ルージュ、盾を授かる
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面接の翌日は買い物に出かけた。
他のメンバーはいくつかの装備を購入して貰っていたが、私が購入して頂いたのは盾のみだ。
勿論、合計額は他の二人と同程度であり、アレク殿の判断で一点集中で良い物を選んで貰った結果だ。
それというのも、私には自前の使える装備があるのだ。
全て鉄製である為、ハスティール殿の装備には劣るが、私の今のレベルを考えれば、当面は困る事が無いだろう。
むしろ、購入して貰ったこの盾があれば、少し格上の相手でも平気かもしれない。
「ふ、ふふふ……」
現在は就寝前の時間で、私は与えられた室内で休んでいた。
本日提供された夕食は満足の行くもので、食後には風呂まで用意された。昨晩からたったの一日しか生活していないが、ここの生活は異常なまでに待遇が良い。
このクランでの生活レベルは、下手をすると実家よりも良いかもしれない位だ……。
そして、私は風呂から上がってずっと、購入して貰った盾を眺めていた。
その盾はカイトシールドと呼ばれるタイプで、幅が広くて胴体位は全て守れてしまう。
盾の騎士を名乗るからには、バックラーの様な小型の盾では様にならないだろう。
「ふっふっふ……」
その素材は、ミスリルと鋼鉄の合金である。鋼鉄による堅さと、ミスリルによる魔法防御力を併せ持つ素材である。
この盾があれば、武器だけで無く、魔法による攻撃も防ぐ事が出来るだろう。
「ふはははは……」
しかも、盾の内側にはルーンと呼ばれる魔法文字が刻まれている。これにより、更に堅さと魔法防御力が上がっている。
オマケ程度らしいが、少しの傷やへこみを自動修復する効果もあるらしい。
そう、この盾は只の盾では無く、マジックエンチャントされたマジック・アイテムなのだ。
「ああ、何て美しいんだろう……。よもやこれ程の逸品を、こんなに簡単に下賜して頂けるなんて……。私は何という幸せ者なのだろう……」
まずは冒険者として生活する事を第一に考えていた。腕が上がり、生活に余裕が出来れば、まずは剣や盾を鋼鉄製に買い替えるつもりだった。
ミスリル合金のマジックアイテムなんて高価な代物は、数年は手に入らないと考えていたのだ。
それ程の逸品が、今は私の手に中にある。これを喜ばないでいられるはずがない。
明日から訓練と聞いているが、下手をしたら今夜は眠れないかもしれないな……。
「……いや、それは駄目だろう。流石に狩りの初日から失敗する訳にはいかん」
私は名残惜しい気持ちを抑え、盾をベッドの上に置く。
そして、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。このままでは寝れそうにないので、ワイン辺りを貰いに行くのだ。
勝手に厨房に入るのは不味いだろうから、まだメイドが起きていれば良いのだが……。
私は自室のある二階から降り、一階のリビングへ向かう。
すると、そこにはアレク殿とメイド、それにクラン事務局の女性職員が集まっていた。
「おや? アレク殿達は何をされているのですか?」
「……ルージュさん? えっと、今はメリッサさんに販路の相談に乗って頂いていました」
「販路ですか……?」
私がアレク殿のソファーへ近づくと、メイドが私に紅茶を入れてくれる。
本当はワインが良かったが、アレク殿が紅茶なのに、私だけが飲む訳にもいかないだろう。
私はアレク殿に勧められるまま、空いているソファーに腰掛ける。
「ええ、私は錬金術師のスキルで、マジックアイテムやポーションを作る事が出来ます。最近の市場の傾向として、何が不足していて、どういった経路でなら販売が可能かを確認していたのです」
「ここ最近はポーションが不足気味で値上がりしています。販売は商業ギルド経由で行えば良いのですが、商人でないアレク様では、どうしても手数料の分だけ損をする事になってしまうのです」
「とはいえ、私のクランで個別販売は出来ないですし、他に良い手は無いですかね?」
「アレク様が商人ギルドに所属する手もあります。ただし、こちらは年間の会費が発生しますし、指定アイテムの納品の様なノルマがあるらしいです。そういう意味では、元が取れるかは難しい所ですね」
「うーん、やはり使う時間を考えると、素直に手数料を払うべきかな……」
「…………」
二人の会話に着いていけず、ただ紅茶を飲んで聞いていた。どうやらアレク殿は、手数料を払いたく無いらしい。
しかし、そこまで頭を悩ませる事なのだろうか?
「アレク殿、手数料とはそれ程に大きな物なのですか?」
「うん、これが中々に馬鹿に出来ないんですよ。例えば、一番安い初級ポーションは200Gで売られています。この内の5割が販売手数料として商人ギルドの取り分になります。私は1個のポーションを作って売っても、100Gしか受け取れ無い訳です。材料費を考えると1個50G程の儲けにしかならないでしょうね」
「……労力がどの程度かわかりませんが、わざわざ作らなければ良いのでは無いですか? 普通の冒険者はそうしますし、その場合は細かい計算等は必要無くなると思うのですが?」
私には不思議でならなかった。今日はあれ程の大金を簡単に支払ったアレク殿である。それが、数十Gの儲けで頭を悩ませている。このギャップがどうにも理解出来なかった。
どうやら私とした事が、感情が顔に出ていたらしい。アレク殿は苦笑を浮かべて説明してくれる。
「一回の素材販売では大した差では無いでしょう。しかし、集まった素材をそのまま売った場合と、マジックアイテム等に加工して販売した場合では、二割から三割程の利益差が生れます。更に市場の需要に合わせて生産販売を行えれば、場合によっては五割増しにすらなるかもしれません」
「そうですね。今はポーションの価格が三割増しとなっています。買い取り額も同様に上昇する事になりますね」
メリッサと言う女性職員も同意らしい。確かにそう聞けば、クランの収入面は大きく変わるだろう。
しかし、普通の冒険者はそんな事をしない。製造を行うスキルが無い事もあるが、それよりもその時間を狩りに割こうと考えるからだ。
「生産や販売に時間を割くのですよね? それなら、その分の狩りを行えば良いのでは無いですか?」
「生産は夜の空いた時間や、六日毎の休憩日に行います。販売も販路さえ決まれば、後はメアリーが手配してくれる事になってますよ」
メイドがペコリと頭を下げた。どうやらメアリーという名前だったらしい。
使用人と思って名前を確認していなかったが、今後はきっちりと覚えておく事にしよう。
どうもアレク殿はそういう態度を取ると、少々表情を変える事があるからな……。
「いえ、それではアレク殿の時間はどうなるのですか? 我々が休んでいる間に、アレク殿だけが働いている事になるではないですか?」
「それは気にしないで下さい。メンバーの生活環境を整えるのは、リーダーの役割だと思ってますから。それに、ボクが好きでやっている事でもありますしね」
アレク殿はおどけた様に肩を竦める。この事で私達に気を使わせたくは無いのだろう。
しかし、それを聞いてしまった後では、生活の一つ一つにアレク殿の努力が浮かんでしまう。
私は手にした紅茶のカップを、じっと見つめて考え込んでしまう。
「ルージュ様、少し宜しいでしょうか?」
「……え、ああ、構いませんよ?」
突然、メアリーが声を掛けて来た。
このタイミングで声を掛けられるとは思っておらず、私は少々戸惑った態度を見せてしまった。
そんな私に、メアリーは感情を押し殺した様な態度で、私に対してまくし立てる。
「まだルージュ様は、ご主人さまを正しく認識されていないご様子。ご主人さまはクランメンバーの皆様や、私の様な使用人の生活を含め、全てを支えるだけの甲斐性をお持ちの方で御座います。それなのにご主人様の負担を気にされるなど、それはご主人様の能力を疑うにも等しい行為です。私から見ると、ルージュ様の行為はご主人様への侮辱に思えるのですが?」
「アレク殿への……侮辱……?」
メアリーの辛辣な言葉に茫然となる。メリッサ殿は当然と言わんばかりに、大きく頷いて同意している。
アレク殿はギョッとした目でメアリーとメリッサ殿を交互に見つめていた。
「主に仕える者として、主が何を望んでいるかを知るのは当然の事です。例えば、ルージュ様に用意されたその紅茶を受け取らない事は、ご主人様がお望みになる事でしょうか? ご主人様がルージュ様へお望みの事は、もっと別の事では無いのでしょうか?」
「それは……その通りだ……」
まさか、メイドに諭されるとは思ってもみなかった。
しかし、言っている事は至極正論である。これこそが、主人に仕える者の心構えという物なのだろう……。
今ならメアリーの感情が理解出来る。自らの敬愛する主人に対し、その能力を疑われたのだ。
笑顔を保ってはいるが、その裏側は怒りで煮えくり返っているのだろう。言葉の端々から、その感情が溢れ出している。
私は至らない自分に反省する。メアリーに直接謝っても良いのだが、この少女はそれを望まないだろう。
その為、私はアレク殿に対して頭を下げた。
「失礼な発言と行動、申し訳ありませんでした。アレク殿の能力を疑うなど、有ってはならない事です。私はただアレク殿ご好意に感謝し、頂いた恩を盾でもって返させて頂きます」
「……ち、ちょっと待った! 別に謝る必要なんて無いですから! 何も失礼な事なんて無かったですからね!?」
アレク殿は私の謝罪に対して、寛大に許す姿勢を見せる。それどころか、私の失言自体を無かった事にしてくれるらしい。
なんとも心の広い主人である……。
私はふっと表情を緩め、アレク殿に感謝の気持ちを示す。
「はははっ。アレク殿は実に寛大なお方の様ですね。私はこのクランに加わる事が出来て、本当に幸せ者だと思います」
「ええ、ルージュ様は非常に幸運な方だと思います」
今度はメアリーも優し気に微笑んでくれる。メリッサ殿でさえ、祝福する様に慈愛に満ちた表情で頷いていた。
どうやら、メアリーだけでなく、メリッサ殿もアレク殿を敬愛する一人らしい。
私は二人の同志を得る事が出来て、非常に心強く感じていた。
「ルージュ様、何かお困りの事が御座いましたら、クラン事務局へお訪ね下さい。私に出来る事でしたら、何なりとお手伝いさせて頂きます」
「ありがとう御座います。その際は宜しくお願いします」
メリッサ殿はスッと右手を差し出す。当然ながら、私はその手を強く握りしめる。
更にその上に、メアリー殿が手を添えた。
「ルージュ様、日常の生活面では、このメアリーがサポートさせて頂きます」
「ありがとう御座います。また至らない所があれば、ご指導をお願いします」
メアリーは良い笑顔で微笑む。どうやら、私の事を同志として認めてくれるらしい。
きっとこの先も、二人には色々と助けて貰う事になるのだろう……。
三人の気持ちが一つになっていると、アレク殿がぎこちない動きで三人を見る。そして、慌てた様子でオロオロし始めた。
「え、どうして握手してるの……? っていうか、何で三人の気持ちが一瞬で繋がったの……? 三人のボクを見る目が凄く怖いんだけど……!?」
アレク様の様子を三人で温かく見守る。そして、この主人の力になるのだと心に誓う。
きっと二人も私と気持ちは同じはずである……。
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