は慌ててM17を構えて少女の銃を撃つ。


「ラッキーストライク!」


M17から発射された弾丸は正確に少女の持つマスケット銃に当たり照準をずらす事に成功した。


すると少女は舌打ちした後面白そうにこちらを見る。


「ふぅん?さっきから上手くいかないと思ってたけど、そんなの持ってたから"知ってた"のね。アナタその銃どこで手に入れたのかしら?」


やはりコイツは異世界人か。と思いつつ慎重に答える。


「行商からの流れ物だよ。この服もそいつから買ったもんでね。」


「ふぅん?ま、そんな顔の日本人居ないものね。アナタたちを片付けたらそれを作った奴を探さなきゃ。」


どうやら誤魔化せたらしい。そして、ふと教会での話を思い出した。


コイツの言う姉様があの婆さんだとしたら?

確かにあの婆さんはレギオンの亜種を作ったと言っていた。たくさんの宿主が作れると。


魔法を受けて縮んだこと、そして、アンデッドを潰して大きくなったように感じたこと。

それらも含めて考えるとつまり、


「レギオンとは悪霊の集合体か?」


ふと考えていた事が口をついて出た。


「何故それを知っている!!!」


そう叫びながら少女が怒り狂って俺の方へと突っ込んで来る。

慌てて少女に向かって発砲するがまったく当たらない。

俺はM17から短剣へと持ち替えて少女の持つ銃を受け流す。


「ケリー!ディラン!その化け物は悪霊の集合体だ!消滅するまでぶっ放せ!!」


そう俺が叫ぶと2人とも再び呪文を唱え始めた。


少女はその声を聞いてケリーたちの元へ向かおうとするが、俺が行かせない。


「リーチの差がキツいところだが、化け物が派手な格好の婆さん同様に成仏するまでは俺に付き合って貰おうか。」


「貴様ァアアア!!!」


槍兵と短剣で戦うのは、かなり不利な戦いだが相手は怒り狂って行動が読み易くなっており、ギリギリではあるが捌くことは出来る。

それに、今のやり取りのうちにジャドソンも立ち上がって隙を窺っている。


俺はなんとかジャドソンと協力しながら少女の攻撃を捌き続けた。


そして、しばらく経ってとうとうレギオンと周囲のアンデッドたちは消滅した。


「降参しろ。お前の負けだ。今回の件について説明して貰おう。」


俺は少女に問い掛けるが、少女は歪んだ笑みを浮かべながら口を開く。


「あんたら王国が苦しむのはこれからよ!お姉様、いま行きます。」


そうして、少女は糸の切れた人形のように倒れた。


「服毒自殺か。帝国ではこんな若ぇ奴がプロの工作員として使われてんのかよ。」


ジャドソンは少女の死亡を確認しながら忌々しげに呟く。



「そんな事より帰りましょうよ。臭いも汚れもキツいし、もう私もディランも魔力すっからかんよ!」


余計な事を考え込みそうになったがケリーの声で我に返った俺は幻影の魔法を解き、全員にドライクリーンの魔法を掛ける。

更にジャドソンからの助言で戦闘のあった場所にも同じ魔法を掛けた後、俺たちは少女の死体を担いで下水路を出た。




後日、ギルドで聞いたところによると、少女の所持品は帝国の者である事を示す徽章がポケットに入っているだけだったそうだ。


これにより王国は帝国に対して賠償請求を行う事にしたらしいが、俺の仕事は終わりだ。


ギルドから報酬に金貨1500枚を受け取った後、俺は街を出た。


「(何とかなりましたねー。)」


街を出てしばらく歩いているとチッチキが声を掛けて来た。


「(あぁ、だが、1人だったらヤバかったな。)」


「(そうだ!全然ライフリングで命中率上がって無かったじゃないですか!)」


「(うるせぇー!人には得意不得意があんの!)」


「(それにしても、帝国って何でこんな事したんですかね。)」


「(帝国とは限らないけどな。)」


「(え?)」


そう、わざわざ異世界人を使い、その異世界人も負けを悟れば自殺するくらいのプロの工作員だった。だから徹底すれば身元は割れなかった筈だ。しかし、彼女は帝国を示す徽章のみを所持していた。

明らかに怪しいが国の事をどうこうするのは俺の役割じゃない。

誰の描いた絵か知らんが戦争に加担する気はない。


「(あ、そういえば次はどこへ向かうんですか?)」


「(メリディアス領へ。)」


「(告白するんですねー。)」


「(違うわ!アホ!今後世の中が乱れる事を見越して助力に向かうんだよ!)」


「(コーネリア様の騎士ですもんね!)」


「(ただのパトロンと冒険者だ!)」


そんなくだらない事を言い合いながら、俺とチッチキは徒歩でメリディアス領を目指すのだった。

なろうを初めて使ったので拙い部分も多いかと思いますが読んで下さりありがとうございました!

また次回お会いしましょう

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