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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第三章 クラン結成編

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ハスティール、ゴブリン島の戦い(後編)

お盆期間(11日~15日)は毎日更新します!

楽しんで貰えれば幸いです♪

 迫り来るゴブリンの群れに、オレはグッと身構える。


「サンダー・ストーム!」


 唐突に放たれるリーダーの魔法。雷が群れの中央で吹き荒れ、十匹程のゴブリンが焼け焦げる。


 多くの仲間が一瞬で殺され、ゴブリン達は警戒して足を止める。


 リーダーはその隙に、メンバーへと指示を出す。


「ルージュさんはリーダー中心に足止めを。ロレーヌさんは背後に回って後衛の削り。アンナはファイア・ストームで数を減らして」


 三人は即座に動き出す。慌ててオレは、リーダーに問い掛ける。


「オ、オレは何を……!?」


「……アンナの護衛を。後は待機です」


 くっ、ここでも戦力外通知なのか……。


 今のオレなら、ゴブリン位は相手を出来る。それなのに……。


 しかし、オレはグッと堪える。リーダーの指示に背く事は出来ない。


 リーダーがそう言うからには、それなりの理由があるはずなのだ。


「わかりました……」


 オレが答えると、リーダーはオレから視線を外す。そして、ルージュとロレーヌへ支援魔法を掛け始める。


 ルージュは数十のゴブリンを前に一歩も引かない。


 ロレーヌは一体ずつ確実に、アーチャーとシャーマンを倒している。


 アンナちゃんは精神回復ポーションを手に、広範囲魔法を使い続けていた。


 オレはアンナちゃんの側で控える。そう、アンナちゃんの護衛も重要な役目だ。オレが守る事で、リーダーが自由に動ける様になるのだから。


 ……しかし、仲間達が必死に戦っている。そんな中で、オレはまた見ているだけ。オレはその悔しさに、歯を食い縛った。


 この道は茨の道と知っていたはず。これまでだって、同じ事はあったはずだ。


 ……だが、オレは視界が涙で滲む。オレの心が違うと叫んでいた。


 ルージュも、ロレーヌも、アンナちゃんも、オレのレベルアップを祝ってくれた。戦闘に貢献出来ないオレを、仲間として扱ってくれた。


 オレは初めて仲間が出来て、本当に嬉しかったのだ……。


 そして、何より重要なのはリーダーだ。オレに居場所を与えてくれた。戦う力も、大切な仲間も与えてくれた。彼だけは、オレの夢を認めてくれたのだ。


 それにも関わらず、オレはリーダーの力に成れていない。与えられた恩を、少しも返せていない。


 オレのこの力が、独り善がりな物である為に……。


 オレは痛む心に耐えながら、ゴブリン達の動きに注視する。


 せめて、アンナちゃんを無傷で守らないといけない。もし彼女が傷付く様な事があれば、オレはリーダーに合わせる顔が無くなってしまう。


 ……そうやって警戒していたからだろう。そいつの存在に、オレは誰より先に気付く事が出来た。


「……なんだ……あいつは!?」


 通常のゴブリンは、人間の子供サイズである。しかし、奴は成人男性を越える体躯を誇っていた。


 手には巨大な剣を持ち、体は金属の鎧で覆われている。毛皮のマントを纏い、首や腕にはアクセサリを付け、頭には金の王冠まで乗せている。


 更に、周囲には多くのゴブリンリーダーを侍らせていた。


 これではまるで、噂に聞いた事のある……。


「……ゴブリンキング。やはり、いましたね」


「ゴブリンキング……!?」


 オレは驚き振り返る。リーダーへ逃げるべきだと進言しようとした。


 しかし、振り返ったオレは、リーダーと目が合った。その目に怯えの色は無かった。


 リーダーはオレの事をじっと見つめていた。


「ハスティールさん、爆裂波動拳の準備です」


「なっ……!?」


 オレにアレを倒せというのか……?


 あれはシルバー級クランでも、安全を期して三パーティーで対応すると聞いた事がある。そんな魔物を、オレが倒せるのか?


 バッと振り返り、ゴブリンキングを見る。奴の登場でゴブリン達は活気づき、ルージュが押され気味になっていた。


 しかし、取り巻きのゴブリンリーダーは加勢に回らない。主を守る為に寄り添い、周囲を警戒している。


 戦う多数の同胞よりも、主の方が重要なのだとその態度で示していた。


 オレは咄嗟に無理だと思った。オレの拳が届く前に、取り巻きがそれを防いでしまう。オレでは奴を倒せない。


 ――しかし、不意にあの時の言葉が脳裏に蘇る。


『必要な環境は全て整えます』


『後は信じられるかだけです』


 初めてリーダーに合ったあの日、オレはリーダーに何と答えた?


 オレは何度、リーダーに付いて行くと心に誓った?


 オレがやる事なんて、一つしか無いじゃないか……。


「……わかりました。環境は整えて下さい」


「ええ、任せて下さい」


 リーダーがニッと笑う。それは、自信に溢れた、いつもの笑顔であった。


 その笑みに勇気を貰い、オレはゴブリンキングに向かって構える。そして、慣れた動作で体内に気を溜め始めた。


 ルージュの鎧は酷い有り様だな。致命傷だけ盾で防ぎ、後は無視して体で受けたのだろう。


 ロレーヌも小さな傷が体中に見える。流石にあの数が相手では、完全に気配を消し切れないのだろう。


 アンナちゃんは青い顔をしている。いつもは余裕で精神力管理を行っているのに、それだけ余裕が無いという事だ……。


 体内に気が溜まったのを感じる。オレは続いて金剛の構えを取る。こちらはすぐに、気が体の表面を被う。


「……リーダー、準備が出来ました」


「アンナ! ファイア・ウォールを縦で中央に!」


 リーダーの指示にアンナちゃんが頷く。そして、彼女はすぐに指示通りの魔法を解き放つ。


「「ファイア・ウォール!」」


 アンナちゃんに重ねる様に、リーダーも同じ魔法を使う。ゴブリンの群れを割る様に、炎の道が生まれた。


 ゴブリン達は、立ち上がる炎に戸惑う。そして、熱から逃げる様に距離を取り始める。


「エンチャント・ウェポン!」


 リーダーの魔法が、オレの拳に向けられる。オレの拳は、炎の様に赤い色を纏っていた。


 そして、炎が生れて丁度1分。炎の壁は役目を果たし、一瞬で消えてしまう。


 そして、その跡には、ゴブリンキングへ繋がる道が出来上がっていた。


「行け、ハスティール……!」


 リーダーの叫びが聞こえる。オレは頷き、足を踏み出す。


「縮地……」


 縮地は、オレが新たに習得したものだ。


 その用途は、瞬時に短距離移動を行うもの。ただの移動スキルである為、普通の武道家が取らないマイナースキルである。


 しかし、縮地には隠れた用途が存在した。それ故に、オレはこのスキルを取る事を選んだ。その用途とは、爆裂波動拳とのコンボである。


 そもそも、爆裂波動拳には欠点がある。その欠点とは射程距離が短い事だ。このスキルは金剛の構えから繋げる為、通常は移動しながら使えない。


 その為、近接戦闘で金剛の構えを取るか、相手が近寄るのを待つ必要があるのだ……。


 しかし、縮地はスキル間に挟んで、スキル同士を繋ぐ事が出来る。タイミングはシビアになるが、移動しながら発動する事が出来るのだ。


 オレは無人の道を駆ける。オレに気付いた、ゴブリンキングは焦りが見えた。


 それと同時に、取り巻き達が慌てて前に出る。そして、主の壁になろうと身構えた。


 ――しかし、それを許す我らのリーダーでは無い。


「エアロ・バースト!」


 風の爆発が生じ、小柄な取り巻き達は吹き飛ぶ。ダメージは殆ど無い。だが、ゴブリンキングから壁は取り除かれた。


「爆裂波動拳……!」



 ――ズドン!!



 オレの拳が胴を打ち抜く。


 ゴブリンキングは砕けた鎧を撒き散らし、後方へと吹き飛んで行く。


「………………」


 場に静寂が訪れる。全てのゴブリンが、自分達の王に目を向けていた。


 しかし、彼らの王は立ち上がらない。胴体が消し飛び、身体が上下に分かれた王は、ピクリとも動かず大地に伏していた。


 その死を疑う者は、この場に誰もいないだろう。


 オレは僅かな気怠さを感じる。縮地を合わせて使った反動だ。精神力の消費はやはり大きい。


 しかし、オレはそんな事を気にしたりしない。オレは体内で駆け巡る快感に浸り、それどころでは無かったからだ。


 やがて、ゴブリン達の視線がオレに集まる。自らの王を倒した存在に、恐る恐る視線を向けていた。


 オレはゴブリン達に、ニヤリと笑って見せる。オレはスッと拳を掲げる。


 そして、ゴブリン達はそれを茫然と見上げていた。


「……オレの……勝ちだ!」


 オレは勝鬨を上げる。数匹のゴブリンがビクリと反応し、慌てて逃げ始めた。


 それに気付いた他のゴブリンも、その後に続いて森へと逃げて行く。気が付くと、全てのゴブリンが逃げ始めていた。


 オレはそれを見て、思わず笑いが込み上げて来る。


「……くっ……あははははっ……!」


 ゴブリン達には今のオレが、とても恐ろしく見えるのだろう。圧倒的な支配者であった王が、たったの一撃で倒されたのだから。


 それがオレには、酷く可笑しく感じた。


 一ヵ月も前のオレは、街では誰もが知る役立たずであった。一匹のゴブリンを狩るのが精一杯で、薬草を集めて日銭を稼ぐ程度の奴だった。


 ……そんなオレが、ゴブリンキングを倒したのだ。


 それも拳を使って、たったの一撃である。ギルドマスターに話せば、また頭を心配されるかもしれないな。


 そして、一人で笑っていると、拍手の音が聞こえて来る。音のする方へ視線を向ける。


 すると、リーダーが拍手しながら、笑顔でやって来た。


「ハスティールさん、おめでとうございます。今日のMVPは貴方で間違い無いですね!」


 戦闘で初めてリーダーに褒められた。その事に嬉しさが込み上げるが、その感情はグッと抑える。


 そして、わざと不機嫌そうな表情で呟く……。


「ハティだ……」


「え……?」


 意味がわからなかったらしく、リーダーが目を丸くする。


 いつも驚かされてばかりだ。今日はオレの方が驚かせる事が出来て、オレはまた可笑しくなって来た。


 そして、オレはリーダーにニヤリと笑って見せる。


「親しい奴は、オレをハティと呼ぶ。リーダーには、そう呼んで欲しい」


「……わかった。ハティ、これからも宜しく!」


「ああ、こちらこそ!」


 オレは拳を握って前に突き出す。それを見たリーダーも、同じく拳を突き出した。


 オレとリーダーは拳をぶつけ合い、お互いの健闘を称えあう。


 ……ああ、オレはこれを求めていたんだな。


 子供の夢から始まった冒険者生活……。叶わぬ現実に絶望する日々……。


 そして、一人で生活する中で、周囲のパーティーを羨む気持ちが生れていた……。


 今のオレなら、ロックゴーレムも一撃で倒せる。その夢は叶ったと言っても良い。


 しかし、今のオレにとっては、どうでも良く思えた。オレの夢は、気付かぬ内に形を変えていたからだ。


 オレが望むのは、この拳で仲間を守る事だ。他の仲間では倒せない敵がいるなら、オレがそれを倒してみせる。ただ守られるだけで無く、オレも仲間を守って行くのだ。


 ……そんな自分になれれば、オレは自分をカッコイイと思える事だろう。


 気付くと、リーダーが前を指差していた。そこには、座り込んだルージュとロレーヌが待っていた。


 ふと見ると、アンナちゃんが隣でオレを見上げていた。


 オレは新たな夢を胸に秘め、リーダーと共に仲間の元へと歩き出した。

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