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第1話 「女鍛治師ライナは勇者様を拾う」

【タイトル・あらすじ・エピソードタイトル、鍛治→鍛冶】強面スキンヘッドの店主が手にした短剣を何度も角度を変えながらまじまじと見つめている。


眉間のシワが深くなるにつれ顔の怖さが増してくる。


「この剣、嬢ちゃんがつくったのか? それも3本」


店主は私に一切顔を向けていない。


なのに刀身にときおり映る店主の鋭い眼光が私に緊張を与えてくる。


「そうです」


「そうか⋯⋯」


店主はため息まじりに剣をカウンターの上に置く。


「このお店においていただけるでしょうか?」


「できないな」


「⁉︎ どうして⋯⋯」


「たしかにこの剣は見た目こそよくできている。研ぎ方も上手だ」


「だったら!」


「女がつくった武器は売れない。それが答えだ」


またか⋯⋯


店内を物色している客たちのヒソヒソ話が聞こえてくる。


『女が打った剣だって』


『すぐ折れたりしてな』


『スライムすらまともに切れなさそう』


「もうわかっただろ嬢ちゃん」


ボロ切れのフードを目深に被ってそそくさと店をあとにする。


これで17軒目、この街の武器屋は全滅。


どこも同じ理由で断られる。


どの店も女というだけで持ちこんだ剣に見向きもしてもらえない。


ここの店主に手に取って貰えたときはさすがに期待値が上がった。


だけど答えは同じ。


店の外に出ると空はどんよりとした雲に覆われていて今にも降り出しそう。


フードの中はもうポツリと降り出しているか。


私、ライナ・グランツが父の工房を継いで鍛冶師となってから3ヶ月⋯⋯


いまだにナイフひとつ売れない。


このままでは貯金が尽きるのは時間の問題だ。

 

次に訪れたのはいとこのトーレが働いている冒険者ギルドだ。


ロールした長い金髪に一見、穏やかそうな印象を与える糸目、思わずツンツンしたくなるような頬。

そんな彼女が受付をしている窓口に、私が調合したキズ薬入りの瓶を並べる。


「ライナ、いつもありがとう」


いつものおっとりとした口調で礼をいうトーレ。


よく切り傷をつくるけどお金がない。そんな駆け出し冒険者向けに安いキズ薬を卸している。


「毎度」


「ねぇ、ライナ、武器の方はどうだったの?」


「まーたいつもの。女だから⋯⋯だってさ」


まぁこんなチビで華奢な体型の私が打ったなんて言ったら、武器屋だって不安になるのはわかるけど⋯⋯


こんなときばかりは“出るとこ出た”トーレの身体がうらやましく思う。


「私はライナのつつましい体型好きよ」


「ちょ、ちょっと私の心を読むなよ」


「だって顔に書いてあるんだもん。だけどおかしいわね。おんなじおばあさんとおじいさんの孫なのにどうしてこうも違うのかしら」


「孫だからでしょ」


「ライナ、それでも女としての身だしなみは怠っちゃダメよ。髪なんてボサボサだし、お肌も手入れしてないでしょ。服装だって」


「ああもう。女だからダメって言われたと思ったら今度は女らしくしろって言われた」


私のおしゃれなんてせいぜい茶色い長い髪をポニーテールにまとめるだけですよ。


服なんて煤で汚れた白い半袖シャツ一枚が基本だし。


「剣だけじゃなくてちゃんと女も磨いてね」


「じゃあその乳よこせ」


「ダーメ。ダーリンのなの」


「ケッ」


トーレの旦那様はここのギルドマスターだ。


「ねぇ、ライナ。この際いうけど、あなた薬屋になりなさいよ。ライナの薬、結構人気なんだよ。

入荷するとすぐ売り切れるんだよ」


「イヤだ。言ったでしょ。私は“グランツ・ファクトリー”のオーナーになったの。鍛冶師として認められるまで続けるよ」


「そうやっていつまで山の中でひとりで暮らしていくつもりなの?」


「生憎と山の中だから食べるものには困らないのよ」


「だからって女の子がいつまでもひとりでいたら危険よ」


「それは⋯⋯」


「ライナ、ダーリンとも話したんだけどね、一緒にこのギルドで働かない? ちょうど空き部屋もあるから

ライナがよかったら住んでもかまわないのよ」


「トーレの誘いは嬉しいけど新婚夫婦水入らずの生活をお邪魔するほど私は困ってないよ」


「はぁ⋯⋯今回も平行線ね。だけど今夜も手伝ってくれるんでしょ」


「もちろん」


山を降りて街にやってきた日はトーレのいる冒険者ギルドでバイトをしている。


制服に着替えて、クエスト終わりの冒険者相手にウェイトレスとして精を出している。


「はい。ステーキお待ちどう様」


「お、今日はライナちゃん来てるんだね」


「どうもー」


「お姉さん、こっちのテーブル、オーダーまだー」


「はーい。すぐ行きまーす」


今夜のギルドもクエストの緊張感から解き放たれた冒険者たちで賑わっている。


しかし愛想笑いを振りまく仕事はどうも苦手だ。


冒険者の顔色うかがったり、自慢話に付き合ったり、酔っ払いにケツ触られたり。


我慢することが多くて。


「ライナ、冒険者さんの顔、引っ叩いちゃダメ」


「はーい」


トーレのようなああゆうふくよかな体型の方がなぜか触られないんだよなぁ。


男の方も恐れをなしているというか、敷居が高そうにしているというか。


どちらにせよ理不尽だ。


「ライナ、なんだか失礼なこと考えてない?」


ビクッ⁉︎


「い、いえ⋯⋯」


「ねぇ、私の方を見て」


「はいッ」


ヤバイ、殺される⋯⋯


小さい頃からトーレにジーッと見つめられるとおそろしい。


「あそこのテーブル空いたからはやく食器片付けてね」


「はい!」


あぶなかった次、あの糸目が開眼したら命はない。


テーブルを拭いていると、酔い潰れた冒険者の青年がパーティーメンバーに抱えられながら帰ってゆく。


またひとり、またひとりとうさを晴らした冒険者たちが帰っていった。


こうして夜は更けてゆく。


そして最後のひとり、いつものカウンター席でしんみりとひとり飲んでいたベテラン冒険者がギルドをあとにする。


「トーレ、じゃあ私帰るね」


「ライナ、夜も遅いから今日はここに泊まってきなよ」


「いや、遠慮させてもらう」


「どうしてよ」


「となりの部屋から聞こえてくる熱々すぎる新婚夫婦の夜の営みの声に寝付ける自信ないの私」


「もうライナたら」


「私は大丈夫だから。また今度ねトーレ」


そういって私は走ってトーレの前から立ち去る。


街の灯りがほとんど消えていて辺りが薄暗い。


今晩のギルドはいつもより混んでいたから帰るのも遅い時間になってしまった。


これじゃあトーレが心配するわけだ。


幸い雲がないから月あかりのおかげでまだ歩ける。


このまま走っていけば30分くらいで家に着くかな。


時間はかかるけど“ハッハッハッ”と呼吸を整えて走れば楽チンだ。


寝る前に身体を動かすとぜったい気持ちよく眠れるんだから。


トーレのお言葉に甘えればよかったなんて後悔は決してしていない。


そうだ。明日は太陽より遅く起きてやる。


太陽のヤツがあきれるくらいに。決めた。


それでも帰りの山道は登りだからきついなぁ。


こんな時間に動物に遭遇したくないし。


だから草むらから変な物音とか立てないでよね。


ドキッとするから。


「ようやく我が家の門が見えてきた。ん?」


ちょっと待ってなにアレ?


門柱にあたりにもたれかかっている黒い物体は何?


なんかちょっと動いているし恐い⋯⋯


ここはお母さんの結界の外だし。


グランドウルフとか人を食べるモンスターだったらどうしよう⋯⋯


私がからだをすくませていると、月あかりが黒い物体を照らしはじめた。


「⁉︎」


人だ⋯⋯それも男の人。


しかも血を流して倒れている。


「大丈夫ですか⁉︎」


私はその男の人に駆け寄って声をかける。


「ん、ん、ん⋯⋯」


意識はないが息はまだある。


それにしてもすごい血⋯⋯


硬い鉄の鎧が肩口から胸にかけて裂けている。


「いったい何と戦ったらこんな⋯⋯」


右手に握られている剣なんて真ん中から真っ二つに折れている。


しかし背中にマントがついた鎧なんてただの冒険者じゃない。


「け、剣を⋯⋯剣をつくってくれ⋯⋯」


剣?


もしかしてこの人、お父さんが生きてると思ってここに?


とにかく今は手当が先だ。


「重い⋯⋯」


私は負傷した男性を引きずりながら家の中まで運んだ。


防具を脱がして上着を破いたら本当にすごい傷だ。


肉が裂けてる。


お父さんが使っていたベットに横にして、麻酔薬を口に含ませたら口移しで男性に飲ませる。


そしてお母さんが昔調合した塗り薬を傷口に塗る。


「うッうあああ」


「大丈夫。さっき飲ませた麻酔が効いてすぐ楽になるから」


あとはアリアドネの糸で縫合するしかない。


「もう少しだから我慢するんだよ」


「ああああッ」


縫合も終わり、男性は麻酔の効果で静かに寝ている。


「気づいたら血だらけだな。感染症が心配だから。久しぶりに湯を沸かして身体を洗うか⋯⋯

明日は太陽を拝まず沈むまで寝てやる! 太陽のあっかんべー」


はぁ⋯⋯ひさびさにお湯に身体をつけると疲れがとれる。


うちの庭に温泉が噴き出さないかな。


「さてと、あの冒険者さんも2、3日は目覚めないだろうし、私もさっさと寝よう」


しまった。着替えは自分の部屋だ。


とりあえずタオルだけ巻いて⋯⋯


ん? 工房に灯りがついている。なぜ?


「あ、アレ、私さっき自分でつけたっけ⋯⋯」


おそるおそる中を覗いてみるーー


するとそこには剣を手にした半裸の男性が立っていた。


『きゃあああ』


私は腰が砕けてその場に尻もちをついた。


「す、すまない。驚かせるつもりはなかった」


「あなた⋯⋯」


よく見るとさっき手当した男の人だ。


茶色がかった短髪に凛々しい瞳。


ガッチリとした肉体で立ち上がるとこんなに背が大きいんだという印象だ。


そんなこと言っている場合じゃない。


最低でも3日は起き上がれないはずの大けがだったのに、歩いて立っているこの男は化け物か?


「この剣はいったいなんなんだ⋯⋯これをつくったのはここのオーナーか?」


「わ、わたしです⋯⋯」


「君がコレを?」


ああ、そうだ。


女がつくった剣とバカにされ、笑われた私の剣⋯⋯


「素晴らしいよ」


「⋯⋯すばらしい⁉︎ 私の剣が?」


「そうだ!この剣ならいける。お願いだ俺にドラゴンを討伐できる剣をつくってくれ!」


「ド、ドラゴン⋯⋯」


さっきから何を言っているんだこの男は。


私の剣が褒められて、ドラゴンを倒すとか頭が混乱してきた。


もしかして夢? いや、私疲れているんだ。きっとこれも幻覚の類⋯⋯


てか、ちょいちょいさっきからこの男、私を見るたび視線を逸らしたりするのは何? 


不気味だな!


“ハッ⁉︎”


私はおそるおそる視線を落とした。


案の定、尻もちをついた拍子でタオルがはだけて隠さないといけないところがあらわになっていた。


『きゃああああッ!』

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