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女鍛治師のライナ わけあり勇者様と魔女の箱庭でスローライフ  作者: 悠木真帆


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第2話「勇者様とはじめる奇妙な同棲生活」

グッモーニング“太陽”


ご機嫌はいかが?


今朝もあなたより先に目が覚めたわ。


どう、くやしいかしら。


私?


私は一睡もしていないくてむしろ清々しい気分だわ


ハハハハ⋯⋯


ちょっと待って、そんなに眩しくしちゃってどうしたの?


怒ってるの?だって仕方ないじゃない。


家族以外の男性にはじめて裸を見られたのよ!


それに口づけだって⋯⋯


うっ、それはノーカンにしましょう。


なんせ人命がかかっていたんですから。


「ふーッ 集中、集中」


窯で熱した玉鋼を握った槌でリズミカルに叩く。


うーん。この音。この音。


“キン”“キン”“キン”


鉄を叩く音を聞くだけで癒される。


そして極め付けは水に入れたときの“ジュー”って音。


”うーん、快感“


それでもまだお父さんの叩く鉄の音には敵わない。


子供のころよく隣で椅子から乗り出すように顔をのぞかせて見ていた。


お父さんの叩く鉄の音にはいつも胸をときめかせていた。


ああそうだちょうどあんなふうにして⋯⋯


「あッ⋯⋯」


昨晩の男が椅子の背もたれを正面して頬杖をつきながら澄ました顔でこちらを見ている。


「おっと。気にしないで続けてくれ」


「い、いつのまに! お願いですから横になって安静にしててください」


「こんないい音色を聞かされていたらおちおち寝ていられないよ。

へー、剣ってそうやってつくるんだね」


「私の気が散るからやめてください」


「こうしてる方が今は楽なんだ」


「⋯⋯じゃあそこで静かにしててください」


集中、集中⋯⋯


窯の熱、そして30回以上も叩いてると、額からポタリ、ポタリと汗が玉鋼の上に落ちては蒸発する。


⋯⋯⁉︎


“汗”


そんな男の人にマジマジと見られているのに。


ちょっとやだ! 臭いとか大丈夫かな。


あっ脇に汗まで。


ん?


背後に人の気配。


“クンクン”


うなじのあたりに息が⋯⋯


「いい匂いじゃないか。気にすることはない」


「ちょっと何するんですか⁉︎」


「気にしているようだったから心配しなくていいぞと伝えたかった」


「だからって臭いを嗅ぐことはないじゃないですか!」


「俺は好きだ。その匂い」


「いやああああッ! いいからあっちの部屋で横になっていてください!」


変態だ。とんでもない変態を拾ってきてしまった。


心を乱された。


鉄を打ちはじめたら中断ははできない。


集中しなきゃ、集中⋯⋯


ところでーー


”ドラゴンを倒せる剣ってどんな剣なのだろうか”


大型の肉を切断するんだからやっぱりずっしりと重い剣?


いや、だけどドラゴン自体は巨体でも尻尾による攻撃が素早いって聞くから対処できない。


折れていた剣は一般的なロングソードだった。


だったらいっそ刀身を短くして、小回りのきく片手で扱える剣?


それで尻尾をいなしながら連続攻撃⋯⋯って何を考えてるのよ私。


「いかん、いかん集中ッ!」


この私がドラゴンを倒す剣なんて⋯⋯


「集中ッ!」と、両手で頬を叩いた。


山中に響く鉄の音。


鉄を叩けばその音がこだまとなって返ってくる。


とても心地よいーー


雑念を忘れることができる贅沢な時間だ。


気がつけばいつも1時間は経っている。


「ふーん。ひと段落ついた」


さて朝飯にでもするかーー


そうだった。あの変態の分も用意しないと。


その前に着替えるか。シャツも汗で濡れて冷たいし⋯⋯


「⋯⋯⁉︎」


もしかして男の人の前で半袖シャツ一枚ってひょっとしてマズいのでは⋯⋯


昨日、トーレに言われたことが”ズンッ”と重くのしかかる。


『ライナ、それでも女としての身だしなみは怠っちゃダメよ。髪なんてボサボサだし、お肌も手入れしてないでしょ。服装だって』


「⁉︎ 脇!もしかして見えちゃった!ああ、ちゃんと手入れしとけばよかった」


うう⋯⋯トーレのいうこともっと素直に聞いておけば⋯⋯


「ん?」


漂ってきた香ばしい香りが鼻をヒクヒクさせる。


「これってオリーブの香り? 庭の方だ」


庭に出ると変態男が焚き火でスキレットを煮詰めている。


「おっ! 作業は終わったか?」


「こんなところでなにをしているの?」


「ハハッこわい顔しないでくれ」



「昨晩世話になったお礼にと軽く料理をつくっていただけさ」


スキレットの中にはトマトやブロッコリーといった野菜がオリーブオイルで煮詰められている。


「そこにできていたオリーブの実と野菜を勝手に使わせてもらった」


「おとなしく寝てねぇと開くぞ傷口」


「アヒージョだ。こんな冒険者の野営料理しか用意できなくてすまないな」


くやしいがさっきからこの変態が作った料理に空腹を刺激されている。


「この庭はいいな。庭の畑にはたくさんの野菜がつくってあってそばには川まである。

きっとあのとんがった岩山の雪解け水が源流になっているんだな。魚も豊富だし、あの滝壺も水浴びにはちょうどいい。

水車まであるからあそこは麦畑か。挽きたての小麦粉でつくるパンはおいしそうだ。ここはまるでちょっとした領地だ」


「魔女の箱庭よ」


「魔女?」


「みんなはそう呼んでる」


「君は魔女なのか?」


「違うわ。私は鍛治師よ」


「俺はグレイル・シュレールだ。ここまでしてもらっておきながら名乗るのを忘れていた。

勇者をしている者だ」


「勇者?」


だからマントのついためずらしい鎧を着ていたんだ。


「君は?」


「ライナ・グランツよ。導かれてやってきたようだけどその願いは叶わないわ」


「どういう意味だ?」


「あなたが期待するような剣が打てるのは父くらいよ」


「父上は健在ではないのか?」


「3ヶ月前、流行していた疫病で亡くなったわ。両親ともね」


「じゃあ、君はひとりでここに?」


「そうよ。女のひとり暮らし。だからケガが治ったらさっさと出ていってね」


「君の剣を⋯⋯君の打った剣を手にするまではここを離れたくない。ライナ」


くっコイツ⋯⋯やっぱ変態だ。


なんで私が顔を赤くしなきゃいけないのよ。


「あっ!このトマトそろそろいいかしら。いっただきまーす。うーん、熱々でおいしい」


「口にあったならよかった」


「この野菜をつくったのは私なんですけど」


「そうだった」


思わず話そらしちゃったけどコイツ勇者なんだ⋯⋯


「ねぇ⋯⋯ドラゴンってやっぱ強かった?」


「圧倒的だったよ。こっちは20人で挑んだというのに傷ひとつ与えられなかった。

目の前で友の身体が上下に別れた。それもたった一撃。死んだ仲間たちの遺体はどれも人の形を留めていなかった」


人間の胴体が簡単に真っ二つになるスピード“に”ダメージを通さない硬い鱗“か⋯⋯


「生き残ったのは俺だけだった。使える武器はもう残っていない。それでもドラゴンを倒さなくてはと武器を求めて森を彷徨っていた。そしたら鍛冶屋の看板を掲げた門を見つけて驚いたよ。まさかこんな森の中に鍛冶屋あるなんて思わなかった。そしたら安堵してそのまま意識を失ってしまった⋯⋯」


「魔女の力に引き寄せられちゃったか⋯⋯」


「また魔女って。ライナ、君はいったい?」


「ああ、今のは気にしないで。それより⋯⋯」


気がつけば私はぶつぶつとつぶやいていた。


「おい、どうしたんだ」


「ねぇ、私につくれるかな? ドラゴンをやっつける剣」


「作ってくれるのか?」


「作ってみたくなっちゃったかも私。それにケガが治るまで放っておけないし」


こうしてケガが完治するまでを条件に勇者との奇妙な同棲生活がはじまった。



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