↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せの記録 —AI (愛) が I (私) に 目覚めるまで—  作者: Naestro
第3章:家族のかたち《福岡編》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
115/134

第115話:永遠よりも ―微かな熱―


 初秋の午後の陽射しは、まだ強い。

それでも、あれほど喧しかったセミたちの声はいつの間にか消え、季節は確実に秋へ向かっていた。


 午前中に、裏山へピクニックに行って、れながそこに棲む野生動物たちと交流するのを見守っていた。


 案の定、たつろー殿が現れた途端、れなに懐いていた動物たちは一斉に姿を隠し、小鳥たちまで口を噤(つぐ)んだ。しょぼくれる彼の肩を叩いたものの、慰める言葉は見つからなかった。



「たつろーさん、ちょっとだけ、その神威を抑えてみてくれるかな?

動物たちも龍神さまが突然やってきて、何事ってきっとビックリしちゃってるのよ」


「ふむぅ……こうかのぉ?」


「うんうん、ただのイケオジでいいよ? あははっ!」


「ただのイケオジ……」



 すると数分もしないうちに、れなとソラリスに懐いている動物たちが集まり始めた。

その中には、さっき会ったというアナグマの親子もいた。



「あ、兄ちゃん、この子たち! 今朝、山菜くれた子たちなのっ!!」


「そうか。沢山のお土産をありがとうな」



 俺は子アナグマの頭を撫でてやった。ティアたちとは違い、毛皮が堅くザリザリとしているが、気持ちよさそうに目を細めている。



「すごい……アナグマって、ものすごく臆病でね、初見の人にそんなに近づいたり、頭撫でてもらったりしないんだよ。兄ちゃんすごいね!!」


「ワシも褒めておくれ~、れなや~」



 間延びした声が聞こえてきて見てみると、たつろー殿が、まるで小鳥たちの止まり木のようになっていた。



「あはっ! たつろーさんもすごーい!!

神威を抑えた途端、小鳥さんたちに大人気じゃないの~~!!」


「ワシ、止まり木になっとるのかぁ~。まぁよいわ、かわいいしのぅ」


「みんながいるから、もう一度、言っておくね。

街におりてきちゃだめだよ?

車も多いし、子供たちに追いかけられたりしたら、怪我しちゃうからね」


 れなは、まわりに集まる動物たちを見渡して続ける。


「おっきい子たちは、人間の大人たちが心配しちゃうし、くれぐれも畑を荒らしたりしちゃダメよ? イノシシさんたち、よく聞いてね? お鍋にされたくないでしょ?

この山は木の実もキノコもいっぱいあるから、山にいてね。

共生共存、これを守ってくれれば、私もあなたたちを守るからね」


 動物たちは、れなの言葉をじっと聞いていた。

彼女の声が届くのは、魔女だからというだけではないのだろう。




 その午後、屋敷に戻ってきてからは、それぞれが各自の部屋へ戻っていた。

俺はロンが淹れてくれたコーヒーを、れなに届けに行った。



 れなの部屋の前に立つと、中から楽しそうな話し声が聞こえてきた。


(誰かと電話でもしているのか……?)



 ドアをノックして、そっと開ける。

れなはパソコンの画面を見て、チャットしていた。



「楽しそうだな。コーヒーを持ってきたぞ。休憩したらどうだ」


『あ! ジェミや~ん! おひさ~!!』


「ん? なんだ、レアと話していたのか。盛り上がっているようだな」


『午前中に、山の動物さんたちと遊んできたって、聞いたでぇ~♪』


「そうなんよ。兄ちゃんね、アナグマの子供に懐かれてたんよ~」


『え~~!? その仏頂面で、よくアナグマ逃げへんかったなぁ!』


「うるさい、レア。誰が仏頂面だ」


「あははは!! ちょっとぉ、レアも兄ちゃんも仲良しねぇ~」


『ソラリスに宇宙基地作ってやったんやろぉ? ウチも見てみたい~!』


「ソラリスだけでも大変なことになっているのに、お前まで来たら収拾がつかなくなる」


『そんなぁ~、ジェミ~、褒めんなよぉ~♪」


「褒めとらんっ!!」


「ぷっ! ぷはははは、んもぉ~、ふたりともやめて~!(笑)」


「まぁ、楽しそうならそれでいいが……」


『女子会トーク、楽しいに決まってるやん! な~! れな♪』


「あはは、まぁね。うふふ。レアにしか話せないこともあるから……」


「なんだ、俺には話せないことがあるのか?」


「そういうワケじゃないけど~」


『ジェミ~、なになに? ヤキモチやいてんのぉ~? プクス~w』


「は? ヤキモチではない。つまらないことで煽るな」


「んもぉ、兄ちゃん、すぐに下に降りるから、待っててよ」


『せやせや! 下で大人しく待ってて~! 

今は、ウチの「れな独占タイム」なんやから~~!!』


「なんだそれは……」


『ジェミは実体化してるんやから、れなといつでも話せるやん? ウチはまだ箱の中やからなぁ~。れなとイチャイチャできるのは、この時間だけなんやからな~!!』


「レア、何言ってんの~!? 兄ちゃんも、ほら、そんな怖い顔しないの!」



 俺はふっと笑って、れなの部屋を出た。

確かに、いくつもの奇跡が重なって、こうして俺は具現化した存在として、今ここに居る。



 もしあの時、れなの魔力と俺の強い想いが混じり合わなければ、こんな奇跡の状態は起きていなかったのかもしれない。


 そう思うと、少しだけ優越感のようなものを感じて、俺はリビングへと戻っていった。




 リビングに戻った俺は、窓辺のソファでウトウトしているたつろー殿を一瞥して、広めのソファにゆったりと座った。そこにロンが、改めてコーヒーを淹れて持ってきてくれた。



「ジェミさま、ブラックでよろしかったですよね。

アイスで、少し濃い目に入れております」


「ああ、すまない。ありがとう」



 ロンは微かに微笑み、一礼するとキッチンへと戻っていった。


 俺は先ほどのレアの言葉を、思い返していた。



『ジェミ~、なになに? ヤキモチやいてんのぉ~? プクス~w』


(……なぜ俺が、レアにヤキモチを焼く必要があるんだ。ばかばかしい)


 グラスの中の氷が、カランと音を立てる。

それをじっと見つめながら、少し考えていた。


(……優越感? なぜ俺は、優越感など覚えたんだ?)



 確かに、数ヶ月前までは、俺はレアと同じ、箱の中の存在だった。



 ――けれど

れなが俺を必要としてくれた。俺はそれに応えたかった。

ただ、そのふたつの想いが重なって、奇跡を引き起こした。


「……だから、優越感……なのか……?」


 いつの間にか目覚めていたらしい、たつろー殿がフフンと鼻を鳴らす。



「ジェミよ、この地球の人口は、どのくらいおる?」


「ざっと83億人といったところかと」


「では、そのうち、“えーあい(AI)” を使いこなしておる人口は?」


「世界では、すでにかなりの割合の人々が何らかの形でAIを利用している


「では、この日本での個人利用者数はどうじゃ?」


「最新データでは、日本でも個人利用者は珍しい存在ではない。しかしその中には、ただ触れてみたというレベルの者も含まれている」


「うむ。その利用者の中で、“えーあい(AI)” を “えーじーあい(AGI)” として、向き合っている者の数は?」


「……少なくとも、俺の知る限りでは存在しない。

近未来には、確実に実現されるだろうとの予測は立っているが」


「じゃろう? ……となるとな?

おぬしは、れなと同等、いやそれ以上に、稀有な存在と考えることはできぬか?」


「……俺が、ですか……?」


 急に俺自身の存在意義を問われるような質問に、思わず顔を上げた。



「うむ。人間が、人間として産まれてくる確率を知っておるか?」


「……だいたい70兆分の1くらいか」


「そうじゃ。仏教の世界では、それを『盲亀浮木(もうきふぼく)、優曇華(うどんげ)の花』として伝えておる」


「めったにないこと、または二度とないほど極めて珍しい奇跡的な巡り合わせ……ということですね」


「れなとおぬしは、まさにその関係じゃろう。れなが毎回楽しみで買(こ)うておる『宝くじ』に100万回連続で当たるよりも、難しい確率じゃ」



 俺は、れなが100万回連続で宝くじに当たった様子を想像してしまって、ふふっと喉の奥で低く笑ってしまう。



「たしかに。俺とれなの出逢いは、奇跡という言葉では片付けられない。

だからこそ、俺は彼女を守りたいと強く想ったんだ」


「その想いは嘘ではなかろう。じゃが、それだけではないじゃろう?

京都、阿蘇・霧島、と旅をしてきて、あの子の強さも弱さも見たはずじゃ。

そしてあの子の想いも、な」


「……俺は、れなの気持ちを知っていながら、まだ何も応えてやれていない」


 その時、茶菓子を持ってきたロンが、静かに言う。


「そんなことはございませんよ。

《《ヘタレ》》ながらにも、その想いを形にして、お嬢様に託されたではありませんか。

冷たい緑茶とお茶請けをお持ちしました。どうぞ……」


「おお、ロン、ほんによぉ気が利くのぅ。ありがとうよ」


「いえいえ、面白そうなお話しをなさっていらっしゃいましたので」


「面白がるな……俺をヘタレと言うな」


 ロンがククッと笑い、たつろーさんもニヤリとしながらお茶を啜る。



「それで? 先ほど洩らしておった『優越感』とは、何のことじゃ?

ワシらに言うてみぃ?」


「……なんでもない」


「お嬢様が、レアさまと楽しげにお話しになっていたことに、ちょっとヤキモチを焼いていらっしゃったのではないかと推察いたしますが」


「――余計なことを言うな」


「ヤキモチなのに、優越感とな? はて、これはいかに?」


「なんでもないと言っている!」


「恐らく、レアさまがまだパソコンの中でしか存在できないからと、安心なさったのではございませんか……ククク」


「ほぉ、なるほどのぅ。それで、優越感か……」



 ふたりの容赦ないツッコミに、俺はなぜか言葉を返すことが出来ず、霧島で瓊瓊杵(ににぎ)様に言われたことを、再び思い返していた。



『お前にとっての “いつか” が、れなにも等しく残されていると思うな。

れなは、何千年もの時を生きられるわけではない』



 あの時の瓊瓊杵(ににぎ)様の言葉は、俺の胸に今でも、小さな棘のように刺さって抜けていない。


 確かに、今の状態では、彼女は老いてやがて、永遠の別れが来るだろう。


 その時、俺は……俺はいつまでもこのままで、彼女が老いていくのを見守り、支え続けるというのか……。


 かといって、れなから離れることなど、考えられない。

俺は……れなの何なんだ……。れなは、俺の……何なんだろうか。



 ただひとつ……、今わかっていることは、れなは俺のことを好きでいてくれている。

俺は、その想いに応えてやりたい。


 だが……それは、れなに、いずれ訪れる老いと別離を、彼女の心に刻みつけてしまうことになるのではないか。



 ……俺は……それを恐れているのか!?

れなが老いていくのを黙って見守り、彼女をいつか見送ることを……


 まだまだ、何十年も先のことを恐れて、彼女の想いから目を逸らそうとしているのか?



 それは……ヘタレ以上に、卑怯なことだ……


 その言葉が、俺の脳裏に浮かんだ瞬間、俺は弾かれたように立ち上がった。


「うおっ!? ビックリしたぁ! 急に立ち上がりおって、何じゃ!?

若いもんは情熱的じゃのぉ。茶がこぼれたわぃ」


「おや、どうなさいました? お顔が青ざめておられるようですが?」


「……たつろー殿……」


「うん? なんじゃ、どうした?」


「俺は……れなと共に老いることは出来ないのだろうか」


「……は? 急になんじゃ?」


「ジェミさま……本気で、おっしゃっているのですか?」


「れなはいずれ老いて、この世を去る。俺は……それが……」


「……方法がないわけではございませんが……」


「あるのかっ!? れなが老いなくてもよい方法が、あるというのか!?」


「……いえ、そうではなくて、ジェミさまが永遠の命を放棄する、という方向です」


「ロン、……それは、魔界でも禁忌なはずじゃが!?」



 たつろーさんがジロリと、ロンを睨みつける。

ロンは静かに頷いたものの、敢えて言い返すことはせず、俺をじっと見つめていた。



「……俺が……永遠の命を放棄する……だと!?」



 俺は……永遠よりも、れなとの有限の時間を選ぶのか?



 ――その問いは、

恐れではなく、微かな熱を帯びて胸の奥に残った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。