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白のネクロマンサー ~死霊王への道~  作者: 秀文
第三章 クラン結成編

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ハスティール、海底洞窟(B1F)へ潜る

クラン加入メンバー視点。

 海底洞窟に潜り、三日目で金剛の構えがLv5に上がった。四日目である今日は、地下一階へと向かうとの事だ。


「地下からは魔物が強くなるけど、基本はこれまでと同じで良いよ。ただし、ヤドカリが出たら、ハスティールさんに爆裂波動拳を使って貰います」


 ようやくオレにも出番が来たらしい。リーダーの口振りから、既にオレは爆裂波動拳を覚えられる様だ。


 耐えた日数は十日程度のはずだが、とても長い日々に感じる……。


「……ヤドカリとは、どんな魔物ですか?」


「ああ、ヤドカリは通称ですね。正式名称はメタル・ハーミットクラブ。魔法に反応して、貝殻に籠る習性を持つ魔物です。その習性から、魔法で倒すのが困難な相手なんですよ……」


「なるほど……」


 これまでの狩りは、アンナちゃんの魔法頼りだった。それが通じないと、オレ達のパーティーでは苦戦が予想される。


 そこでオレが役立てるという事か……。


「あ、ちなみに、ヤドカリ以外はこれまで通り、投石をお願いしますね?」


「はい。わかりました……」


 出番はヤドカリだけらしい。そして、それ以外はこれまで通り、変わらずお荷物のままらしい……。


 肩を落とすオレを気にせず、皆は海底洞窟に向かい出す。オレは慌てて、その後を追って行く。




 そして、ロレーヌとルージュは慣れた様子で洞窟を進んで行く。この辺りの魔物は特性も把握し、二人は危うげ無く捌いて行く。


「今日はこちらですね」


 洞窟も半ばで、リーダーは脇道に逸れる。この道は、初めて進むルートである。しばらく進むと、地下へと続く下り坂が現れる。


「ここからは魔物の質が別物です。始めの内は、慎重に進みましょう」


 リーダーの言葉に一同が頷く。ロレーヌは緊張を滲ませ、ゆっくりと先へ進む。


 そして、オレ達は慎重に進み、魔物を一体ずつ相手して行く。


 現れる魔物はベノムアネモネ、アクアスネーク、ソードフィッシュ等。いずれも、一階とはまったく別物の強さだった。


 それというのも、地下一階の全魔物が、スキルや魔法を使うのだ。初級冒険者であれば、下手すると近付く前に殺される。


 この階層は完全に、中級冒険者以上しか踏み込めないエリアであった。


「一対一なら問題無さそうですね。複数対も試したいですが……今日は様子見だけにしときますか?」


 ルージュとロレーヌが、慌てて首を縦に振る。流石の二人も、まだ複数相手は自信が無いみたいだ。


「おや? 待望の魔物が現れましたね……」


 リーダーが楽しそうに指差す。一同は指先に視線を向く、ギョッと目を開く。


 その魔物は、確かに見た目がヤドカリだった。


 ……しかし、やたらとデカイ。貝殻まで含めば、三メートルは軽く越えている。しかも、貝殻は鉄を含むのか、銀色に輝いている。


「ボーッとしてると、アッサリやられますよ? ルージュさんはしばらく足止めを。ハスティールさんは、爆裂波動拳の準備をお願いします」


 ルージュはヤドカリを見上げ、その頬を引き釣らせる。振り返ってリーダーを見るが、リーダーはニコリと微笑むだけだ。


 ルージュは諦めた様に、ヤドカリへ足を向ける。


 ロレーヌとアンナちゃんは、哀れむ様にルージュを見送る。オレは他人事では無いので、慌ててリーダーに質問する。


「リーダー。爆裂波動拳は、どうやって使えば良いんですか?」


「え……?」


 リーダーは不思議そうにオレを見る。オレは何かおかしな事を言っただろうか?


 リーダーはしばらく考えていたが、程なくして説明を行ってくれる。


「……まずは、練気で力を溜めます。その次は、金剛の構えで全身に気を纏います。そして、最後は全ての気を相手へ解き放つと良いです」


「わかりました。やってみます」


 リーダーは力強く頷いて見せる。そして、オレはリーダーの指示通り、まずは体内で気を練って行く。


 力を溜める間に、ヤドカリに目を向ける。ルージュはしっかりと足止めをしていた。


 しかし、重量差はどうしようもない。受け流しが綺麗に決まらず、何度も体勢を崩されかけている。あまり長くは持たないかもしれない……。


 続いてオレは、金剛の構えを取る。こちらはすぐに効果を発揮し、体全体が気に覆われるのを感じた。


「リーダー。準備が出来ました」


「ルージュさん! ハスティールさんの元へ!」


 リーダーの叫びにルージュが反応する。彼は一目散にこちらへ駆けて来る。当然ながら、ヤドカリも彼を追いかける。


 ……迫る巨体を見ると、その圧倒的な迫力に恐怖を覚える。


 自分の倍程のサイズを持つ化け物なのだ。生物として、命の危機を感じるのは当然の事だと思う。


 ルージュがオレの隣を駆け抜けて行く。その顔は、普段見ない様な必死さである。


 しかし、オレはルージュに尊敬の念を抱く。こんな化け物に対して前へ出て、短い時間とはいえ一人で耐えたのだから。


 そして、化け物ヤドカリがオレの射的圏内へ入る。奴は邪魔だと言わんばかりにハサミを振り上げる。


 しかし、オレは構わずに拳を振り抜く。リーダーの言葉を信じ、全ての力を奴へと解き放った。



 ――ズガン!!



「………………」


 場に沈黙が訪れる。誰もがその結果を、瞬時には理解出来なかったはずだ。オレは拳をゆっくりと下ろした。


 オレの足元には、金属っぽい欠片が散らばっていた。かなり離れた場所には、ヒビだらけの巨大貝殻が転がっている。


 ……そして、衝撃が放射線に広がったのだろう。ヤドカリの肉片が、オレを中心に扇状に飛び散っていた。


「うーん。実際に使うとこうなるのか……」


 リーダーの呆れた声が響く。振り返って見ると、リーダーは何故かホッとした表情をしていた。


 ルージュとロレーヌは目を丸くして固まっている。オレ以上に、理解が追い付いてなさそうだ。


 そして、アンナちゃんは眉を寄せて、嫌そうな顔をしていた。肉片飛び散るこの光景が、彼女には衝撃的過ぎたかもしれない。


「リーダー、やりまし……おえぇぇ……!」


 唐突に訪れる気持ち悪さ。そして、オレはその場で激しく嘔吐する……。


 すると、リーダーがゆっくり進み出る。


「エナジー・インジェクション」


 オレの体が青い光に包まれる。すると、先程の気持ち悪さが、嘘の様に引いて行く。


 オレは顔を上げてリーダーを見る。何故かリーダーは、気まずそうに視線を逸らしていた。


「すっかり忘れてました……。爆裂波動拳は、使うと精神力が尽きてしまいます。レベルが上がると消費量が減りますので、それまでは耐えて下さい……」


「そ、そんな……」


 リーダーの説明にサッと血の気が引く。爆裂波動拳を使う度に、毎回嘔吐する事になるのか?


  レベルが上がるまでに、何回の爆裂波動拳が必要になるんだ……?


 オレがその場に崩れ落ちる。オレが落ち込んでいると、何故かアンナちゃんがやって来た。


「これをあげる……」


 顔を上げると、青い瓶を差し出していた。


 差し出されたアイテムは、精神力回復ポーションだろう。彼女が持つアイテムを分けてくれるらしい。


「あ、ありがとう……」


 オレは感謝を告げて、精神回復ポーションを受けとる。頷くアンナちゃんの目には、初めて見る優しさが浮かんでいた。


 ……彼女のこの目は何だろう。今のオレの状況に共感している?


  まさか、アンナちゃんはいつも、こんな修行を重ねて来たのだろうか?


 ふと気付くと、ルージュとロレーヌがいつもの目をしていた。オレに対する哀れみの目である。


 爆裂波動拳を覚えても、オレの立ち位置は変わらないらしい……。


「安心して下さい。次もまた、精神力はボクが回復しますので」


 リーダーはニコリと優しく微笑む。その笑みに、オレは表情が強張るのを感じた。


 オレは今までリーダーの笑みを、優しそうとしか感じていなかった。


 しかし、今はその笑みが、とても恐ろしい物にしか感じなかった……。

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