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俺たち!悪の風紀委員!  作者: みお
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プロローグ

 冗談じゃない。

 今日、何度そう呟いただろうか。数える気力もない。

 楓は雲ひとつない晴天を仰ぎ、その眩しさに眉をひそめた。

「現実逃避している場合じゃないでしょ、楓≪かえで≫チャン」

 モデルのように整ったかおだちの男が、視界に映る。

 瞬間、現実に引き戻された。

「どうすんの、これ」

 目の前で苦笑する美青年の名は木村拓真≪きむらたくま≫。楓の、まあいわゆる兄貴分だ。

 彼の視線の先には、地に額をこすりつけるようにして頭を下げる金髪頭が一つ。

 深い紺色の学ランに身を包んでいる――一年生だ。

「いや、無理に決まってますよ」

 楓は吐き捨てるように言った。

「弟分にしてくれだなんて」

「--あっ、右腕でもかまいませんよ兄貴」

 金髪頭が顔をあげ、にかっと歯をむき出して笑う。

「なんだ、その兄貴ってえのは。貴様に兄と呼ばれる覚えはない」

 楓がひと睨みすると金髪はあわてて頭を下げた。

「楓チャン、その言い草まるで娘の結婚に反対する頑固オヤジだよ」

 拓真さんが呆れたように笑った。

「貴方はいいんですか、反対しなくても。一応俺の兄貴分ですよね」

「今はあれでも楓チャンがこれから指導すればいいじゃない」

「いや、風紀委員に金髪はまずいでしょう」

「ま、俺も似たようなもんでしょ」

 拓真さんは色素の薄い髪をつまみ、ばちりと目くばせをした。こういうキザなしぐさも似合ってしまうのはある意味すごい。

 楓は言葉につまり、拓真さんから目をそむけ、土下座している金髪の前にしゃがみこんだ。

「金髪頭、なぜ昨日髪の色を直せといったのに直さない」

「……これはオレのトレードマークなんス」

「阿呆、生徒手帳読んでないのか。規則に高校生らしい髪型をするように書いてあるだろう。金髪なんて言語道断だ」

「いやっス」

「はあ!?」

 先輩に口答えとはなんと生意気な新入生であろうか。上下関係に厳しい白帝学院の生徒にあるまじきことだ。

 思わずカッとなってにぎりこぶしを振り上げかけたが、先輩の前であったのでなんとか抑えた。

「でも、それじゃあ楓チャンの右腕にはなれないよ。君が楓チャンの弟分になれば否応が無しに風紀委員になってもらわないと」

「えっ」

 新入生が驚いた顔で楓たちを見上げる。

「お前、もしかして外部からの編入生か? 何も知らないんだな」

 楓はこめかみに流れた汗をハンカチで拭った。

「風紀委員の役職はな、いわゆる世襲制というか委員会のメンバーから決めるんだよ。つまり委員長ならその弟分が役職を引き継ぐって暗黙のルールがあるんだ」

「ちなみに楓チャンは俺の弟分。つまり君が望みどおり楓チャンの弟分になるのなら、やがては風紀委員長になるという重荷を背負わないといけないわけ」

 拓真さんは楓の肩に手をまわし、小さく笑った。

「君にその覚悟はあるのかな?」

「あってもなくても御断りだがな」

 楓は拓真さんの腕を振りほどき、踵を返した。

「楓チャンってば冷たーい」

 拓真さんがからかい混じりに肩を揺らして笑う。

「上級生の教えに従わないような弟分はいりません」

「――だってさ、どうする?」

 背後の空気が変わった。

 拓真さんと新入生の間に漂う妙な緊張感が、背を向けている楓にも伝わった。

「まだそのつまらない意地を通すつもり?」

 そう問いかける拓真さんの声はやわらかいが、有無を言わせぬ凄みがあった。

「まあ、風紀委員長としては君が楓チャンの弟分になってくれたほうが嬉しいけどね」

「なっ、何を仰るんですか」

 思いもよらぬ発言に、楓は思わず振り向いてしまった。

「だって、俺が卒業するまでに楓チャンが弟分を見つけてくれないと先が不安だし」

「そりゃ、そうですけど」

「それにこの機会を逃したら、一生候補見つからない気がするし。楓チャン愛想悪いし」

「あの、喧嘩売ってます?」

「楓チャンに憧れる後輩なんて絶滅危惧種もいいところなんだからさ、この機会に――」

「――わかりました!」

 新入生が突然大声で拓真さんの言葉を遮った。

「な……っ!」

 楓は咄嗟に両手で耳を塞ぎ、新入生を見下ろした。

「オレ、諦めませんから」

 強い意志を秘めたまっすぐな瞳で見据えられ、楓は思わず息をのんだ。

 猫のように丸く大きな瞳だ。それがより新入生の意志の強さを感じさせた。

「髪も、貴方も両方諦めませんから」

「はあ?」

「オレ、あきらめの悪さだけは天下一級なんスよ」

呆気にとられて金魚さながらに口をぱくぱくするしかない楓に対し、新入生は不敵な笑みを浮かべた。

「やはり面白いね、君」

 拓真さんもまた、片眉をあげてニヒルに笑った。

「じゃあまた空き時間に会いに来ますね」

 新入生は腕の時計を確認すると、茫然と立ち尽くす楓に背を向けて歩き出した。

「手ごわそうだよ、彼」

 拓真さんがぽん、と楓の肩に手を置いた。

「……貴方が焚きつけたんでしょうが」

 楓は大きく嘆息し、校舎に向けて歩き出した。片手には長財布と学ランとお揃いの真紅の外套。

「おかげで学食食べそこないましたよ」

 ……確かに金髪の彼は手ごわい一年生かもしれない。

 上下関係に厳しいこの学院で、生徒会長(……とその子分を)を昼休みの体育館裏に呼び出したのだから。







 



 

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