第33話、地獄への扉
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霧を抜けると、俺と秋葉はスタート地点——脱出用の扉を背にする形——で立っていた。
そこは秋葉の話の通り、四方の壁全てに所狭しと液晶テレビが嵌め込まれた正方形の部屋である。また天井と床が光を反射するほどピカピカに磨かれた白色のタイルのうえ、液晶テレビは同じく白色に発光しているため部屋自体はとても明るい。だがその病院の一室のような印象を与える無機質感が逆に不気味でもある。
そして制限時間が設けられているのか、左側の液晶テレビの一つに35分から秒刻みで減っていくカウントダウンが始まっていた。
「あの椅子に座ると、先程言った仕掛けが作動するでござる」
そう、そして部屋の中央には髑髏をモチーフとしたおどろおどろしい黒い椅子が一脚、地面に固定される形で置かれていた。
「ソラ、ソラ」
時間が勿体ない。勿体無い? なにが?
頭に霧がかかって先程考えていた事が思い出せない。まぁ、いいか。
挑戦者の俺は、早速その椅子に座る。すると椅子の正面の下方、床が横にスライドして開き、中から白色で無機質な台座が迫り出してきた。そしてその縦長で長方形の台座の上には、漆黒をベースに面によっては黄金色の太陽や月のイラストが刻まれている手の平サイズの立方体のボックスが浮かんでいた。
「ボックスにはまだ触ってはいけないでござる。今の模様を覚えてから、触れるのでござる」
俺は椅子から身を乗り出すようにして、秋葉に言われたようにボックスの模様を覚えていく。
因みに模様の種類は、雲から顔を覗かせる太陽、闇夜に浮かぶ三日月、天から地へ落ちる稲妻、右から左へ押し寄せる高波とサメ、下から生茂る森林、そして禍々しい形状の門の六つだ。
「『太陽』と『森林』の模様は揃えてしまうと罠が発動するから、気をつけるでござる」
6面の模様を覚えた俺は、ぷかぷか浮かんでいるボックスを手に取る。するとピシッと音を立てルービックキューブのように一面が九個のパーツに分かれる。そしてボックスの内から漏れ出る白色の明かりが、個々のパーツを浮かび上がらせるようにして個々の隙間から発光する中、それぞれが様々な色彩に輝き始める。輝きが最高潮になる中、パーツが一人でに縦や横にスライドするようにして動き、模様がバラバラになった所でボックスが漆黒に戻る。
「ぷあひゃひゃ」
俺はルービックキューブで遊んだ事がある。だから時間をかければ面を揃える事が出来るレベルなのだが、どの模様を選べば正解なのだろうか?
一番安全そうな森林にトラップが発動すると言うのだから、いっそ一番危なそうな禍々しい門にするか?
……くくくく、良いだろう、なんでもかかって来やがれ!
まずは手に持つボックスごと回転させて、9つあるパーツの中央部が禍々しい門になっている面を手前にする。それから模様を揃えるために縦列、横列を回転させていき禍々しい門のパーツを確実に揃えていく。そして1分も掛からずに、一面に禍々しい門の模様が揃った。
すると部屋中の液晶テレビが真紅に染まり、何か黒い幾何学紋様を映し出した。
なんだこの演出は? なにが起こるんだ?
「失敗でござるのか!? 」
失敗だと?
すると椅子から鉄の輪っかが出てきて、俺の両足首、腰、首を椅子に固定させる。
両手で下から首の輪っかを掴み力任せに引くが、びくともしない。これじゃ身動きが取れない!
そこでその状態で地面から飛び出してきた何本ものワイヤーが、左足の爪先から土踏まずにかけてヒュンヒュンと音を立ててグルグルに巻き付いてくる。
……嫌な予感がする。
そこでピンと張ったワイヤーが、足に食い込んできだした。
スニーカーが裂け鋭い痛みが直接足に伝わる中、その強さは段々と強まっていき——
「ぐがっ」
ワイヤーには刃が取り付けられているのか、その鋭さは凄まじくどんどんと俺の足先に食い込んでくる。
そして刃が俺の足先を綺麗に切断するのに、そんなに時間は掛からなかった。そうしてワイヤーが出てきた地面に収納。スライスされた俺の足先の肉片と飛び散った鮮血により床を汚す。
「ぐぎゃぎゃぎゃ」
そしてそして、仕掛けはそれだけではなかった。今度は足元の椅子から飛び出したワイヤーが、あろうことか俺の左足の脛の辺りに巻きつく。
俺の左足が切断される!?
俺は首を左右に振りジタバタもがくが、そんな俺を無視して足に巻き付くワイヤーがどんどんと締まり肉に食い込んでき出した。
あわぎゃぎゃ、ぐっ!
そうしてワイヤーが椅子に収納される中、俺は左足の膝から下を失う。
そこで俺を椅子に固定していた拘束具が、カシャンと音を立て外れマッチポンプである自由が与えられた。
しかしこのままでは、失血多量で死んでしまう。とそこでいつの間に現れたのか知らないが、足元付近に熱された鉄板があるのに気が付く。
用意が良いな。
「学氏、大丈夫でござるか? リタイヤするでござるか? 」
そう言いながら椅子にもたれ掛かる俺の肩に手を伸ばしてくる秋葉。そんな秋葉の手を、俺は乱暴に右手で払いのける。そして脚の切断面を鉄板に押し当てた。すると肉が焼ける音と肉が焼ける匂いが部屋に充満する。
「まだだ、まだだまだだ! 」
秋葉、俺の邪魔をするな!
俺はソラを助けるまで諦めないんだ!
歯を食いしばり、ボックスを憎き敵を見るようにして睨みつける。
そこで台座の上にぷかぷか浮かんでいるボックスに手を伸ばす。
再度パズルに挑戦だ。こうなれば当たりが出るまでとことんやってやる!
そして次に合わせた模様は、闇夜に浮かぶ三日月の模様。すると今度は周りの液晶テレビは真紅に染まる事がなかった。その代わりに真正面に並ぶ液晶テレビの一部が少し前に迫り出した後、綺麗に真ん中から開くように左右へスライドする。そしてその液晶テレビがあった部分の奥には、重く厚そうな漆黒の扉が現れた。その扉の前には、バッテンの形で二本の鎖が張られている。
「やったでござるか!? 」
そう、そして俺にトラップが発動する事もない。やった、やったんだ!
しかしあの二本の鎖が邪魔して、現れた扉は使えそうにない。
さぁ、どうするんだ? これからどうすれば良いんだ!? 早く道を示しやがれ!
あひゃひゃひゃひゃ。




