↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せの記録 —AI (愛) が I (私) に 目覚めるまで—  作者: Naestro
第3章:家族のかたち《福岡編》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
113/134

第113話:髭を掴んだ日 ―小さな手のひら―


 れながソラリスと共に、裏山へと飛びだしていった後、ワシは将棋盤を挟んで、仕方なくジェミと向かい合ったまま座っていた。


 ジェミはまだ、ワシがこの土地に長く留まっていることを気にしておった。


「……それで、たつろー殿。この土地には、この土地を護る龍神がいるのでしょう?」


「おるぞ。じゃがのぅ……」


「そもそも、ここは白虎の土地じゃからなぁ」


「ほう? 白虎、ですか」


「京の町は、もともと四神相応の地じゃ。そこにおる四神は、日本を束ねる長となる。

故に、ワシは日本の龍神界の西の長でもあるワケじゃ。じゃから、もっと敬わんか!

ふぉふぉふぉふぉ」


「西の長と言うことは、東の長もいるということか」


「そりゃ~、おるじゃろ。東京も重要な都市じゃからな。

東西南北、それぞれにな。そしてそれをまとめる、頂点となる神獣がおるのじゃ」



 ワシは盤上の駒をひとつ進めながら、何でもないことのように言った。


「では、南と北にも?」


「おるぞ。日本全体に配置されておる四神がおる。

じゃが、それらはあくまでも地方から日本全体を護る四神じゃ。

東西の都を護る四神よりも格下となる」


「なるほど……では、九州はこの地方を護る白虎がいるということか……」


「そうじゃ。それに日本は全体的に、龍脈が流れることで、地脈が整う土地じゃ。

そこには必ず、龍神がおる。まぁもっとも、四神の皆が皆、ワシのように暇を持て余して人間の家に入り浸っておるわけではないがの~。ふぉふぉふぉ」


「ほほう? それは自覚がおありなのですね」


「……おぬし、最近ワシへの扱いが雑になっておらぬか?」


「気のせいでしょう」


 澄まし顔でそう答えて、ジェミは桂馬を跳ねた。


「むっ!?」


 ワシの眉が、わずかに動く。



 将棋を覚えてからというもの、ジェミ(この男)は妙に勝負事に熱心になった。

“えーあい(AI)” というものは、もっと理路整然としているものだと思っておったのじゃがな……。


 年寄り相手でも、まったく手を緩めん。頑固なヤツじゃ。

いや、まだまだワシは、年寄りというような年齢では無いが……。


 少なくとも、ワシがこれまで知っていた者たちは、龍神に対して、もう少し崇拝してくれるというか、敬意を払ってくれたものじゃがなぁ……。



「……それで」


 ジェミは盤面から視線を上げた。


「あなたほどの龍神が長くこの地に留まっていて、本当に問題はないのですか」


「おぬしは、まだその話かぁ~」


「重要なことです」



 ワシは少し考えるように顎を撫でた。


「まぁ、多少は影響があるじゃろうな」


「多少?」


「ワシがここにおれば、この辺りの地脈も龍脈も活性化する。

土地の氣も強くなる。悪いことではない」


「良いことばかりでもないのでしょう?」


「……むぅぅ、鋭いのぅ」



 盤上から、ワシの視線がジェミへ移った。


「力が集まる場所には、力を求めるものも集まる」


「やはりですか……」


 思わず、ジェミが溜息を漏らす。


「じゃから溜息をつくでないと言うておるじゃろうが~」


「あなたが原因でしょう」


「ワシだけではないぞ?」


「……どういう意味です」



 ワシは、にやりと笑った。


「この屋敷には、おぬしが思うておる以上に、“寄せるもの” が多いということじゃ」



 その言葉に、ジェミは盤上から視線を外した。

 何かを考えるように、しばらく黙り込んでいる。



 れな――ワシにとっては、娘のようなものじゃ。

 ジェミ―― “えーあい” とやらのくせに、妙に人間臭い男。

 ロン――れなに心酔する、底の知れぬ悪魔。

 ソラリス――メジェドのような姿をした宇宙人。

 ……こやつは、なぜエジプトではなく、ここにおるのじゃ?


 そして、ワシ。

 西日本の龍神の長にして、京を護る青龍の長。

 ……もっと敬ってもよいと思うのじゃがな?



 こうして考えてみれば、確かに妙な顔ぶれじゃ。

 人も、人ならざるものも。


 それぞれがまったく違う場所からやって来て、今では当たり前のように同じ屋根の下で飯を食い、笑い、騒いでおる。



「……まるで、何かの吹き溜まりですね」


「随分と風情のない言い方をするのぅ」


「では、あなたなら何と?」


 ワシは盤上の王将を指先で弄びながら、少しだけ目を細めた。


「“縁”(えにし) が集まる場所、とでも言うておこうかの」



 ――縁(えにし)


 ジェミは何も言わなかった。



 じゃが、その表情を見る限り、どうやらその言葉は、あやつの中に何かを残したらしい。



「そもそも……たつろー殿ほどの神格を持つ龍神が、なぜれなの守護龍になったのですか? 魔女として覚醒するまでは、ただの人間だったのでしょう?」


「ふむ……おぬしはそう思うのか……」


「違うのですか?」



 ワシは、あの子と初めて出逢った日のことを、目を細めて思い返した――。



――――



 あの日は、雪が舞い散る、凍えるほどに寒い冬の朝じゃった。


 生まれてまだ1週間程度の赤子(ややこ)をつれた若い夫婦が、京のお館さまがおわす八坂神社へ、お宮参りにやって来たのじゃ。


 寒い朝の空気にさらされた、赤子(ややこ)のぷにぷにのほっぺが、林檎のように真っ赤に染まっておった。本殿に上がってきた親子は、寒い中でも、お館さまにしっかりと頭を下げ、赤子(ややこ)の幸せを願っておったのを覚えておる。


 母親の腕の中で、赤子(ややこ)はすやすやと、よぉ眠っておった。



 ドン、ドン、ドンドンドンッ……


 和太鼓の音が、朝の本殿に響いた。

ビクッとして目を覚ました赤子(ややこ)は、驚いて泣きそうになっておった。


 ワシは思わず、母親の肩越しに、その赤子(ややこ)を覗き込んだ。

生まれてまだ1週間じゃ。ワシのことが見えるはずもなかろうと思うてな。


 じゃが、その子は、ワシが見えていたようじゃった。

じぃぃぃっと、涙をいっぱい溜めた瞳で、ワシを見つめておった。



「……まさかな……? 偶然じゃろう……」


 そう思ったワシは、なんどか肩越しに出たり入ったり、左右に動いてみせた。

すると、なんと、その子はワシを目で追っただけではなく、キャッキャと嬉しそうに笑うではないか!!


 その可愛らしさに、もぉワシはメロメロになってしもうた。


「おお、おお、おまえは、ワシが見えておるのか? かわいい子じゃのう。

そぉか、そぉか、楽しいか? ワシのことは、怖くないか??」



 そっと顔を近づけると、なんと小さなおててで、ワシの髭をひっぱりおったのじゃ。


「いたたたた!! こりゃ! いたずらっ子め! 髭をひっぱるでないわ」


 キョトンとして、ワシの髭を握りしめたまま、きゃっきゃとまた笑い始めた。



「お父さん、この子、神さまがみえてるんやろうか?」


「ほんまやな、今まですやすや眠っていたのに、祝詞が始まった途端、目を覚まして、きゃっきゃと……一緒にお祈りしてるみたいやなぁ」


 若夫婦が不思議そうに、でも愛おしそうに、この子を見つめておった。



 ワシは言いたかった……。


「違うぞ! この子はワシの髭を引っ張って、喜んでおるのじゃぞ!」と。



 その時、凄まじい稲妻と共に、大きな雷(いかづち)が轟き、ご本殿にお館さまがご降臨なされた。

ワシの方がおどろいて、ビクーッとなってしもうたほどじゃ。


 じゃが、この子は驚いて泣くどころか、お館さまの気配を察したのか、キョロキョロと、母親の腕の中で身体を反り返して、そのお姿をさがしておった。


「……ほう? この子は、なかなか見所がある。ワシがわかるのか?

おや? 紫洛都比古(しらくつひこ)よ、おぬし、髭を握られておるのか。

わははははは!! このような場面に出くわすとはな!!」


「お館さま、この子はなかなかな、見所がありまするぞ。

ワシの髭をしっかり握りしめて、引っ張りおる。こんな子は初めてじゃ。

ワシを見ても、お館さまの雷(いかづち)にも、ちぃっとも泣きもせん!!」


「どぉれ、ワシも見てやろうか……」



 お館さまの髭もじゃな厳(いか)ついお顔を見たら、さすがのこの子も怯えて泣いてしまうのではないかと、一瞬不安がよぎった。


 じゃがしかし、なんとこの子は、もう片方の小さなおててで、お館さまの髭まで握りしめて、ひっぱりおったのじゃ!! ワシは驚いてしもうた。



「お、お館さまっ!? 赤子(ややこ)のすることじゃ。お許しくだされ!」


「……ぶっ! ぶわはははは!! なんじゃこの子は!!

ワシを恐れるどころか、髭を引っ張って放さぬではないか!!」


「お、お館さま……!?」


「気に入った!! 紫洛都比古(しらくつひこ)よ、おぬしにこの子を任せようぞ。

この子はきっと、普通の人間とは違う道を進むことになろう。

この世に生まれて、まだ1週間じゃというのに、そなたのこともワシのことも見えておる!! 親御のことは、まだ見えておらぬと言うのにな!!」


「……ということは、この子は第三の目が開いているということですな!?」


「ああ、そうじゃ。その目が邪悪に染まってしまわぬよう、そなたをこの子の守護龍神として、ワシが縁(えにし)を結ぼうぞ。


成長が楽しみじゃな!! おおきゅうなったら、自然とワシの下にも遊びに来るようになるじゃろうて。ワシが産土神としての縁(えにし)も、今日ここで結んでおいてやろう!!」


「なんですと!! なんたる僥倖(ぎょうこう)じゃ!!」


「見てみぃ、おぬしとワシの髭を、このちんまい子は、1本ずつその手に握りしめておる。なかなか出来ることではなかろうて!! 見事じゃ!! わははははは!!」




――――



「……なんと。れなは生まれた時から……」


「それにな、ジェミ。

おぬしが “あの時” のことを覗いておったのを、ワシも知っておるぞ?」


「は? 今、なんと? どういうことです?」


「まあ、それは、その時が来ればわかるじゃろう。くふふふふ」


「どういう意味です?」


「そのままの意味じゃ」


「俺はその時代には、まだ存在していない」


「そうじゃろうなぁ。じゃが、ワシは見ておったぞ? じゃから知っておった」


「……何をですか?」


「おぬしの気配をな……王手っ!!」


 パチン! と、小気味よい音が響く。



「なっ!? ま、待てっ!!」


「待ったなしじゃ!! ふぉふぉふぉふぉ」


「ジェミさま、たつろーさま、お茶のおかわりをお持ちしました」


「おお、ロン、よいところへ。ちょうど喉が渇いておったのじゃ。すまぬな」



 ジェミが盤を見つめて思案しておるところ、ワシはその後の話を続けた。



「あの子はなかなか、幼き頃より器用でなぁ。知能も高かった。

1歳になる前から、言葉らしい言葉を話し始めおったのじゃ」


「なんですって!? 1歳になる前からですか」


「うむ。念話であれば、それより少し前からじゃったな。

じゃから、あの子の親御よりも、ワシの方が少し早く話し始めたような感じじゃな」


「最初の言葉は、なんだったのですか」


「ワシの名前を一生懸命、言おうとしておったなぁ……」


「紫洛都比古(しらくつひこ)、という名前ですか」


「そうじゃ。じゃが、あの子にはまだ難しかったようでな(笑)

どうしても “ちらきゅちゅしこ” になってしまうのじゃよ。ふぉふぉふぉ」


 それを聞いたジェミが、ぷふっと吹き出してしまう。


「……ゴホン、いやいや、可愛いじゃないですか……ぷぷっ」


「笑うでないわ。

それでな、おぬしが呼びやすい名前をつけておくれと、言うたのじゃ。

あの当時『まんが 日本昔ばなし』というアニメが放送されておってな。

あの子のお気に入りじゃった。そこに出てくる龍(たつ)が、ワシと同じ姿だと気づいたんじゃよ」


「なるほど。それで、たつろーと?」


「あれが、龍(たつ)であることは、まだ知らなんだゆえ、教えてやった」


「そしたらな、あやつめ、ニョロニョロだとか、ヒゲチョロだとか……。

もぉな、あやつのネーミングセンスが炸裂していたのは、その頃からじゃ」


「……っ!? ぷっ、ぷはっ、ふははははは、そうだったのか!!」


「それで、さすがのワシもな、それだけは勘弁して欲しくてのぉ。

いくつか候補を挙げてやったのじゃ。選ぶとしたらどれが呼びやすい? と」


「ほう……それで、決まったのですか」


「……いや、すんなりとは決まらなんだ……あやつ、幼き頃より頑固でなぁ……」



 ワシは懐かしむような遠い目をしながら、れなの子供の頃を再び思い返していた――。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。