第35話、エンディング
◆ ◆ ◆
ログオフボタンを押してから二日後。
「あ〜きばさん、最終検査どうでしたか? 」
「えぇ、異常なかったでござるよ」
今わたしは、秋葉さんと携帯電話を通して話をしている。
「でしたら退院ですか? 」
「えぇ、今から自宅に帰るでござる」
「おめでとうございます」
ホラーホラーをプレイ中、私たちは別々の病院に運ばれていた。ただただ眠りについて目覚めないと言う症状で。そしてその間、ゲーム機器を取り外されていたそう。つまり病院に運ばれていたのに、私たちはゲームをしていた事になる。これは一体どう言う事なんだろう?
そして秋葉さん曰く、あのゲーム内にいたプレイヤー全てが私たちと同じように眠りについたまま目覚めなかったそうだ。また私たちと同時期に、みんなが眠りから覚めたらしい。しかもみんなゲーム内の記憶がある状態で。
あの地獄の世界がゲーム世界ではないのならば、夢だったのだろうか? でも夢だとしたならば、みんなが同じ記憶を持っていることがおかしくなる。かく言う私も、スタートからクリア時までの記憶がある。そう、私と秋葉さんは同じ記憶を共有しているのだ。
それからの私は、秋葉さんに内緒で一人で動く事になる。屋敷の者を使って秘密裏に生還者のデータを入手。実際に仮想世界で何人かに会って話を聞いてみたりもした。でもみんな私と秋葉さんと同じくゲームの夢を見ていた事がわかっただけであった。
あとは攻略組の伊藤さんはゲームの後遺症で今も寝たきりで面会謝絶。西園寺さんとマイケルさんは私と一緒で生還者に接触を図って行っているみたい。
そうそう、私の日本での留学生活は終わりを迎えていた。危険な目にあったので、強制的に帰って来るよう言われたのだ。
そうして秋葉さんと離れ離れになってしまったのだけど——秋葉さんは今回を機に完全にゲームは辞めて、私のために海外にある私の実家まで挨拶に来てくれる事になっていた。
ちょっと、ドキドキなんですけど。
◆ ◆ ◆
月日は流れて——
『お兄ちゃん、早くしないと仕事に遅れちゃうよ』
「あぁ、初日から遅刻とか洒落にならないよな」
ここのところ、朝起きたら筋肉痛になっている事が良くある事を不思議に感じている。あと最近小食にもなったよな。
『あっ、ネクタイ曲がってるよ』
玄関にある姿見で全身を確認すると、本当にネクタイが曲がっていた。
しかしどれだけ月日が経っても不思議だよな。頭の中にソラの声が聞こえるのって。しかも夢には毎晩ソラが出てくるわけで、その夢の時の会話をソラもちゃんと覚えているのであって——
『お兄ちゃん、考え事ばかりしてるから玄関の鍵、掛け忘れているよ』
「あぁ、サンキュー」
こんな事を話しても誰も信じないだろうけど、本当に不思議だ。
『私も不思議だよ。こうしてお兄ちゃんと話したり、夢で会ったり出来る事が』
俺の心の声をソラが拾ったようだ。そう、ソラには全てが筒抜けになっていた。その事で一時期混乱状態になってしまったがソラのアドバイスの元、無になる——心を空っぽにする——術を習得する事に成功して解決することになった。
『お兄ちゃん、今日も一緒に頑張ろうね』
「あぁ、それじゃ今から人混みの中に入るから、会話は禁止モードだ。なにかあったらいつものように携帯を耳に当てて話すから、よろしく」
『はーい』
しかしこの時の俺は知らない。俺の心は地獄にいる間に幾つにも分裂してしまっており、短時間でも頻繁に入れ替わりするようになっていた事を。そのため他人からは稀有な目で見られていた。
また職場の人間からの薦めで紹介された医者からソラの声も自身が作り上げたものだと言われ、その模様を録画された動画を見せられる。
嘘だ、これは俺じゃない。裏声でソラの言葉を話すのは俺じゃない!
『そうだよ、お兄ちゃん。ヤブ医者の言葉なんて気にしちゃダメだよ』
「……ソラ」
『私はここにいるよ、だから安心して』
あぁ、そうだ。確かにソラはいる! 俺の中に生きているんだ!
それからの俺は仕事が長続きせず就職しては辞めて、就職しては辞めてを繰り返すようになる。そして最終的には引きこもり、自宅でパソコンと睨めっこする時間が長くなって行く。
そんなソラ以外の他人とは直接やり取りをしなくなったある日、パソコンのファイルの中に隠されるようにして知らない動画が保存されている事に気がつく。
「ソラ、このケバブって名前の動画なんだろう? 」
他のファイルには様々な料理の名前や、気丈や泣き虫と言った感情や状態を示すものがタイトルに付けられていた。
『知らないけど、ロックがかかっているね』
「あぁ」
そこでソラにハッキングしてパスワードを教えて貰おうかなと思うのだが、何かとてつもなく嫌な事を思い出しそうになり思い留まる。
『お兄ちゃん、大丈夫? 』
「……あぁ、もう大丈夫だ」
最近昔の事が思い出せないし、思い出したくない。思い出したらソラがどこかに行ってしまいそうな気がするから。
そしてやたらと眠い。日によっては二、三時間しか起きていない日があるくらいだ。それに寝て起きたら知らない服を着ていたりする事もよくある。
そんな事を考えていると、また眠気が襲ってきたためベットに移動する。
『お兄ちゃん、そろそろ眠る? 』
「少しだけ眠ろうかな」
『わかった、そしたらおやすみだニャ』
「あぁ、おやす——」
心臓がズキリと痛み、眠気が吹き飛ぶ。
今、……ソラが語尾にニャと言わなかったか?
ソラはソラじゃなくて光猫なのでは?
『そんな語尾にニャとか言ってないよ。聞き違いじゃないの? 』
俺の、頭がボーとしていたため俺の聞き間違いだったのか?
頭が混乱して部屋の風景が歪み、時間の流れがおかしくなる。そして気がつくと、いつの間にか眠りについていた。
それから見てしまうようになる、悪夢を。
逃げ惑う人々を弄ぶようにして、自身の手で命を刈り取っていく悪夢を。
皆さん、約十万文字ある本作を最後まで読んで下さりありがとうございます!




