第32話、僅かな休息
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ここは鳥籠の街の自室。
胸の前に持ってきた両の手のひらを広げたり閉じたりを繰り返し、人間として生きている事を実感する。
人間プレイヤーに戻る事が出来たのは嬉しい事でござる。
……しかし拙者が女の子に、熱い視線を向けられる日が来るとは。
いやはや、やはり照れるでござるな。
「あ~きばさん」
「……なんで、ござるか? 」
「ただ呼んでみただけです」
そうしてベットに腰を下ろす拙者の隣に座るフラン氏が、拙者の胸に顔を埋めたのち至近距離から見上げながらクスクスと微笑む。
しかしゾンビの時も思ったでござるが、フラン氏は鼻筋が高く瞳がパッチリ。それでいて小顔で綺麗な銀髪の持ち主で華奢な感じの女の子なのでござるが——正直拙者には勿体ない女の子でござる。
でも生きてここから脱出するぞ、と言う強い意志を与えてくれる存在でござる。
……それと学氏が心配でござる。ソラ氏が行方不明になった事で精神が不安定になっているようで、よく意味もなくブツブツ独り言や笑い声をあげているのを見かけるでござる。
元はと言えば、拙者が二人を巻き込んでしまったでござる。そう、拙者が元凶なのである。なにか拙者に出来る事は無いのか?
一番はソラ氏を学氏の元へ無事送り届ける事であるけど、どうすれば助けられるか?
……このゲームをクリアすれば奇跡的にソラ氏が戻ってくる、とかが起これば良いのだけれど——
「うぅ~ん」
甘い声に視線を落とせば、いつの間にかフラン氏は寝入っていた。この子もずっと一人で耐えてきたのだろう。
綺麗な銀髪を上から優しく撫でていく。
……必ず、救い出してみせる。
「フラン氏、元気を、そして勇気をありがとうでござる」
それから目覚めたフラン氏や応援してくれる多くのプレイヤーが見送ってくれる中、拙者は攻略組と最後の戦いに出掛けるのであった。
舞台は最終ステージ。
拙者は攻略組でありネットの掲示板で交流があった伊藤氏と佐藤氏、お金持ちで秘めたる力を所持していると言う西園寺氏、海外から来日されているマイケル氏とそして拙者を入れた計5名でステージに挑んでいた。
しかし最終ステージは一人ずつしか挑戦出来ないようで、一人がプレイしている間残りの四人は観戦する状態になっていた。
そして最初に伊藤氏が挑戦して失敗に終わった時点で、拙者達は一度ステージを脱出する事にした。それは伊藤氏が瀕死の状態になったためステージを脱出して破損した部位を復元させる事と、開始直後から始まっていたカウントダウンが残り5分を切ったからである。このカウントダウン、何も説明は無いがゼロになると高確率で良くない事が起こりそうでござる。
そして外へ情報を持ち帰った拙者達の話により、最終ステージには挑戦する一人と失敗した時に肩を貸して脱出の手助けをするもう一人の計2人で挑戦する事になったでござるが。
しかし怪我が回復したものの伊藤氏のあの疲労困憊の姿を見て、誰も参加に名乗りでる者はいなかったでござる。そのため拙者が挑戦に名乗りを上げようとしていると——
皆んなが静まり返り誰かが参加表明の手を上げるのを見ようとキョロキョロ頭を動かす中、一人が手を上げた。そう、参加を表明したのは手を上げている今も、小首を傾げて薄ら笑いを浮かべうわ言を言い続けている学氏であった。
◆ ◆ ◆
「御主人様、秋葉さん達が失敗した時はボク達の番ですか? 」
「そうですね、……ただプレイするのはツカサではなくて私の方ですが」
「えっ、それはどうしてですか? 」
「最終ステージ、あれは女の子がプレイして良いステージではないからです。と言うか、見せるのも憚れる残酷なステージですが」
第四ステージに初めて挑戦した時の古民家探索の時は、ボクを先行させようとしたあのSな御主人様がボクを気遣うだなんて。あの時は結局ギャーギャー騒ぎ抗議をするボクに根負けして、懐中電灯片手に手を繋いで進む事になったのだけれど。
そこで御主人様の顔を見てついつい微笑んでしまう。
だってやっぱりなんだかんだ言っても、御主人様はボクの事を思ってくれているわけだから、ね。




