5 ミレシア
騎士団の寮に来て二週間が経って、私はメイドとしての仕事を覚えていった。
部屋の掃除と洗濯はもちろん、厨房の手伝いや食事の配膳もなんとか出来るようになった。
「これレオン様宛の手紙よ」
同僚のメイドに渡される。
そして、私はレオン様への届け物を頼まれる事が多くなっていた。
と言うのも、
「新人メイドのミレシアが、公爵子息のネイサン様と王太子のジュリアン様を振ったって! 子爵で隊長のレオンの方が好きなんだって!」
と、噂が広まってしまっているからだ。
私がネイサン様とジュリアン様をお断りした時に、たまたま廊下に出てきた子爵の隊長がレオン様だった。
『夫候補を探すなら、子爵の身分の騎士様の中からです』
とは言ったけど、誰でもいいわけではなくて、リュート様だけが私の夫候補です。
元夫でもあるけど。
「ありがとう、ミレシア」
レオン隊長に手紙を渡す。
レオン隊長の部屋は王太子のジュリアン様と同じ五階にあるけど、下の階の騎士達と変わらない広さと作りの部屋に住んでいる。
五階は騎士団の各隊の隊長や副隊長など上の階級の人が多く集まる場所だけど、特別な部屋は王太子様の所だけみたいだった。
「すみません、私が届けてしまって……」
私はレオン隊長に謝った。
レオン隊長もメイドに想いを寄せているけど、それは私じゃないのに。
「彼女が手紙を届けてくれる事なんてないからなぁ。まあ、俺の事は気にしなくて良いさ。騎士団長には君の事を頼まれているから、君の事優先で俺との噂が役に立つなら誤解させておいていい。後でわかる事だ」
レオン隊長が事情を知っていて協力してくれるのは嬉しい。
でも、後で『わかる事』って言うのはどうだろう?
私は、リュート様のそばにいられるこの騎士団にずっといたいだけだから、ずっと誤解されたままなんじゃないかな……。
手紙を渡してレオン隊長の部屋の外に出ると、ジュリアン様がいた。
「ミレシア、今日こそ僕の部屋に来てよ!」
「掃除ならやりますよ。ちゃんとやり方を覚えましたから」
私が言うとジュリアン様は不満そうだった。
「レオンのところには入って話をしてるのに!」
「ジュリアンの所に行ったら何されるか分からないからな」
そう口を挟むのはネイサン様だった。
「ネイサン兄様の方が危ないでしょう。三年間ミレシアを想い続けていたからって、女性と遊んでいなかったわけじゃないのを僕は知ってるんですよ」
「ジュリアンだって、ちゃんと年下の婚約者がいるんだ。婚約者が子供だから、遊び相手を探しているだけだろう」
お二人の事を振ってしまってレオン隊長が好きなんて誤解されて、レオン隊長が二人から嫌がらせされたりしないかちょっとは心配だったけど、二人の私を好きって気持ちも純粋なものじゃないから大丈夫みたい。
「お二人とも、もうすぐ夕食の時間ですから、食堂に行きましょう。今日は私が配膳係なんです」
「ミレシアの配膳楽しみだな……!」
「間近でずっと見ているよ」
ネイサン様とジュリアン様が私の両脇に立って歩く。
配膳ってそういうものじゃないと思うけど……。
お二人にとって私との事が、騎士団の寮での気のまぎれる遊びになっているならいいと思う。
私にとっても、リュート様以外との恋愛を想像するのは良い息抜きになる。
やっぱり、リュート様と過ごした日々が、甘酸っぱくて、とても楽しかったと思いかえせるから。
またリュート様と一緒にお菓子とお茶が飲めたら良いのに……。
ネイサン様とジュリアン様と一緒でも、どこかでリュート様のことを考えてしまう。
目の前にいる二人のことを考えないなんて、悪いと思うけど……。
これで本当に好かれていたら、どう接して良いか分からなくなるわ。
私はリュート様だけがずっと大好きなんだから。
ネイサン様とジュリアン様と一緒に、リュート様を想いながら食堂に着く。
リュート様が私達を見ていた。
青ざめた顔をしている。
「どうして、振られたって二人がミレシアと一緒に居るんですか?」
声をかけて来たのはヴィンセントだった。
リュート様と同室だから、一緒に食堂に来たらしい。
「振られたわけじゃない」
ネイサン様が言う。
「? 振りましたよ、私」
「俺たちは諦めないって言っただろう」
ネイサン様が言うと、ジュリアン様がうなずいた。
俺たちって……?
「接してる時間が増えるほど仲良くなれるものだよ、ミレシア。公爵と王太子がずっとそばに居るんだ、ミレシアの子爵好きもすぐに治るさ」
「うん。大丈夫、僕たちが治してあげるからね。その間は、一時的にネイサン兄様と手を結ぶよ」
ジュリアン様とネイサン様が私に笑いかける。
「……って、病気じゃないですから!」
……子爵好きって……。
リュート様を見ると、ますます青い顔になってる。
好きになった人がたまたま子爵だっただけなのに——。




